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第六章 底の光景

【第六章 底の光景】ーーーーーーーーーーーーーー


 どれほど沈んだのか分からない。

 冷たさは感じない。ただ泥に全身を包まれ、身動きが取れない。

 目の前には、圭介と悠斗が並んでいた。二人とも顔の半分が溶け、腐臭を漂わせながら笑っている。


 「おいで、淳」

 「こっちに来い」


 声は泡の中で響く。

 逃げようとしても、足は根のように絡まり、体は沈んでいく。

 見上げれば、水面にもう一人の淳が浮かんでいた。

 ――地上に立つ“影の淳”だ。


 彼はゆっくりと背を向け、森の方へ歩いていく。

 代わりに現実の世界を歩き出すのだ。

 残された淳は、泥の底で叫んだ。だが声は届かない。


 視界の端で、無数の白い顔が浮かんでは消えた。

 女も、子供も、老人も。どれも沼に沈められた者たちの亡骸だ。

 濁った瞳が一斉にこちらを向く。


 ――お前も、こっちに来い。


 冷たい囁きが、頭の中で響いた。

 やがて手が無数に伸び、体を引き裂こうとする。皮膚に爪が食い込み、血ではなく泥が溢れ出た。


 「やめろ……俺は……まだ……!」


 叫んだ瞬間、視界が弾ける。

 気づけば淳は、自室の布団の上で汗にまみれていた。

 夢だったのか?

 そう思った矢先、足元の床板がぐしゃりと沈み、水が滲み出してきた。


 ――沼は、もう部屋の中にまで侵入している。




#ホラー小説



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