第15話:旅立ちの朝と、街道で出会う「もふもふ亜人」の衝撃
『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第15話をお届けします!
いよいよ辺境の森を後にして、ガロウ師匠との本格的なロードトリップ(二人旅)がスタートしたアラン。今回は、外の世界の街道で初めて目の当たりにする他種族の文化、そしてアランが大いなる愛を注ぐ「もふもふ」たちとの夢のようなファーストコンタクトを描きます。表向きは隙のない端正な美少年剣士でありながら、内心では狂喜乱舞しているアランのギャップと、旅のワクワク感をお楽しみください!
【年齢:9歳後半(少年期・修行編・ロードトリップ開始)】
朝露に濡れた万年樹の葉が、昇り始めた太陽の光を浴びてキラキラとダイヤモンドのように輝いていた。
辺境の森の最奥部、私とガロウ師匠が長年汗と血を流し合ってきた拠点広場に、いま私たちは静かに立っていた。
私の手元には、先日の手合わせの最中に折れてしまった愛用の木刀の代わりに、旅用の軽装と、最低限のサバイバル用具が収められた革製のバックパックが背負われている。華美な装飾こそないものの、日々のボディコントロールによって鍛え上げられた私の肉体は、九歳という年齢離れした引き締まった体幹と、無駄な力の一切抜けた美しい立ち姿を形作っていた。
「……よし、行くぞアラン。いつまでもここに居座っていたのでは、ドルフのところへ辿り着く前に年が暮れる」
ガロウ師匠が低い声でそう言い放ち、ふわりと軽やかな足取りで森の出口へ向けて歩き出す。
私はその背中を追いかけながら、深く息を吸い込んだ。胸を満たすのは、長年暮らした隠れ家を離れる寂しさよりも、これから始まる未知の世界と他種族たちとの出会いに対する、抑えきれない高揚感だった。
私たちは幾重にも入り組んだ深い木立を抜け、徐々に野生の気配が薄れ、人の手が入ったなだらかな獣道へと足を踏み入れた。
そして、歩くことおよそ半日――ついに、私たちの視界が開けた。
「おお……!」
思わず、私の口から感嘆の息が漏れる。
目の前に広がっていたのは、緑豊かな丘陵地帯を縫うようにして伸びる、白茶けた広い街道だった。遠くの水平線近くには、人間族の街へと通じる王国街道を示す石造りの里程標がポツンと立っている。ここが、魔物だけに支配された辺境の森の外側――様々な種族が行き交う「文明社会」の境界線だった。
「どうした、アラン。門出の最初で足が止まったか?」
前を歩いていたガロウが振り返り、面白そうに片眉を上げる。
私はすぐに表情を引き締め、いつもの冷静で隙のない美少年風の表情(前世の公務員としての真面目なポーカーフェイス)を作り直した。
「いえ、少し……外の世界の空気に触れたもので。さて、師匠。ここから私たちの最初の目的地である、ガロウ師匠の故郷の街まではどれくらいの距離ですか?」
「ふっ、焦るな。お前の足なら数日のロードトリップだが、途中の街道には色んな奴らが通りかかる。……ほら、さっそく前方に客人が来たようだぞ」
ガロウが指し示したその先、遠くの街道の地平線の向こうから、パカパカと軽快なひづみの音と、賑やかな話し声が聞こえてきた。
目を凝らすと、そこには商人たちの馬車の一団と、数名の護衛を伴った旅の一行がこちらへ近づいてくるところだった。
(――来たっ……! 外の世界の第一陣、商隊の到来だ……!)
私の心臓が、期待と興奮で激しく高鳴り始める。
前世の記憶に刻まれた「他種族データベース」がフル回転し、私の脳内CPUは一瞬にして「この商隊にどのような種族が混ざっている可能性が高いか」の確率計算を開始していた。ドワーフの御者か? それとも、噂に聞く猫人族の商人か? あるいは、ふさふさとした耳を持つフェネック系の亜人か――!
数分後、私たちの目の前をその商隊が通り過ぎていく。
先頭を進む馬車の御台の上で、大きな荷物を整理していたのは、まさに私が待ち望んでいた光景だった。
頭の上からピンと伸びた、真っ白でふさふさとした犬の耳。そして、馬車の揺れに合わせて愛らしくパタパタと動く、同じくフワフワの尻尾。商人の服装の上に、機能的な革のベストを羽織ったその姿は、獣人族特有の野性味と、商売人としての愛嬌が見事に融合した奇跡のような造形美を誇っていた。
(――うおおお……! 本物の犬系亜人の女性だ……! なんという素晴らしい耳の角度、そしてあの尻尾の毛並みの良さは一体どういうことだ……! ブラッシングの頻度が完璧に伝わってくる……! あのフワフワをこの手でそっと揉みしだきたいという衝動を抑えるのに、私の全行政スキルの9割を割かなければならないなんて……っ!)
私の内心の絶叫と狂喜乱舞は、マグマのように沸騰していた。
しかし、外見の私は一切の動揺を見せず、背筋をスッと伸ばし、すれ違う商隊の御者に向かって、上品かつ穏やかな微笑みを浮かべながら軽く会釈をした。
「こんにちは。良い旅を」
そのあまりにも端正で礼儀正しい美少年の挨拶に、馬車の上の犬耳亜人の女性は「あら、こんな森の近くで旅の少年ですか? 気をつけてね!」と、愛嬌のある笑みを返しながら手を振ってくれた。
(――今の笑顔……! 垂れ耳がわずかに揺れた瞬間の可愛さは国家機密に指定すべきレベルだ……最高だ……この世界に転生して本当に良かった……!)
内心で地面をゴロゴロと転げ回りたいほどの歓喜に浸りながらも、私は顔色一つ変えずに歩を進める。
そんな私の様子を横目でチラリと見ていたガロウは、呆れたような、しかしどこか楽しげな声を漏らした。
「おい、アラン。お前、さっきから顔の筋肉は微動だにしていないが、足取りが妙に弾んでやしないか? さっきの商隊の犬耳娘を見て、妙な邪念を抱いていないだろうな」
「何を仰いますか、師匠。私はただ、旅の安全を祈りつつ、外の世界の多様な文化と流通の仕組みを冷静に観察していただけです。公務員たる者、いかなる状況でも客観的な視点を失ってはなりません」
「……その『公務員』とやらの妙な理屈を聞くたびに、お前が十歳のガキであることを忘れるわい」
ガロウは肩をすくめると、再び前を向いて歩き出した。
私たちはそのまま街道に沿って歩き続け、太陽が西の空へと傾きかける頃、小さな宿場町へと差し掛かった。
その街の入り口には、旅人や商人が出入りするための簡単な木造の検問所があり、人間の衛兵たちが立っていた。しかし、その周囲を行き交う人々の姿を見ると、人間だけでなく、頑健な体躯を持つドワーフの職人風の男や、耳の長い亜人たちが、ごく当たり前の日常として混ざり合って暮らしているのが見て取れた。
(――素晴らしい。この街の構造、そして人種のるつぼとしての機能美。過疎化に悩んでいた実家の領地とは大違いだ。流通のハブとしてのポテンシャルが綺麗に整っている)
前世の公務員としての行政・経済アナリストの血が、自然と街の構造を分析し始める。
一方で、通りを歩くドワーフの子供がモフモフした外套を着てトコトコ歩いている姿を見かけるたびに、私の脳内では再び他種族オタクとしての歓喜の鐘が鳴り響いていた。
「おい、アラン。今日はこの街の宿場ですごすぞ。長旅の最初の夜だ、美味い飯でも食って英気を養うとしよう」
「はい、師匠。宿の手続きや予算の配分は私にお任せください。無駄な出費は一切させません」
「ハッ、頼もしいこった。行くぞ」
ガロウに連れられて、私たちは賑やかな宿場町の中心へと足を踏み入れた。
辺境の森を出て始まった、私たちの本格的なロードトリップ。その第一歩は、私の「行政的知性」と「他種族への狂おしい愛」が最高潮に満たされる中で、静かに、そして盛大に幕を開けたのだった。
第15話をお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ辺境の森を飛び出し、外の世界の街道へと踏み出したアラン。今回は、初めて出会う「犬耳亜人の商隊」に内心で大歓喜しつつ、表向きは完璧にクールな美少年剣士を装うアランのギャップを描いてみました。
さらに、ガロウとの二人旅が本格的なロードトリップへと移行し、宿場町での賑やかな描写や他種族の文化に触れることで、物語の視野が一気に広がっていきます。
次回からは、さらに旅の道中が深まり、アランのオタク情熱と剣の修行がどう絡み合っていくのか――ぜひ次の展開も楽しみにお待ちください!




