第9話:八歳児、ガロウ師匠の拠点での過酷なサバイバル生活に挑む
新作『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第9話をお届けします!
ガロウ師匠の圧倒的なスピードについていき、たどり着いたのは辺境の森の奥深くにある隠れ家でした。そこで待っていたのは、ロマンあふれる他種族との優雅なスローライフ……ではなく、容赦のないサバイバル生活と基礎訓練の嵐! 元・地方公務員の効率脳と、ガロウ師匠のスパルタ指導がぶつかり合う、修行編第2弾をお楽しみください!
【年齢:8歳(少年期・修行編)】
ガロウ師匠の作り出す圧倒的な残像を必死に追いかけ、息を切らすこともなく辿り着いたのは、鬱蒼と繁る巨木に囲まれた辺境の森の最奥部だった。
そこには、人工的に切り開かれた小さな広場と、荒削りな丸太と石積みで作られた無骨な山小屋がひっそりと佇んでいた。周囲には清らかな小川が流れ、動物の気配を感じる。
(――ここが、ガロウ師匠の拠点……っ!)
私の胸のうちは、これから始まる過酷な生活への不安など微塵もなく、純粋な感動と興奮で満ち溢れていた。目の前にあるすべての景色が、私の「他種族オタク」としての精神を激しく刺激する。小屋の柱に刻まれた古い傷跡すら、歴戦の猛者が歩んできた歴史のロマンを感じさせてたまらない。
「ふむ……。ここまで一息でついてくるとはな。途中で泣き言を吐くかと思ったが、どうやらその生意気な口だけのペテンではなかったらしい」
ガロウ師匠は小屋の扉にもたれかかり、面白そうに片方の口角を吊り上げながら私を見下ろした。その黄金色の瞳には、先ほどまでの冷徹な値踏みとは違う、確かな認めの色が宿っていた。
「お褒めいただき光栄です、師匠。この程度の移動で弱音を吐いていては、将来、他種族の皆様と対等に語り合うどころか、足手まといになってしまいますからね」
私が澄ました顔でそう答えると、ガロウ師匠は「はっ」と短く鼻で笑った。
「他ねぇ……。相変わらず変なところで肝が据わっているガキだ。だがな、アラン。勘違いするなよ。俺のところに弟子入りしたからといって、手厚い保護や美味しい飯がタダで食えるわけじゃない。ここでの生活ルールはただ一つ、『自分の食い扶持と安全は、すべて自分の手で確保する』ことだ」
ガロウ師匠は小屋の脇に積まれた大量の丸太と、その傍らに無造作に置かれた無骨な鉄斧を指さした。
「まずはそこにある丸太をすべて薪のサイズに割れ。日暮れまでに終わらなければ、今日の夕食の肉は抜きだ。いいな?」
スパルタの洗礼は、到着したその瞬間から容赦なく始まった。
普通の八歳児であれば、この時点で絶望して泣き出しているか、あるいは重労働の前に腰を抜かしていることだろう。しかし、私は心の中で盛大にガッツポーズを作っていた。
(――きたっ! これぞまさに王道の修行導入イベント! 労働を通じて基礎筋力とボディコントロールを同時に鍛え上げる、理にかなった最高の実践カリキュラムじゃないか!)
私は前世で何百枚もの複雑怪奇な行政書類や予算案を処理してきた手前、与えられたタスクの効率的な分解と最適化には並々ならぬ自信があった。もちろん、今の肉体はまだ八歳の子供のそれだが、これまでの日々の地道な体幹トレーニングと重心移動の最適化によって、無駄な力みは一切削ぎ落とされている。
「承知いたしました。日暮れまでに完璧に終わらせてみせます」
私は力強く返事をすると、ガロウ師匠が驚いたような視線を向けるのも気にせず、迷うことなく鉄斧へと歩み寄った。
斧を持ち上げてみると、さすがにずっしりと重みを感じる。しかし、腕の力だけで無理やり振り下ろそうとすれば、すぐに筋肉が疲弊し、効率が落ちることは火を見るより明らかだった。
(力任せではなく、全身の連動性を使う。足の裏から地面の反発力を受け取り、骨格の軸を通して最小限のエネルギーで刃先に伝える……!)
私は息を整え、インナーマッスルの微調整を行いながら、最初の丸太に向かって斧を振り下ろした。
ガツン、と乾いた高い音が森の中に響き渡る。狙い違わず、丸太はきれいな断面を描いて真っ二つに裂けた。
その様子を少し離れた場所から腕を組んで眺めていたガロウ師匠の眉が、わずかにピクリと動いた。
「ほう……?」
普通の子供であれば、最初の数回は斧の重さに振られてバランスを崩すか、変なところに力が入りすぎてすぐに息切れを起こすはずだ。しかし、アランの動きには、無駄な力みが一切なかった。まるで何年も斧を振り続けてきた職人のような、驚くほど滑らかな体重移動と重心のコントロールが行われていたのだ。
それからの時間は、まさに効率化との戦いだった。
私はただ無心に薪を割り続けるだけでなく、作業の動線を徹底的に分析し、割った薪が崩れないように積み上げる場所の選定、そして作業中の体力の消耗を抑えるための呼吸法を常にブラッシュアップしていった。
元・地方公務員として培った「業務プロセスの最適化(行政チートの片鱗)」が、奇しくも辺境の森での薪割り作業においてフル稼働していたのである。
太陽が傾き、西の空が茜色に染まる頃には、山積みにされていた巨大な丸太の山は、すべて綺麗に整えられた薪へと姿を変えていた。
私は額にうっすらと汗をかきながらも、呼吸を乱すことなくすっと背筋を伸ばし、ガロウ師匠の方を向いた。
「師匠、日暮れにはまだ少し時間がありますが、すべての薪割りを完了いたしました。ご確認をお願いします」
ガロウ師匠は、綺麗に積み上げられた薪の山と、息一つ乱していない少年の姿を交互に見つめ、しばらくの間、言葉を失っていた。
彼の琥珀色の瞳には、驚愕と、そして隠しきれない深い感心が浮かんでいた。
「……お前、本当にただの八歳の人間か?」
ガロウ師匠は呆れたような、しかしどこか楽しげな低い笑い声を漏らした。
「ここまで完璧に、一切の無駄なく仕事をやり遂げるとはな。筋がいいどころの話じゃないぞ、お前……」
「ありがとうございます。前世……いえ、これまでの生活の中で、物事の効率的な手順を考えるのが少し得意なものでして」
危うく前世の公務員生活を口走ってしまったが、私は何とか子供らしい無邪気な笑顔で誤魔化した。
「ふっ、いいだろう。約束通り、今日の夕食は特製の干し肉と、この森で採れた野草のスープだ。たっぷり食うがいい」
ガロウ師匠が小屋の奥から取り出した夕食は、決して豪華なものではなかったが、薪割りのあとの体に染み入るような絶品の味だった。粗末な木製のテーブルを囲み、ガロウ師匠と並んで食事をとる。その温かくもピリッとした緊張感のある空気が、私にとってはたまらなく心地よかった。
「明日からは、本格的な剣の基礎と、『気迫』のコントロールを叩き込む。覚悟しておけよ、アラン」
「はい! どんな過酷な修行でも、すべて乗り越えてみせます!」
私の力強い返答に、ガロウ師匠は小さく鼻を鳴らしてから、満足そうに自分のスープを口に運んだ。
こうして、辺境の森の隠れ家における、過酷かつ充実したスパルタ生活の幕が上がった。
元・公務員としての頭脳と、日々のボディコントロール、そして伝説の狼の獣人による指導。これらが噛み合ったとき、少年はさらなる高みへと駆け上がっていくことになる――その確かな手応えを胸に、私は夜の静寂に包まれた森の中で、静かに目を閉じたのだった。
第9話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回はガロウ師匠の拠点での生活がスタートし、薪割りのサバイバル作業を通じてアランの元・公務員脳とボディコントロールが早くも大活躍するエピソードを描いてみました。
効率的に仕事をこなすアランと、それに驚きを隠せないガロウ師匠の掛け合いを楽しんでいただけたなら幸いです。
いよいよ次回からは、ガロウ師匠のもとで本格的な「気迫(闘気)」の特訓が始まります!
引き続き、アランの勘違いと成長の物語をどうぞよろしくお願いいたします!




