第二十五話 一玻『だから私は残念と呼ばれる』
パスワードを打ち込んで開いたページ。
「チャット画面、ですね?」
そこにはハンドルネーム転生者で、一つの質問が書かれていた。
「A,sコンフリクトの推しカプ? ……ええとアシュ×ルド、アデ×アレ、と」
思わず素直に書いちゃいました。だって語り合いたいし!
「A,sコンフリクト?」
あ、皆さんには謎ですよね。
「前世の大ヒット漫画です。姉弟ペアでお姉さんが原作、弟さんが作画を担当し、アニメ化映画化もされた累計発行部数が全世界一億部って、神作品です。あの世界だけの作品なので……書かれたのかと」
っていうか布教したくなってきましたよっ!
「あー本当に神で! 科学じゃなく魔法が発達した近未来を舞台にした作品で、画面と台詞回しがクールで! それと随所に張り巡らされた伏線と! 奥行きのある背景と! 深みのあるキャラ造形と! シンプル故に際立つ画力がっ!」
いくらでも語れますよっ!
「あー、一玻、ヒートアップしてるとこわりぃが」
「なんですかっ!? 司皇!?」
まだまだ語りたいのにっ!
「書き込み、されたぞ」
………………あ、
「……え、あ、すみません……ええと……っ!?」
え、この名前をっ!?
「もしかしてカトリーヌ? って、え、一玻さん前世フランス人だったの?」
「……いえ、カトリーヌはペンネームみたいなもので、日本人でした」
本名あんまり好きくなかったので、公以外はそっちで通しましたが、
「……じゃあ知り合いですか?」
「……ええと、多分……頷いても、良いですかね?」
オタク仲間?
「ああ、疑問形だが確信してるようだし」
う、すみません紗々蘭さん、
「ええと、アシュ×ルドもアデ×アレも過疎で……逆なら人気だったのですが……その両方が好きなのって私ぐらいだったと……すみませんはしゃいでしまいました」
A,sコンフリクトでは常にマイナーだった私です。
「……まあ、気にすることは無いでしょう、知り合いならお手柔らかにしてくれるでしょうし」
お父さん! 優しさが染みます!
「はい、では「当たりです。で、そちらの推しカプは?」と」
だって聞きたいし!
「……まあ、直接名前聞いても答え無いだろうな」
でしょうし! で、返事は……、
「………………」
はい、なるほど、
「ええと? 「アシュ×アシュは正義」? これで予想ついた?」
「……つきません! っていうかこれ全員がそうですからっ! 主人公アシュリーと、彼に絶大な影響と名前を与えた今は亡き初恋の少女アシュリー……みんな推しですよっ!」
あの過去編は涙なくしては読めない名エピソードですし!
「……あー続けて「アシュ×アレ派」? これでは?」
「……アレクサンドラ様はサブヒロインというか主人公の婚約者という当て馬ポジで賛否共に熱烈な方が……つまりメジャーです」
気高く薄幸感漂うアレクサンドラ様は、明るく一生懸命なヒロインが苦手な層に絶大な人気があったんですよね。
「……そして続けて「残念ながら当方腐ってはおりません」……で」
「……わかりませんよー」
そういった同士もいましたしー。
「……とりあえず、情報交換してみません? ばらす気ゼロみたいですし」
「え、あ、はいぃ!」
……うう、やっぱり紗々蘭の最愛さんは……どうしても苦手意識が……、
「ええと「そちらと私以外に転生者がいることに気付いていますよね?」で」
だからあのメッセージでしょうし……って!?
「あ、早っ……えっ!? 「もちろん、当方とカトリーヌ以外に二名いることは確信している」!? ……あの、栗原さん以外にも?」
こ、こちらが把握していない子を?
「ええと「二名?」って本当に?」
誰ですかっ!?
「返事は……「そうだ。だがそのことについては直接会って話したい」……まあ、会うしかないな」
……はい、文章だけでは伝わりませんし。……でももう一人、かぁ、
「ええと「何時、何処での希望はありますか?」……できれば早めが良いですよねぇ……って、あ、えっ?」
どういう意味です?
「……「日時と場所の希望は無いが、できれば今回の、当方とそちらでは無い転生者の、起こした騒動の関係者一同、全てで情報を共有すべき考えている」ぅ? ってことは?」
「……あー、多分1の攻略対象者十二人とその恋人……ですよね?」
二十一人……いえ、かー君と元佳さんも含めますね。
「……転生者なんてことおおっぴらにしても平気なのか? あっちは……」
……普通病院行けってなりますのに。
「……平気、なんでしょうねぇ……私はまあ、別に良いんですが」
この場の皆さんは信じてくれてますし、
「……では子鞠さんと春日井殿の予定を加味……多分お二人だけか。転生とかゲームとか知らないのは」
………………あ、
「あー、ですねー、優菜先輩達、ご家族に言ってからこっちにコンタクトしたんでしょうし」
「……家族には既に受け入れられたから平気なのか」
……それは良かったですねぇ。本当に。
……じゃあ、
「……とりあえず一番忙しい司皇の予定から考えて……来週末が直近で空いてますね……一宏さんは?」
学園長様も公的には空いてましたので社会人でもあるお兄さんに、
「ええ、空いてます」
ああ、良かった。では、
「学生さん達は?」
「あ、俺、部活後の午後希望です!」
……あ、部活……学生ですねぇ。まあ、午前会議はキツイですし、
「ああ、はい、では……中央塔で昼食を摂りながら……で」
美味しいお料理は友好的空気を作りますものね。
「ああ、子鞠さんにも了承を得た」
仕事が早いお嬢様は既にアポをと、
「ではあちらにも……「来週の土曜日、中央塔で、昼食を摂りながら情報交換で、よろしいでしょうか?」と」
返事は……来ました。って!?
「……えっ? 「問題無い。けれどただ会うだけじゃつまらないだろう? ゲームをしないか?」……え、ゲームって」
どういうことです?
「……「ゲーム内容はA,sコンフリクトでやっていた『狼探し』を少し変えて『転生者探し』」……って?」
あ、はい、そもそも『狼探し』が何か? ですね。
「ええと『狼探し』は敵があるルールを決めた部屋に主人公達が閉じ込められて始まるゲームで……ええと、敵味方双方同数で、その中から『狼』つまり攻撃者を幾人か選び、それをいくつかの質問で当てるってゲームで、正解した場合一つルール内での命令権を、外した場合ペナルティが、というルールの……」
ペテンにかけた主人公が勝利する。ってラストの。熱血系主人公じゃないアシュリー君の魅力が存分に発揮された回でしたよねぇ。
「……っていうかそれ、こっちはほぼバレてるのにやる価値あるのか?」
あ、はい、そうですね。多分バレてますよね。……中央塔指定しましたし、
「あっ「もちろんそちらにメリットはある。もし当方が負けた場合はこの度の顛末は全てそちらの指示に従おう。そしてそうでなかった場合でもそちらの正解ボーナスで一つの命令権は有効だ」……か」
……こちらも三択まで狭めていますし、
「……「外した場合のペナルティは?」」
次第、ですね。
「「回答拒否の出来ない質問に一回につき一度答える」……ペナルティはそれほどではありませんね……」
最高二回、質問に答えるだけ、ならば、
「「受けます」と」
損は無い、ですね。
「……あー、やっちゃったー」
「え、緑、君?」
なんでそんな可哀相な人を見る目で?
「優菜ちゃんの親友歴十年の俺っち的予想では……多分あっちの一人勝ち」
「え、でもルール的には……」
損、無いはず、ですよね?
「こっちに不利は無いように見えるところがすっげえ落とし穴臭」
た、確かに。あちらが持ち掛けたゲームですのにっ!
「……あー、桜花院の末っ子ってそんなくせ者なのか?」
……ゲームでも何度かご挨拶した印象でもおっとり穏やかなお嬢様って印象なのですが。
「うん、俺、姫さんとお父さんの次に敵にしたくないもん」
……つまり司皇より!?
「……右に同じ」
き、君もですか最愛さん!?
「……スッゴく底が知れないですよね」
か、かー、君?
……う、ううう、うぅ、
「………………は、」
「……おう」
「はやまったーっ!!」
私、一戸一玻二十八歳。職業秘書。
欠点『迂闊』。
うう、またやってしまいましたー……。




