二話 羊毛巻き上げ注意報
我らが王都、ファムルスの東には位置する平原。
ここは見渡しが良く、危険な魔物もいない為、商人たちの通行路として利用されることが多い場所だ。
「お、いたいた」
街道を少し外れたところに羊のように全身がモコモコの体毛で覆われた動物が集団で寝転んでいた。
メーウの群れである。
「さて、始めますか」
懐の袋から街を出る前に馬小屋で分けてもらった乾燥させた干し草を取り出す。
ひっそりと隅にいるメーウに近づいて、顔付近に干し草を近づける。
「ほーら、美味しい草ですよ〜」
目の前でゆらゆらと揺らしていると、ゆっくりと目が開く。
後は刺激しないように慎重に口元に運んでやると、食べた。
さて、作業開始だ。
「よーしよーし。良い子だ」
もしゃもしゃと食べ始めたメーウなら、ある程度動かしても問題はない。
干し草に意識が向いている今の内に、借りてきた専用の大ハサミを使って毛刈りをしていく。
全部手作業で毛刈りをするのだ。
ないものねだりだと分かっているが、バリカンがめっちゃ欲しい。
「よし、終わり」
すっぽんぽんになったメーウを適当な場所に誘導して、また端のメーウに干し草を近づける。
手順を繰り返すだけの単純作業だが、これが正直めちゃくちゃ面倒くさい。
この世界でも牛や豚に近い魔物は家畜化されているのに、なんで羊っぽいこいつらは家畜化されてないんだろう。
(仲間に入れてやれよ、可哀想でしょうが)
馬小屋の人曰く、メーウは家畜化された魔物より攻撃的で、ストレスを覚えると自傷行為を行ったりすると言っていたが、そんな感じは全然しない。
本当に家畜化できないのか?
「……とりあえず、終わらせるか」
畜産者でもない冒険者が考えても意味のないことだ。
とりあえず目の前の依頼に集中だ。
▲▼
「あ〜、終わったぁ!」
羊毛が詰め込まれた袋の横で大の字になって寝転がる。
群れの半分すら刈らずに依頼書に書かれていた分以上の毛が集まったのでやめた。
「ふぅ」
一仕事を終えた後の爽快感が素晴らしい。
涼しい風も吹いていて、ここで一眠りしたい気持ちになる。
「メェ〜!」
「ん?」
のんびりと空を見上げている時だった。
突然メーウたちが異常行動を取り始める。
お互いに頭をぶつけ合ったり、単独でどこか遠くへ走り去っていく。
明らかにおかしい。
疑惑を肯定するように、空模様も変化する。
あれだけ晴れていた空に暗雲が立ち込めて、薄暗くなっていく。
風が吹き荒れ、ぽつぽつと雨が降り始めた。
なんだかやばい予感がする。
これは早く街へ帰った方が良い。
「………ん?」
立ち上がり、袋を持って探すがどこにもない。
何度腕を振っても空振りだ。
あれ、おかしいな?
確かにここに置いてあったはずなのに。
そこで上空にすごく見覚えのある物が飛んでいたことに気づく。
具体的には先ほどまで俺が苦労して集めた羊毛が入った袋に酷似した物体が、空へ巻き上げられていた。
ーー?? ん?
待て、待て待て。
ちょっと待て。
あれってもしかして、
「いや、いやいや!」
最悪の想像をしてしまい、咄嗟に首を振る。
そんなことあるわけがない。
だって、あれ、あんなに苦労して集めたのに。
何一つ根拠のない否定をする。
嘘だろ? 嘘だよね? 嘘だと言って?
恐る恐る袋を置いてあった場所を見るが、やはり野草しか生えていない。
ただ無言で暗い空を見上げて、踊っている袋を見つめる。
パンパンに詰まっていた袋から、たんぽぽのように飛んでいく羊毛たち。
つまりそういうことだ。
あれは間違いなく俺の袋。
「俺の毛ぇえええええ!!」
羊毛を撒き散らしながら、自我を持ったのかと疑いたくなるレベルで、俺から逃げ去る袋を走って追いかけた。




