第40話:ウサギ耳の特待生と、心を開く温かなお茶会
学園生活編第40話では、エスペランサの将来を支える外交・情報担当の重要人物――ウサギ耳の亜人特待生・ミリアとの出会いが描かれます。人間たちの偏見に傷つき、心を閉ざしていたミリアが、アランの「誰に対しても変わらぬ温かな紳士的対応と、差別のないセーフティネットの思想」に触れて救われていく感動のスカウト回です。アランの内心のモフモフ愛全開の悶絶と、スマートな救済劇をぜひお楽しみください!
【年齢:13歳(王立学園編)】
王立学園の広大な敷地内にある中庭の一角、木漏れ日が心地よく差し込む静かなベンチの近く。
アラン・クロフォードは特待生制服を完璧に着こなし、優雅な足取りで歩みを進めていた。先ほどまで第一魔導工房にて天才魔導ギークのトールと共に「超効率・定常転移魔方陣」の基礎設計を鮮やかにまとめ上げた彼の脳内は、次なる重要な行政的・人事的一手への思考で満たされていた。
(――トール君との転移陣開発は順調に滑り出した。王都とエスペランサを結ぶインフラの芽は確実に出ている。だが、我がエスペランサの発展には、魔導技術や財務実務だけでなく、周辺の他種族コミュニティとの外交パイプ、そして何よりも『外の世界の正確な情報網』が不可欠だ。そして、その適任者がこの学園の中にいる)
アランの脳裏に浮かんでいたのは、特待生クラスの隅の席にひっそりと身を寄せ、誰とも目を合わさずに震えている一人の少女の姿だった。
彼女の名前はミリア・レイヴン。名門が集う王立学園において、極めて珍しい「純粋なウサギ耳を持つ亜人」の特待生である。実務的な才能や魔法の適性は確かなものがある一方で、学園内の大部分を占める人間の貴族生徒たちからの無言の偏見、冷ややかな視線、そして時には陰湿な嫌がらせにさらされ、彼女はすっかり心を閉ざしてしまっていた。
(――許しがたいですね。前世の地方公務員時代、窓口の制度の隙間で救えなかった人々の悔恨が胸を締め付ける。どれほど優れたインフラや法律を作ろうとも、そこに生きる個人の尊厳が踏みにじられる環境であれば、それは真の理想郷とは呼べない。あのウサギ耳の少女……ミリア君を、我がエスペランサの温かなセーフティネットへと迎え入れなければなりません)
アランが静かに決意を固めながら校舎の裏手へと差し掛かった時、まさにその現場へと遭遇することになった。
「ちょっと、そこの耳長。ここ特待生専用の庭なんだけど、君みたいな野蛮な亜人がウロチョロしていると、空気まで汚れる気がするんだけどわけ分かる?」
嫌味な笑みを浮かべた二人の男子生徒が、壁際に身を縮こまらせているミリアを取り囲んでいた。彼らは貴族特有の特権意識に酔いしれ、怯えている少女に対してわざと足を引っ掛けようと意地悪な笑みを向けている。
ミリアの長いウサギ耳は恐怖と警戒でピクリと後ろに倒れ、彼女は震える両手で持っていた教科書を胸に抱え込み、小さく身を縮めていた。
「っ……! わ、私はただ、次の講義の資料を……!」
「言い訳するなよ。ほら、その耳をちょっと触らせろよ。珍しい亜人の耳ってどんな手触りなんだか、見せてみろ!」
男の一人が面白半分に手を伸ばしたその瞬間――。
空気が、ふっと一変した。
風の音すら消え去ったかのような絶対的な静寂の中、二人の男子生徒の背後へ、音もなく一人の美少年が滑り込むようにして立っていた。
その足音はゼロ。気配すら感じさせない完璧な重心移動とボディコントロール。
「――おや。学園の美観を損ねるような品のない言動が聞こえましたのでね。つい足が向いてしまいましたよ」
涼やかで、しかし底知れぬ威厳と冷徹さを秘めた声が響いた。
男子生徒たちがビクッと肩を震わせて振り返ると、アランが一切表情を崩さない完璧なポーカーフェイスで立っていた。
「あ、アラン……!? い、いや、これはその……こいつが勝手に――」
「言い訳は不要です」
アランは冷ややかに一瞥をくれると、全属性同時圧縮エンチャントの微弱なプレッシャーを纏った「気迫(闘気)」の片鱗をほんのコンマ数秒だけ解放した。
それは言葉の暴力ではなく、神経系を直接制圧する圧倒的な格上のプレッシャーだった。二人の男子生徒は冷水を浴びせられたように青ざめ、恐怖のあまり悲鳴すら上げられずにその場で尻餅をついた。
「二度と、私の視界に入るような無様な振る舞いをしないことですね。……失せなさい」
「ひっ……! ご、ごめんなさい……っ!」
男たちは蜘蛛の子を散らすように、お互いに転びかけながら慌ててその場から逃げ出していった。
静けさが戻った中庭で、アランは瞬時に表情を柔らかくし、いつもの「誰に対しても温かく、包み込むような紳士の微笑み」を浮かべると、うずくまっている少女の方へと静かに歩み寄った。
「怪我はありませんか、ミリア殿」
その優しい声に、ミリアはゆっくりと顔を上げた。
恐怖で潤んだ彼女の大きな瞳がアランの姿を捉える。頭の上でピンと立った純白のウサギ耳が、驚きでわずかにぴくっと跳ね上がった。
「あ……あなたは……同じ特待生の……アラン君……」
「はい、アランと申します。お怪我がなくて何よりでした」
アランはスマートにハンカチを取り出し、泥で少し汚れていたミリアの教科書を丁寧に拭き取って手渡した。その仕草には、見下すような同情も、好奇の目も一切なく、ただ一人の人間として対等に重んじる敬意だけが満ちていた。
ミリアは受け取った教科書をギュッと抱きしめ、戸惑いながらも小さな声で呟いた。
「ど、どうして……私を助けてくれたんですか……? 私は、人間じゃなくて……その、耳が変な亜人なのに……誰も私なんかと関わろうとしないのに……」
その言葉の裏に隠された、人間社会での果てしない孤独と傷つきを察知した瞬間、アランの胸の奥で前世の公務員としての正義感と、それ以上に全オタクとしての「モフモフ尊い保護欲」が激しくスパークした。
( この恐怖に震えながらも気丈に耐えようとする純白のウサギ耳の繊細な曲線……! そして人間社会の冷たさに傷つきながらも懸命に生きようとする健気さ……! 生態系としてこれほどの宝物を放置するなど、行政官としても人間としても最大の罪悪です! 彼女が安心して暮らせるセーフティネット、そして誰にも怯えずにその可愛い耳を誇らしくピコピコさせられる理想郷を、我がエスペランサに絶対に築き上げなければならない……っ!)
内心ではガッツポーズをキメまくっていたアランだが外面のペルソナは微塵も崩れていなかった。
彼はあくまで優雅で、どこまでも温かい微笑みを崩さずにミリアを見据えた。
「人間だろうと亜人だろうと、同じ学舎で学ぶ特待生に変わりはありません。それに、ミリア殿が持つその優れた魔導の才能や、日々の真面目な姿勢は私が一番よく知っています。不当な偏見に怯える必要などどこにもありませんよ」
「私が……真面目な姿勢を……見ていてくれたんですか……?」
ミリアの瞳から、大粒の涙がポロリとこぼれ落ちた。
これまで誰一人として自分の努力を見てくれず、ただ「獣人だ」という理由だけで冷遇されてきた彼女にとって、アランのその言葉は、凍りついた心を一瞬で溶かすような、あまりにも温かく救いに満ちたものだった。
「よろしければ、少しお時間をいただけませんか。あそくだけに、温かいハーブティーでも飲みながら、これからの学園生活や……あるいは、すべての種族が笑顔で暮らせる新しい街のお話をしませんか?」
アランが差し出したその温かな手は、ミリアにとって人生で初めて掴んだ「本当の救いの手」だった。
彼女は震える小さな手で、そっとアランの差し出した指先を包み込むように握りしめた。
「……はい! 私、お話したいです……!」
頭の上のウサギ耳が、嬉しそうにパタパタと軽く揺れた。
王立学園の青空の下、ウサギ耳の特待生ミリアを温かく救出し、エスペランサの新たな外交・情報網の要へと組み込んでいくアラン。彼女の心に灯った小さな希望の光は、やがてすべての他種族を救う理想郷への確かな第一歩となるのだった――。
第40話をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ウサギ耳の亜人特待生・ミリアのスカウト回をお届けしました。人間たちの偏見に傷ついていたミリアが、アランの「誰に対しても変わらぬ温かな紳士の礼節とセーフティネットの思想」によって救われ、心を開いていく感動的なエピソードとなりました。
次回、第41話では、トールが完成させた転移魔方陣を使い、アランとスカウト組(ジュリアン、トール、ミリア)がエスペランサへ短期間の視察合宿へ飛び立ちます。アランの理想郷の初期の姿に触れ、仲間たちの忠誠心がカンストする温かなビジョン共有回――どうぞお楽しみに!引き続き応援よろしくお願いいたします!




