第二十六話 優菜『良く詐欺師と呼ばれていた』
元治君と二人っきりの自治会室、例のチャット画面を開いたパソコンを横目に私はレース編みに励んでいる。数日前の蜂蜜さんのドレスとベールのレースに触発されたのだ。
……あの日は花嫁さんと同じくらい私達にもサプライズがあったよな。個人的にあの組み合わせは眼福なので有りなのだが、元治君は「……親友がロリコン」と、しばらく頭を抱えてたし、うむ…………ああ、集中が切れたな。
私は一段が終わったところで針を止め、紅茶を入れることにした。……うーむ、それにしても、
「……かれこれ一週間以上待っていますが来ませんよねぇ……そして今日も来ませんよね、きっと」
新婚二日目ですしねぇ。と、機密性の低い仕事をしている元治君に紅茶とサブレを差し出しながら声をかける。
「……俺は優菜と二人でいられる時間が増えて嬉しい」
ラップトップを閉じ、ソーサーを受け取りながら、最近デレを大安売りしている我が婚約者殿は照れ臭そうに言う。普段は逢瀬に監視がつけられる我等だが、彼に学校では暴走しない程度の理性はあると認められている為、この部屋限定で二人っきりになれているのだ。
「……それは私も……ですが……正直気付かれていないのかも知れませんし……新たにメッセージを送りましょうか?」
きっと例の新入生の彼女を調べると思って件のメッセージを送ったのだがな……、
「……うむ、そうだな。月末まで待って来なけれ、って来たな!」
「来ましたね!」
見ていたようなタイミングでの入室者は……ハンドルネームは名無しで……推しカプは?
「アシュ×ルド、アデ×アレ……ってまさか!?」
この王道の逆なカップルは!?
「も、元治君、もしかしてカトリーヌ? って打ってくれ!」
あのゴスロリのお方に違いあるまい!
「あ、ああ……カトリーヌさんって?」
「前世の私達の『カンナギ』を名乗る熱狂的なファン達の一人でな。とてもとても貢いでくれたお方だ」
一度借金をなさったくらいにな!
「……うむ、なるほど。そしてマイナー趣味と」
「あ、わかるか?」
君にも掛け算が。
「……普通ルド×アシュでアレ×アデだろうこと程度はな」
「うむ、その組み合わせで書かれた冊子はなかなかに多かったのだが……逆は……」
ちなみに私達姉弟は、よほどえぐい内容でない限り同人を許容していた。作者に送り届けられるのなら、と、下さい、と、
「その両方で何冊づつか出していたのがカトリーヌだ」
自給自足しか道はなかったかららしい……あ、返事が、
「……ほう、正直に頷かれたな……こちらの推しカプ? ……どう返答する?」
んー、では正直には正直で……、
「やはり我等の共同見解……「アシュ×アシュは正義」……で「アシュ×アデ派」……かな?」
「ああ、俺も優菜も覚もアデ派だしな」
性格的にもビジュアル的にも好みなのだよ。
「ついでに……「当方腐ってません」って言っておくか」
「そうだな。覚がいれば会話を弾ませてただろうが俺達では……」
あの守備範囲がえらく広い相棒と違って、
「……異性愛者はそのまま愛でたいタチだもんな私達」
A,sコンフリクトは少年誌だったから全員ノーマルだし、それに……、
「……やはり自分の中の最適カップルは譲れない」
作者だからな。
「……あ、返事「そちらと私以外に転生者がいることに気付いていますよね?」……こちらの正体は気にしないことにしたのか……これにも正直に返答で良いな? 「もちろん、当方とカトリーヌ以外に二名いることは確信している」と」
元治君は確認を求め私が頷くと即座に打ち込んだ。そして数十秒後、
「「二人?」か……では返事は事前の申し合わせ通り「そうだ。だがそのことについては直接会って話したい」……やはりあちらは彼女以外は把握してなかったんだな……ふう、なんとかイニシアチブが取れるな」
「ええ、例の子は目立った行動はとっていませんし……これで前世知識の少なさは帳消しかしら?」
例の子について私達が知ったのは私達だからだし……それにしても、
「……お、やっと返答……「何時、何処での希望はありますか?」か……」
タイムラグが目立つよな……、
「……「日時と場所の希望は無いが、できれば今回の、当方とそちらでは無い転生者の、起こした騒動の関係者一同、全てで情報を共有すべき考えている」で……どうやらカトリーヌも一人ではなさそうですし」
隠密行動できる人数じゃなさそうだ。
「だな……側にいるのは緑郎先輩か……それとも……」
「……中央塔指定……司皇様、ですね……いえ、緑郎君もいるかも知れませんが」
理事長様は確定だな。……となると、
「……カトリーヌ一人ならば最終話で釣れるかも知れませんが……司皇様達他の方の意思が反映されるとなれば……」
こちらの希望をくんでくれる可能性は低くなる。……ならば、
「……元治君例のプランで行こう!」
「……わかった」
例のプラン、それは自作品内のゲームの変形番を挑むこと、『狼探し』というそのゲームは考案者である私が最も熟知している……それに何より、
「了承したぞ……まあ、随分あちらに有利なルールだしな」
「ふふ、まあ、勝敗は重要ではありませんもの……重要なのはこのゲームでは絶対に一つ、ルールをプラスできる。ですから」
そう、このゲームでは正解者は必ず一つルールを定められる。……つまり、
「決して譲れないライン、それだけは守られます」
それ以外はどうでもいいしな。……まあ、だが、
「ふふ、私は負ける勝負は挑まん主義だがな!」
勝つにこしたことはあるまい!
「……カトリーヌさんに同情する」
婚約者殿にそんなツッコミを受ける私、桜花院優菜は前世、
「ふふ、私、前世のあだ名の一つが詐欺師ですから」
弟も担当殿も、私と賭け事は決してしなかった。




