第27話:高貴なるエルフの王女、街道にて不本意に救われる
登場人物
アラン・クロフォード:主人公。10歳。修行編を終え、新相棒「霊刀・虚空」を携えてガロウと共に外の世界を旅する。エルフを目の前にして内心のオタクエネルギーが爆発する。
ガロウ:狼の獣人の老戦士、アランの師匠。アランの様子を生温かい目で見守る。
シルフィリア・エルフリーデ:エルフの王女。プライドが高く気が強いが、突然魔物に襲われてピンチに陥る。本当は助けてもらった恩人に戸惑いつつも、羞恥心からキツイ言葉が出てしまうツンデレ気質。
エルフの護衛騎士たち:シルフィリアを必死に守る精鋭のエルフ戦士たち。
前書き
『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第27話をお届けします!
ガロウとの真剣勝負を終えて、ついに外の世界へ飛び出したアラン。旅の道中、エルフの森(聖樹の森エルヴェール)へ続く街道の魔物襲撃スポットで、ついに運命のヒロイン――高貴なエルフの王女シルフィリアと遭遇します。「霊刀・虚空」の華麗な初陣と、「すれ違いフラれシーン」を描く、コミカルなラブコメ回を今回もたっぷりとお楽しみください!
【年齢:10歳(少年期・ロードトリップ編)】
「いやはや、外の世界の空気をこうして吸いながら街道を歩くのも、旅情があって実に素晴らしいものですね、師匠」
「お前なぁ……さっきからすれ違う亜人の商隊や旅人を見る目が、やけにギラギラしてやしないか? 修行を終えて少しは落ち着いたかと思ったが、相変わらず中身のオタク気質は一ミリも変わっちゃいねぇな」
小人族の細工街を抜け、緑豊かな王国街道を進む道中、私は隣を歩くガロウ師匠の呆れたような視線を涼しい顔で受け流していた。
私の腰には、あのドルフの工房で創り上げた最高傑作――漆黒の日本刀『霊刀・虚空』がしっかりと収まっている。その存在自体が、今の私の圧倒的な実力と精神的余裕を何よりも雄弁に物語っていた。
10歳を迎えた私は、肉体の基礎スペック、全属性同時圧縮エンチャント、そして動的リソース配分のすべてを高い次元で安定させ、名実ともに「隙のない美少年剣士」へと仕上がっていた。
(――ふふふ、外見は完璧な紳士、中身は最愛のモフモフと他種族に囲まれて狂喜乱舞する極上のロードトリップ……! これぞ私が前世から夢見た理想郷への第一歩……!)
内心でマッハの速度でガッツポーズをキメながら、周囲の自然や街道のインフラ構造を冷静に観察していた、その時だった。
前方の街道から、突如として激しい地響きと、木々がなぎ倒されるような不穏な音が響いてきた。
「……ほう。前方に厄介な連中がいるな。アラン, 遊びはそこまでだ。お出ましだぜ」
ガロウがピクリと鋭い狼の耳を立て、足を止めた。
私も表情を引き締め、前方へと視線を向ける。
木立が途切れて視界が開けたその場所は、旅人たちの間で「魔物の巣窟ネスト」として恐れられている険しい街道の分かれ道であった。
そこでは――信じられない光沢を放つ銀髪を風に揺らした、圧倒的に気高く美しい少女が、数名の護衛騎士たちに囲まれて絶体絶命のピンチに陥っていた。
尖った耳、神秘的なまでの整った顔立ち、そして纏う衣服の装飾からして、彼女が人間の圏域では滅多にお目にかかれない「エルフ族」であることは一目で分かった。しかも、ただのエルフではない。その凛とした佇まいと周囲の放つ気品は、明らかに高貴な身分の者――それも王族のそれに違いなかった。
「くっ……! 囲みを崩すな! 王女殿下をお守りしろ!」
護衛のエルフ騎士が血相を変えて叫ぶ。
その周囲を取り囲んでいるのは、皮膚が岩のように硬い中級魔物『グレイ・オーガ』の群れであった。数にして五匹。巨体の腕力から繰り出される鈍器の嵐が、エルフたちの防衛線を少しずつすり潰そうとしていた。
そして、その中心に守られている銀髪のエルフの少女――エルフの王女シルフィリアは、恐怖に顔を青ざめさせながらも、気高いプライドを捨てまいと気丈に杖を構えていた。
(――な……っ!? あれは……! 本物の、しかも高貴なエルフの王女様……ッ!!)
私の心臓が、バクンと激しい音を立てて跳ね上がった。
脳内ではすでに全オタク的データベースがフル稼働し、ファンタジー世界におけるエルフ王族の生態系、その神秘的な美しさすべてが走馬灯のように駆け巡っている。
(――尊い……! あの一糸乱れぬ銀髪のロングヘア、凛と尖った耳の曲線、そしてピンチに直面した時の気高さが混ざった絶妙な表情……! 生態系として、これほどまでに完成された芸術品がこの世に存在していいのか……!? あぁ、全エルフ族の歴史に感謝を捧げたい……っ!)
内心で脳内麻薬がドパドパと分泌され、狂喜乱舞の暴風雨が吹き荒れていたが、私の外見のペルソナは微動だにしていなかった。
私は一切の無駄な力みを排除した完璧なボディコントロールを維持し、涼やかで気品のある美少年の微笑みを顔に貼り付けたまま、ガロウを見やった。
「師匠。あのお方たちは、どうやら手強い魔物に手を焼いているようですね」
「ああ。お高くとまった耳長のお姫様ご一行ってところだな。……おい、アラン。せっかくドルフと作った新しい相棒だ。あそこの岩石頭の魔物どもを相手に、初陣を飾ってこい」
「――御意のままに」
私は一歩、街道の地面を蹴った。
次の瞬間、私の姿は残像すら残さずにシュッ! と消え去った。動的リソース配分による『風』の加速と、完璧な重心移動が生み出した神速の踏み込みである。
コンマ数秒後、私はすでにグレイ・オーガの群れのど真ん中に着地していた。
「なっ、人間の子どもが……! 危ない、下がれ!」
護衛のエルフ騎士が悲鳴に似た声を上げる。しかし、私はそんな警告を一瞥すらしなかった。
私の右手は、腰に差した漆黒の鞘に添えられていた。
「――初陣の儀、『霊刀・虚空』, 抜刀」
カチリ, と澄んだ金属音が静寂を切り裂く。
抜刀と同時に、私の全身から無色の聖光を纏った「全属性同時圧縮エンチャント」が限界突破の出力で解き放たれた。火の爆発力、水の流麗さ、風の加速、土の重厚さ、光の直進性、闇の吸収――六つの属性が、私のミリ単位の魔力誘導によって完全に統率され、刀身に宿る。
「……一閃」
ただ一度の、静かな横薙ぎ。
風圧すら起きないほどの極限まで削ぎ落とした斬撃が、五体のグレイ・オーガの巨体をすり抜けた。
……数瞬の静寂。
ドサッ、ドサッ、ドサッ――!
巨体のオーガたちは、自分が斬られたことすら理解できなかったように、一斉に崩れ落ちて地面に伏した。その硬い岩石の皮膚ごと、分子レベルで綺麗に両断されていたのである。
周囲が、完全に静まり返った。
護衛のエルフ騎士たちは武器を持ったまま目を見張り、口をぽかんと開けて固まっている。
そして、その中心にいたエルフの王女シルフィリアは、目の前で起きたあまりにも圧倒的で非現実的な光景に、息を忘れたように私を見つめていた。
(――よし、完璧な初陣だ。魔物の処理速度、エンチャントの安定性、そして周囲の安全確保、どれをとっても地方公務員としての完璧な行政処理能力の範疇に収まっている……!)
内心で完璧な仕事ぶりを自画自賛しつつ、私はふうっと息を吐き、納刀の動作に移ろうとした。
――だが、ここで私の「悪い癖(他種族オタクとしての抑えきれない熱量)」が、致命的な失敗を招いてしまった。
目の前には、憧れのエルフの王女様がいる。
先ほどまでの絶体絶命のピンチから救出され、ポカンと口を開けてこちらを見上げているその無防備な姿が、私のオタク的倫理観とリスペクトの限界値を軽々と突破させてしまったのだ。
私は、気がつけば音もなくシルフィリアの間合いのすぐ近くへと歩み寄り、感動に満ちた熱い眼差しを彼女の顔面に向け、早口でまくし立てていた。
「いやぁ、実にお見事でした……! 絶望的な状況にあっても気高い姿勢を崩さないその精神力、そしてエルフ族特有のこの繊細かつ完璧な骨格美と魔力の波動……! あなたのような高貴な種族の存在そのものが、この世界の生態系にとっての最高の奇跡であり、完全無欠の芸術品と言っても過言ではありません! 私の全存在を懸けて、あなたの尊さを永久に讃えさせていただきます!!」
――シーン。
私の熱弁が、静まり返った森の空気の中に痛いほどにこだました。
周囲のエルフの護衛騎士たちは、「こいつはいったい何を言っているんだ……?」という顔で完全にドン引きしている。
そして肝心の、救出された本人は――。
シルフィリアの顔は、怒りと、そしてそれ以上に耐えがたい羞恥心で、トマトのように真っ赤に染め上げられていた。
彼女はわずかに震える手で私を指さし、逃げ出したい衝動を隠すように、精一杯声を張り上げて叫んだ。
「なっ……な、何を急に大声で言い出すのよこの変な人間は……っ!! べ、別に、助けてなんて頼んでないわよ! 人間の分際で、勝手に私の容姿を品評するなんて……無礼者っ! 二度と私の前にその不敵な顔を見せないでちょうだいっ……」
その言葉を聞いた瞬間、私の脳内は冷水を浴びせられたように現実に引き戻された。
(……あんなに耳を真っ赤にして、震えながら私を拒絶されていた……。
無理もありません。あんな突然、見ず知らずの人間が近づいてきて、あんな気色の悪い早口で容姿を語り出すなど、恐怖以外の何ものでもなかったはずだ……! 私の軽率な行動が、あの高貴なエルフの王女様にトラウマ級の嫌悪感を抱かせてしまった……!)
内心で激しい自己嫌悪と冷や汗に包まれながらも、外面のペルソナはかろうじて保ち続けた。
私は一切表情を動かさず、ただ静かに一礼し、涼やかな美少年の微笑みを浮かべたまま彼女を見据えた。
「……ご高配のお言葉、ありがたく胸に刻ませていただきます。それでは、お気をつけて」
「っ……! もう二度と顔を見せないでって言ってるでしょ!!」
シルフィリアは顔を真っ赤に隠すようにしながら、部下たちを急かして足早に森の奥へと走り去っていった。その背中が完全に視界から消えるまで、私は反省の眼差しでその残像を見送り続けた。
少し離れた場所からその一部始終を眺めていたガロウは、盛大なため息をつきながら頭を抱えていた。
「おい, アラン……お前なぁ……せっかく見事に助けてやったってのに、なんで最後の最後でそんな気味の悪い笑みを浮かべながら早口で気味の悪いことをまくし立てるんだ……。お前, 一生モテねぇぞ」
「何を言っているのですか、師匠。私は今、深い反省と自戒の念に包まれています」
私は静かに頷き、心の中でぐっと拳を握りしめた。
(――反省せねばなりません。あの方ほどの高貴なエルフの王女様をあそこまで激怒させ、怯えさせてしまったのは、私の『紳士としての品格とマナー』がまだ圧倒的に不足していたからだ……!
次にお会いする機会があれば、決して無駄な熱弁を振るわず、息をするようにスマートで不可侵な美しさを備えた『完璧な紳士』として、彼女に最高の安心感と礼節を捧げよう……そしていつか、成長した姿で改めて彼女に謝罪と――)
彼女から言い渡された「二度と顔を見せないで」という言葉を、私は【己の未熟さを戒めるための至高の教訓】として心に深く刻み込むのだった。
こうして、王女シルフィリア・エルフリーデとの歴史的な出会い(大失敗)を果たした私は、さらなる高みと完璧な紳士を目指して、ガロウと共に次なる旅のステージへと足を踏み出していくのだった。
第27話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに開幕しました、エルフの王女シルフィリア・エルフリーデとのすれ違いラブコメ&フラれシーン! 新相棒「霊刀・虚空」のカッコいい初陣の直後に、アランの限界オタク全開の言動によって王女様から盛大にブチ切れられる(という名のトラウマを与えてしまったと本気で勘違いする)展開になりました。
アランが「完璧な紳士」を目指してさらに高みへと昇り詰めていく一方、シルフィリアとの間にあるすれ違いが、今後どう展開していくのか――ぜひ次回もお楽しみに!




