補遺編 ヒロインを失った世界
5年近く続いた裁判がやっと終わった、あの姉弟の作品も遺産も彼らの望み通りの場所に行く。
作品の著作権を遺され、元勤め先と争う日々を終え、俺はふと気付いた、
無職で独り身、趣味も辞めた、友人もほとんどがいなくなった、
──なんの為に、俺はこれから生きるのだろう。
裁判中は夢中だった『A,sコンフリクト』を、彼らが意図しない結末にしないよう戦い続けた、
彼女は担当である俺にさえ驚愕の展開だと胸を張る最終話の内容を話さなかった、……たったひとつのヒント以外は、
──ふむ……、残りの人生を使えばあの人の遺した謎も解けるか?
ああ、そうしよう。幸い生活には困らない。
──じゃあ、まず全話読み返して……、
そう決意し、駅に向かい歩きだそうとした俺は、
背後からの衝撃に止まった、
「……っ!! アッシュは! アッシュはヒロインとっ!! 結ばれるべきだっ!!」
俺の体にナイフが生えている、ヒョロッとした青年が俺を怒鳴りつける、
──そっか、刺されたのか、
「……うむ、俺もそう思う……ヒーローはヒロインと結ばれるべきだ……」
薄れる意識の中、俺は青年に同意する。
──本当にどんな結末を用意してたんだ?
俺は死んでからも手の掛かる作家──最愛の彼女に疑問を投げ掛ける。
もうすぐ答えが得られる歓喜に頬を緩めながら。
──認識出来無い世界で、認識出来無い存在と俺は対峙する、俺の世界のカミとやらに彼女に会いたいなら、と、連れて来られたのだ、だが、
「んー、ああ、ごめん、一足違い、もうあの姉弟は新たな世界に送っちゃったんだ……作品を完結させたいと、記憶を蘇りやすくして」
──新たな世界……俺も行きたい、作品の完結も見届けたい、
「んー? ……ああ、いいね、君の魂はかなり優秀だ……ただし、君のような執着の強い子は記憶の消去と封印を念入りにするよ」
──別に構わない、彼女に会えれば、
「んー? まあ、良いか? ……かならず会える器に入れよう──我は鬼では無いから」
──じゃあ、行ってらっしゃい。
認識出来無い存在、なのにそれが手を振るのを認識しながら俺は消えていく、……決意を胸に秘めながら。
──ああ、今度こそ、この思いを伝えよう、そして……、
──一生離さない。




