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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第二章 彼らは孤高の生徒会長とヒロインその1、又は、斜陽の令嬢と主人公その1、でした。

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外伝 前編 彼は物ぐさな顧問又は物ぐさな当て馬、でした。

一万字オーバーです。

 






 【主従は三世と言いますが】



 『親子は一世、夫婦は二世、主従は三世』


 これは主従の絆がいかに強いものかをたとえて言うことわざ、


 では、兄弟はどうかと言うと、一世ももたない、そう言うものらしい、


 じゃあ、俺達姉弟はどうか?



 それはもちろん他称カミサマ公認で──永遠だ。



 【弟だった俺と担当だった男】



「最終話が雑誌に載ったら結婚を申し込もうと思う」


 俺は担当編集である男にそう切り出された。


 ここは俺が最終話の原稿をしている二階の仕事場、今は俺と男の二人だけ、俺の大事な姉兼相棒は一階の台所で夕食の支度をしている、


「んー? もちろん俺にじゃないよね?」


「ああ、弟先生では無く、姉先生に、だ」


 つまらん冗談で相手の反応をうかがうが男は大真面目に答える、


「ふーん? 付き合ってもいないのにいきなり結婚?」


「うむ、実は指輪も買ってある」


「うわー、あんた本当異常、つーか、キモい」


 そう、こいつは狂わん(異常な)ほどにねーちゃんを愛している。


 ねーちゃんに好かれようとそこまで好きじゃない乙女ゲームを睡眠時間削ってやったり、ねーちゃんが食べたいって言ったものを何時間も並んで買ったり、ねーちゃんが作った弟の俺ですら食べられない激辛料理を完食したり──翌日寝込んだそうだ──もう、引くほど必死だ、


「ふむ? まあ、弟先生に引かれても別に良いが」


「……なんつーか、そういうとこ本当にムカつく……まあ、兄にしたく無いほどじゃないけど」


 男性恐怖症のねーちゃんが触れ合ったり、笑い合える男は俺とこの男だけだ、俺は真っ当なシスコンだから結局こいつ以外ねーちゃんと恋愛関係になれる男はいない、だから、


「んー? まあねーちゃんの一番は俺だけど……二番にはなれるんじゃない?」


「うむ、俺もそう思う、だからその時は同居人としてよろしく頼む」


 男は自信満々に言い放ち、そして俺に頭を下げる……なんつーか、


「やっぱあんたムカつくしキモいな」


 俺が義兄になるだろう男を白い目で睨むと、


「弟ー、担当ー、ご飯が出来たぞー」


 俺達の最愛が階下から声をかける、


「んじゃ、冷めないよう早く下りるか」


「うむ……ちなみに最終話の内容は……」


「言わない、出来てからのお楽しみ」


 俺達は夕食を一緒に摂った、


 そしてそれが俺達姉弟の最後の晩餐で、担当との今生の別れになった。






 生まれ変わった俺はねーちゃんの兄になった、


 移住してきた世界は前世やってた乙女ゲームの世界だった、


 俺はサブ攻略対象者、ねーちゃんはヒロインその1、そして担当・・はゲームではメイン攻略対象者でその1の婚約者だった男に転生した。



 お坊ちゃま中学生をやっている俺、桜花院覚おうかいんさとりは目の前のキラキラしい子供を観察しながら思う、



 ──こいつ本当におかしい、そしてキモい、と。



 【俺の三十七年目の初恋】



 前世の俺は女性不信だった。まあ、欲の対象としては色々と見れたから漫画家になるまでは食い散らかしました、……ええ最低ですよ?


 そんな俺だが五歳で初恋を迎えた、そして今まで十年以上思い続けている……正直元治(もとはる)君を笑えない、……あー、なんつーか……まあいいけど現状維持中だし、

 





 俺と初恋の彼女との出会いは初雪の夜だった、俺は誰も踏み荒らしていない新雪を鑑賞しようと裏庭に出た、そこで彼女を見つけた、


「ねぇ、凍死はたしかに一番楽で綺麗な死に方らしいけど、さすがに家の直ぐ側では止めてほしいな~」


 鳥籠を思わせるフェンスの向こう、もたれかかる少女は柔らかそうな栗色の髪を我が家に侵入させ、ぼんやりと雪に埋もれていた、


「……君は天使?」


 少女はぼんやりと俺を見、そしてぽつりと尋ねた、


「はい? いやいや、普通の人間の子供だよ~」


 むしろ君の方が天使っぽいって、プックリとした可愛らしい容姿といい、無垢で無感情な表情といい、……というより物騒な発言をした俺が天使って……、ああ、もう、仕方ない、


「んー、とりあえず鍵、開けるね~? ……そっちは開いてる?」


 凍死は楽らしいが俺は彼女を死なせたく無くなった、もちろん俺も死ぬ予定は無い、結論として屋内に入るべき、なので彼女を家に連れて行く、そういう当然の帰結に至った俺はフェンスの向こう──圓城寺えんじょうじ邸とを結ぶ門を開こうとする、これはまだ両家が尊敬しあえる関係だった時に作られたもの、当然鍵は掛かっているが俺は開け方を知っていた、


 そして圓城寺側の鍵は掛かっておらず──こういうところに圓城寺の末期ぶりが現れている──俺は彼女を連れ家に戻った。



「女の子を家に連れ込む幼稚園児とかやだわ~」


「幼稚園児にそんな発言をする母親の方がやだよ~」


 勝手口から家に入ると重そうな腹を抱えた母が待っていた、


「んー? その子は?」


「裏の家に住んでるみたい、死にかけてたから連れて来た」


「はは、さすがお裏サマ、素晴らしく壊れてる、くく、まあいいわ~、使用人の子供なら、家で拾っても文句は言われないでしょ~。そもそも気付くかすら疑問だしね~」


 母は彼女を家で匿うことに賛成してくれた、そして俺達親子の会話の焦点だった少女は、


「……その方は聖母さま?」


 と、相変わらずだった、……というよりこの毒婦が聖母……まあビジュアルは似合うけど。



 俺達親子の予想に反し翌日には彼女を探していると二人の男が我が家に来た、彼女の兄だという大学生ぐらいの青年と裏の家、圓城寺の次期当主である少年、圓城寺司皇(しおう)が、


 そして、その二人と家の両親との間にどんな会話があったのかはわからないが彼女──三澤梅子みさわうめこは家で暮らすことになった、それは十二月二十八日、彼女の九歳の誕生日の翌日のことだった。



 梅子は一年ほど我が家で暮らした、そして帰った、圓城寺家は司皇一人になった、


 彼女は何も言わなかった、だが母が俺に教えたことによると──彼女は司皇の妹と同い年だった、彼女の方が半年ほど後に生まれた、彼女は圓城寺の娘達に家でも学園でもいじめられていた、彼女の両親は娘を守らず主家に諾々と従っていた、


 圓城寺の内情を俺は知らない、だが圓城寺司皇が屋敷から血族もほとんどの使用人も追い出したことは、


 正しい、そう思った。



「ねぇ、覚君は梅子ちゃんのどこが好きなの?」


 彼女が帰り新たな年を迎え少したった頃、圓城寺邸にあるガラス張りの温室で俺はこの温室の主である少女に唐突に尋ねられた、


「んー? 一目惚れ」


「えー? それでも色々とあるでしょ?」


 白いブレザー姿の女性は好奇心を全面に出し俺に迫る。別に言っても良いが……多分後になるだろう、俺は温室の戸が開いたのを見てそう思う、


「はは、香奈子かなこ姉さん顔が近いよ~」


「? それよりも……」


「香奈子」


 地の底から響くような声で名前を呼ばれた香奈子姉さんはギクリと体を強張らせる、そしてギギっと振り返り、


「司皇……」


 と、震える声で幼さの残る恋人を呼んだ、


「覚、香奈子と少し話し合わねばならない、お前は席を外せ」


 中一には似つかわしく無い色気を出しながら司皇お兄ちゃんは命じる、本来俺が彼に従う義理は無いが……、


「りょうか~い」


 まあ、馬に蹴られるのはゴメンだ、



 俺は香奈子姉さんの質問にずっと答えられてなかった、彼女は留学や結婚、妊娠と、色々あったし俺もそれなりに忙しい子供時代を過ごしていた、だから姉妹を先に帰し、二人っきりになった異様なほど居心地がよい病室で俺は唐突に言った、


「俺が梅子のどこが好きかって言うとね~、梅子のあの世界に期待して無いところが好き、どこもかしこも柔らかいところが好き、笑った時に左頬に出る笑窪が好き、不器用で要領の悪いところが好き、結局全部好き」


 香奈子姉さんは微かに目を見開いた後、


「そう」


 と、笑ってくれた、そしてその表情が俺が思い出す『香奈子姉さん』になった。

 


 【彼女は鳥籠から出る】



 学園では俺と梅子はほとんど接点が無い、なにしろ彼女は三つ上、校舎が違う、そして生徒会に無理矢理入れられた俺と違い彼女は図書委員という余り活動の無い委員会に入り、そして役持ちでも無い、なので職務の一環で会うことは無い、


 とは言え図書委員は俺が彼女に会うには絶好の役目だ、なにしろお人よしな彼女はほぼ毎日高等部の図書室のカウンターに座っている、けれど城生院は小中高の校舎それぞれに図書室はあるが大学部の敷地に馬鹿でかい上に硬軟取り混ぜた大量の図書と広い閲覧スペースと学習室がある図書館があるのだ、当然各校舎の図書室は過疎ってる、なので、


「覚様? 今日も画集の模写ですか?」


「んー、そう……この湖面が……水って難しい」


 放課後の高等部図書室、その奥の学習室、テスト前には混むこの部屋も平時の今は誰もいない、そこで俺は今日も暇な梅子をカウンターから連れ出し隣に置く、


 今、俺は印象派の画家の画集を模写している、記憶を取り戻した俺は余りにも我流過ぎた前世を反省し、美術の勉強を始めた……まあ、今度も独学だが、とは言え、城生院は美術特待生がいる学校、美術書や画集等様々なテキストがあり、独学でもかなりしっかりと学べる、


「……あの、前々から思っていたのですが、覚様は美術部などには入らないのですか?」


「んー、生徒会とか忙しいし~、何より俺は画家になる気は無いもん」


「はあ、では覚様は将来何になる予定なのですか?」


「んー、物理教師」


「…………ええと、覚様は物理よりも生物の方がお得意では?」


 本当は教師の方をツッコミたそうな梅子だが気を遣い担当科目の方を聞く、ちなみに俺と梅子の関係は少し微妙、俺は創立者の子孫の上中等部生徒会代表、容姿端麗、頭脳明晰、文武両道のスクールカーストのトップ、そして梅子は使用人の家系で図書委員で平均体重をオーバー気味の容姿のいわゆる三軍だ、共に学年一位ではあるが俺は称えられ、梅子はがり勉と揶揄される、なので梅子は俺と仲が良いことを周囲に知られたく無いそうだ、


 正直俺としては梅子が俺の『お気に入り』であることを知らしめ、色々と牽制したいところだが、梅子の希望だ仕方ない、


「梅先輩、得意なのと教えるのが上手いはイコールじゃないよ~? むしろ苦手な方が親身になって教えられるってこともあるし」


「はあ、では覚様は物理が実は苦手……」


「まあ俺は苦手や弱点が無い人間だけどね~」


 これは事実です。俺は前世から勉強も運動も細々とした手仕事も人付き合いも、すべて適当に熟せる、それも一定水準以上で、だから本来教師には向かないタイプ、……まあ、多分教師も適当に熟せるだろうけどね、


「……そうですよね、覚様はそういう人ですよね……」


「で? 梅先輩は進路どうするの?」


 梅子は高校三年生、半年後には卒業だ、


「はい、私は精神科医になってスクールカウンセラーを目指します」


「…………ねぇ? 桜花キャンパスには医学部は無いよ?」


「? ええ、ですので西の医学部キャンパスに通います」


「……ええと、つまり引っ越すの?」


「はい、大学病院勤務の分家の家に下宿します」


「…………」


 城生院学園には医学部がある、大学病院もある、ただし西に、桜花市からは最低三時間はかかるところに、ちなみに梅子の家、三澤は料理人の家系で医師の家系でもある、医食同源というやつらしい、彼女の兄嫁も医師だ、なので彼女が医師を目指すのもおかしくは無いのだが……、


「……ねぇ、梅先輩、梅先輩の不器用っぷりでも医学部入れるの?」


「覚様、入試はペーパーですから」


 俺が心配になって尋ねると梅子は目をそらす、彼女はとても、とても、不器用なのだ、……卵を割るのを三回に一回は失敗するぐらいに、


「……梅先輩、約束してください、絶対に外科には近付かないって」


 俺は真剣に頼む、好きな子が人殺しになるのはごめんだ、それに対し梅子は、


「……ふふ、覚様、兄や義姉、当主様にもきつく言われていますし、……どうやら私は外科には入れないようになっているそうですので……」


 と、遠い目をしながら答える……なるほど、既に司皇お兄ちゃんは学園と使用人を守る為の手を打ったようだ、


「そう、それは良かった……でも梅先輩が桜花から出るのに変わりないよね~……淋しくなるね~」


 俺は彼女を縛る権利を持たない、なので引き止めたりはしない、けれど、


 ──司皇お兄ちゃんにちょっとお願いしとこう。


 害虫駆除程度はしても良いだろう。



 【俺は告白された】



「好きです、私を愛人の一人にしてください!」


 人気の無い高等部図書室の学習室、目の前には白のブレザーの少女、栗色の髪でクッキリとした顔立ち、出るとこの出た世間的には可愛らしいと言われる容姿、だけど、


「ごめんね~、俺人工的な子好きじゃないんだ~」


 染めた髪、薄化粧に見えるがバッチリと施されたメイク、そして寄せて上げてパットでかさましした胸、一切ときめかない、


「っていうか~、愛人希望とか無いわ~……安い女だって自分から言ってどうするの~?」


 ちなみに俺は彼女も婚約者もいない……何故にいきなり愛人? それも複数いること前提で、


「……あっ、あの、」


「あー、それよりもさ~……君、名前なんて言うの?」


 少女は俺をキッと一瞬睨むと直ぐに泣き顔を作り立ち去った、


「……覚様、女の子をイジメるのは良くありませんよ」


 書庫に隠れていた梅子が飽きれたように窘める、いや、いや、


「ほぼ初対面の男にいきなり愛人にしてとか言う子だよ~、あの程度で傷つく訳無いじゃん」


「まあ、そうですけど……というよりも何故愛人なのでしょうか?」


「ホント何故に、だよね~」


 まあ、よくあるけど、


 俺は結構告白される、その半数以上が愛人希望、何度も言うが俺はフリー、


「んー? 実は婚約者がいる、とか思われてる?」


「……いるのですか?」


「いや、全く心当たりが無い」


 司皇お兄ちゃんに梅子を予約しているけどこれは口約束にも満たない契約、知ってる者も両手で数えられるほど、なので違う、


「まあ、私は少し彼女達の気持ちもわかりますが」


「んー? 気持ち?」


「ふふ、覚様は余りにも完璧過ぎますから、恋人になろうとかとても恐れ多いと思ってしまうのでしょう」


 はい? 完璧? 俺が?


「……ただの器用貧乏なのに~」


 恐れ多いとか無いわ、むしろ人格等は最低ですよ? 俺、


「……梅先輩も恐れ多いとか思う?」


「いえ、覚様はおおむねいい加減な駄目人間ですから」


「正解……はあ~、めんどくさいわ~、完璧人間認定とか」


「ふふ、頑張ってくださいませ……私がいなくなっても」


 今日は高等部の卒業式があった、梅子はこの後直ぐに西に旅立つ、


「んー、明日から梅先輩がいないとか、癒しが足りないよ~」


「ふふ、ありがとうございます」


 三年間を共に過ごした図書室ともお別れ、多分明日からは来ることも少なくなるだろう、


「覚様」


「ん?」


「私は貴方が大好きです」


「うん、知ってる~」


「恋人にしてください」


「んー、今は無理」


 俺は告白された、そして断った、けれど、


「今は無理、だから……代わりに卒業祝い」


 俺は監視カメラから梅子を隠し口づけた、


「ねぇ、梅子、梅子は諦めの悪い子だよね?」


 そして、婉然と微笑みながら言った、


「はは、いい子で大学生活送るんだよ~? ……俺の好みは新雪のような女の子だから」


 梅子は真っ赤になって頷いた。



 【城生院気質というモノ】



 転生して気付いた、城生院の三家は血統的にヤンデレだ、愛する女性の為に中学生で家を掌握した圓城寺司皇しかり、一目惚れした男を手に入れる為に彼とその婚約者の家を追い込んだ桐生葵きりゅうあおいしかり、愛する女性を自らの理想像のままでいさせる為に結果として子供を捨てさせた父上しかり、だ、


 だから年子の姉達が執事体質の恋する相手を縛る為、家事等の能力を捨てたことも別に気にしなかった、……馬に蹴られたくは無い、ただ、前世を思い出した元姉で現在妹のゆーちゃんがゲームで城生院気質そのままだった向かいの子供達の生活改善を言い出した時は正直止めたかった、


 が、訪れた桐生家でゆーちゃんを狂おしいほどの熱をもって見つめるキラキラしい子供を見た瞬間──これは手遅れだ、そう痛感した、そしてその表情に既視感を覚え、それを追求した時に気付いてしまった、


 あっ、こいつ担当だ、と、


 そして、奴のゆーちゃんを手に入れる為の努力や策謀や害虫駆除──これは手伝った──を知る度に疑問に思う、これは城生院気質か、それとも元々の魂の性質か、


優菜ゆうな、お前が好きそうな絵を手に入れたのだが」


 嬉々としてゆーちゃんに貢ぐ美少年を見れば答えは出た、どっちもだ、と、


 そして、当然ながら俺も城生院気質ヤンデレだ、これは『桜花院覚』に生まれたからなのか、それとも元々の性質か、……まあ、前世では恋など知らなかったからわからないが、初恋を知った俺は残念ながらそうなった、


 とは言え、これには少々困ってしまう、なにせ俺とゆーちゃんはゲームキャラを演じている、恋人はいない設定だ、なのに俺の血は彼女を奪え、閉じ込めろ、枷を付けろ、と、言って来るのだ、だから俺は、


「ねぇ、ねーちゃん、ねーちゃんはヤンデレは」


「? 大っ嫌いだが?」


 うん、シスコンで良かった、これで犯罪者にならずに済む、


 まあ、外堀は埋めてるけど。



 【ゲーム期間が始まりました】



 ゆーちゃんは中学二年生になった、ゲーム期間が始まった、設定は既に行方不明だ、


「んー、これはどうとるべきなんだ? 正直紗々蘭(ささら)ちゃんが幸せそうなのは良かったが」


「はは、圓城寺の転生者さんは良い仕事してるよね~」


「ああ、だが圓城寺の転生者が誰なのか、桜花院に敵対しないか、そこらへんはわからん、やはりキャラ通りで行こう」


 正直、『桜花院家』の没落や『桐生元治』の死亡フラグ等、あのゲームには避けたいバッドエンドが多過ぎるのだ、念には念を入れるべきだろう、


「……本当にね~、圓城寺には七年ほど遊びに行ってたけどそれっぽい人に心当たりが無いしね~」


「ああ私も心当たりが無い、……ふむ? もしや、私達以外の転生者は本当はいないのでは? 実際はただ私達のように余所から来た魂が入って人格が変わっているだけでは無いのか?」


「ああ、それはあるかも、人格は遺伝子と環境でつくられる、って言うけど、それだけじゃ転生する前に言われたことと噛み合わない……多分魂の性質って言うのがあるんだ、ねーちゃんに『世界を生み出す』能力があるように」


 『桐生元治』が『桜花院優菜』を決して傷つけない存在になったように。


 

 【鳥籠への帰還】



 俺は予定通り物理教師になった、そして梅子も夢を叶えカウンセラーとして桜花市に帰って来た。


 彼女はとても綺麗になっていた、


「覚先生、授業はいいのですか?」


「んー、この時間は無いよ~、準備時間だから」


「……ならば、準備しましょうよ」


 梅子は痩せてきつくなった顔を昔通りに眉を下げ困り顔にする、


「……ああ、やっぱり梅先輩は俺の癒しだ」


「……いえ、あの……私は主に学生の癒しになるべく此処にいるのですが……」


 高等部の隅っこにあるカウンセリングルームを俺は癒しと情報を求め訪れている、癒しは少々貰ったのでこれから情報を、


「はは、冗談はさておいて……うちのクラスの特待生、桃園についてなんですが……彼女、何か悩んでいそうですか?」


 梅子は仕事モードに入り真面目に俺と向き合う、


「……覚先生は彼女に何かあると?」


「いえ、いえ、……ただ彼女は珍しい高等部からの入学ですし……芸術特待生としては数少ない圓城寺の推薦ですから」


 基本、特待生は中等部から入る、鉄は熱い内に、才能は若い内に、ってことだ、そして圓城寺からの芸術特待生推薦は現在学園に二人だけ、なので、


「はは、新米教師としては気になってしまうのですよ」


 と、言う大義名分が通用する、ちなみにこれを梅子に聞くのは彼女が女子特待生の担当カウンセラーになったからだ、


「……ええ、そうでしょうね、ですが副担任に報告すべき問題はありません」


「んー、そうですか、ですが彼女はちゃんと定期的にカウンセリングを受けているのですよね? ならばこれからも彼女のことを気にしてください……俺が言わなくともそうしてくださるでしょうが」


「……ええ、もし、副担任である先生に報告や相談が出来たら、ちゃんとこちらから言いますので」


 予鈴のベルが鳴る、残念ながら時間切れだ、……正直癒しも情報も足りないが、まあ仕方ない、


「では、これで、今日はありがとうございました……それから」


 これだけは伝えないと、


「お帰り、梅子……君が帰って来てくれて、俺はとても嬉しいよ」


 そして、


「だけど、綺麗になったことは少し困るね~、はは、俺は嫉妬深いから」


 そう告げて、ニッコリと笑う、


 彼女は顔を真っ赤にしいとけなく俯いた。



 【弟だった俺と姉だった妹と担当だった彼】



 どうやら元治君は前世の記憶が戻ら無いらしい。


 ゆーちゃんと元治君が恋人同士になり再び婚約を結んだ、けれど相変わらず俺達は一緒に過ごす……まあ、まだ高校生だからね、……ゆーちゃんの男性恐怖症は完治まではいたって無いし、そして今日もいつも通り俺の部屋で原稿のブラッシュアップ作業を進める、


「……で、問題の七十二話なんですが……」


「……ああ、確かに「駄目だ!! お前も一緒に帰るんだ!!」より「一緒に帰ろう……みんなで」の方がキャラには合っている、が、話の流れには現状の方が合っている……まあ、たまにはキャラと違う言動をとった方が人間らしいだろう」


「……ええ、そう、です、ね、ではこのままで……」


「が、画面はもう少し切迫感があるようにした方が良い」


「うん、俺もそう思う、で、こんな感じって下書きしたんだけど」


「……ああ、凄い、この方がグッと来る」


「……ええ、確かに……さすが弟」


「はは、もっと褒めたたえて~」


「うむ、……あー、覚は本当に絵が上手いなー」


「はは、元治君は褒めるのが下手だよね~」


 ふむ? と、首を傾げる元治君、すると彼の携帯が鳴った、彼は二、三操作すると直ぐにしまった、どうやらアラームだったようだ、


「済まないが家業の手伝いがある、今日はこれで失礼する」


 そして辞去の挨拶をする、


「ふふ、今日はありがとうございます、お気をつけて」


「……ああ、では行ってきます」


 ゆーちゃんがドアまで付いて行き見送ると元治君は顔を緩め名残惜しそうに立ち去った、……なんつーか、


「ふふ、懐かしいな」


 ゆーちゃんは悪戯っぽい笑顔で俺を見る、


「……あー、気付いてたんだ~」


「はは、確信が持てたのはついさっき、たまにはキャラと違う言動を、と言われた時だ……前世でも同じ注意をされたよ」


「ふーん? じゃあ何と無く気付いたのは?」


「んー、多分中等部時代……体育祭前に言われた言葉にデジャヴュを感じた時かな?」


 お前が原稿の相談をするって言った時、当然だ、と、納得したしな、そうゆーちゃんは笑っている、


「えー、気付いて放置~? ゆーちゃん非道」


「ふふ、だって彼は前世の記憶が戻らないようだしな、……つまり新たに関係を築くしかあるまい」


「……まあ、そうだけどさ~」


「というか何故に担当も付いて来たんだ? やはり他称カミサマが作品を楽しみにしているからか?」


 ──んなの、ねーちゃんを追っ掛けて来たに決まってるじゃん。


 俺は心の中だけでツッコンだ……まあ、結構元治君を気に入っていますので、ヤンデレ嫌いの姉には言うべきでは無いだろう。



 【終幕後の予約】



「はい、梅先輩、バレンタインデーのお返し」


 三月十四日、放課後の人気の無いカウンセリングルームで、俺は梅子にチョコレートのお返しを渡す、贈るのは二人前ほどの大きさのデコレーションケーキだ、


「まあ! 綺麗でおいしそうですね、どこのお店の商品ですか?」


「はは、手作りだよ~、ゆーちゃんに怒鳴られながら作ったんだ~」


 弱点や苦手は無いと自他共に認める俺ですが菓子作りだけは苦手だったりする、……根が大雑把なので、


「まあデコレーションは完璧でしょ~? ふふ、褒めて~」


 飴細工やクリーム絞りは完璧に熟せましたけどね、


「味も問題なかったし、さ、食べて?」


「……ええと、はい、いただきます」


 若干複雑そうな表情を浮かべつつ梅子はケーキにフォークを入れる、梅子は菓子作りも苦手なら料理も苦手、料理長の妹としては忸怩たる思いがあるようだ、ま、だから手作りにしたんだけど、……好きな子をいじめたいのは男の子の本能だよね?


 そして梅子はケーキを一口食べる、するととても幸せそうに微笑みじっくりとゆっくりとケーキを堪能する、なんつーか、本当、


「はあー、やっぱり梅先輩の食べる姿はサイコー、ちょーエロ可愛い、たまらんね~」


 梅子はフォークを口にくわえて固まった、そして白い肌を真っ赤に染める、


「アハハ、その表情もたまらんね~」


「……覚先生、セクハラってご存知ですか?」


「はは、親告罪でしょ~? はは、梅先輩嫌がってないし~」


 梅子は可愛らしく俺を睨むと、軽く頭を振りコーヒーメーカーのスイッチを入れ、そしてケーキに向き合い直す、どうやら遊んではくれないようだ。



「……ごちそうさまでした」


「はい、お粗末様でした~」


 梅子は二人前のコーヒーが落ちきるほどの時間をかけケーキを食べ終えた、そしてコーヒーを色違いのマグカップに注ぐ、


「……どうぞ、……それで覚先生、今日はどんなご用件で、プレゼントを渡しに来ただけでは無いでしょう?」


「はは、本命の用事はそれだよ~? ふふ、ちょっとプライベートな用事もあるけど、……ね~、時間くれる?」


「プライベート、ですか?」


 梅子はキョトンと首を傾げる、


「そ、ふふ、もうすぐ来年度の休暇申請の受け付けでしょ~? はは、ちょっと梅先輩のと俺のを被らせたいな~、って、……できれば年末年始の」


「……休暇です、か? ……ええと、年末年始? あの、何の為に?」


「ん? そんなのもちろん旅行のお誘いだよ~? ふふ、クリスマスプレゼントに梅子を貰って誕生日プレゼントに俺をあげる予定」


 梅子はキョトンと首を傾げる、まだ言葉の意味を理解していないようだ、


「はは、と、言うわけで予約しとくね~、ふふ、梅子の薬指も」


 俺はポケットに入れといた我が家に代々伝わるピンクサファイアの指輪を梅子の左手の薬指にはめる、これは欧州で暮らす母に梅子にあげるから、と送ってもらったもの、既に梅子の指のサイズに直し済みだ、


「はは、恋人にはなれないけど、ふふ、婚約者になって? はは、それで来年の今頃にはお嫁さんに来てね?」


 そして俺は無言で固まる梅子の唇に俺のそれを軽くつける、


「はは、予約したからね? ふふ、逃げれないよ?」


 『桜花院覚』には恋人はいない設定、けれどばれなきゃ婚約者を作っても良いだろう、はは、城生院気質ヤンデレからは逃れられませんから。






 俺は記憶を受け継ぎ転生した、作品を完結される為に、


 だが、思い出す前に恋に堕ちた、


 そして思い出しても俺は俺のままで、


 世界は普通に動いている。






 だからね、まだ見ぬ転生者さん?


 もしゲーム知識で俺達の『箱庭』を荒らすようなら容赦はしないよ?


 はは、俺は愛する人達が暮らすこの『世界』がかなり好きだからね?


 『城生院ヤンデレ』は手強いよ?



























 あっ、そうだ、今度他称カミサマのところに行ったらお願いしないと、


 ふふ、二世程度じゃ足りないってね?



























 ──物ぐさな顧問ルート消滅しました。











 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲





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