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一話 安定の冒険者ギルド



 多くの屋台や露店で賑わう大通りを歩く。

 俺は先ほど屋台で購入した果実水の入った瓶を片手に、次は食べ物系が食いたいなーと考えながら歩いている。


 朝メシ食ってないからな。

 キョロキョロと見渡していると、美味そうな串焼きが目に入った。



「おっちゃーん。串焼き二つね」


「はいよ、銅貨二枚ね」



 銅貨二枚を手渡して、軽く包まれた串焼きを受け取る。

 早速、取り出すとテカテカと光っている。

 これは絶対に美味いやつだ。


「うんま!」


 かぶりつくとジューシーな旨みと程よく効いた塩気が口いっぱいに広がる。

 腹減ってたからすぐに食べ終わった。

 


「ふぅー」



 口に残った脂身を果実水で洗い流す。

 腹一杯とまではいかずとも、良い感じに満たされた。

 このあと動く可能性も考慮すると、ベストコンディションだ。

 さて、腹ごなしも済んだことだし、そろそろ頑張るとしますかね。



▲▼



 食い終わった串はゴミ箱に、飲み終わった瓶は屋台の近くに配置されていた箱に入れ、少しだけ歩く。



 五分程度歩くと目的地、冒険者ギルドにたどり着いた。

 早速オープンドアを押して中に入り、奥へ進む。



「うわぁー」



 奥に設置されている掲示板に貼られている紙、依頼書を見て落胆する。

 今日の依頼はどれも報酬が少なく、お世辞にも良いものと言えない物ばかりだ。

 持って行かれた後なのか、あるいは最初から貼られて無かったのか。

 なんにせよ、これならいっそ依頼は受けずに迷宮探索の選択肢も出て来るか。



 ………いや、やっぱりなしだな。

 迷宮探索は危険だし、俺ソロだし。

 大人しく、普通の依頼を受けよう。

 

「もう、これにするか」



 比較的マシに見えた『メーウの毛の採取』と書かれていた依頼書を剥ぎ取って受付に並ぶ。

 俺の前に三人、思ったより早く依頼へ向かえるな。


「うぉ、すげ」


 突然前の冒険者が俺の背後を見て驚いていた。

 なにが凄いのだろう。

 俺も気になったので、振り向いてみる。



(あー、なるほど)

 


 なぜ、静かになったのか納得がいった。

 もう原因が分かったので、視線をすぐ前へ戻す。

 ジロジロと人を見るのは良くないからな。

 と言い訳するが、真実は違う。



 苦手なのだ。

 苦手な理由は俺が根暗でほとんど会話したことがないとか、そんな理由では断じてない。

 確かに前世の時から身に覚えがあるが、まっっっったく関係ない。



 俺は恐ろしいのだ。

 あいつらのパーティメンバーに狂犬のような奴が一人いる。

 そいつが本当にやばい。



 話しかけても無視か暴言、それだけならばまだ可愛いものだが、少しでも気に触れるようなことがあれば拳が飛んで来る。



 実際、奴を知らない新参者や身の程知らずのチャレンジャーが、ボコボコにされていたのを何度か見かけた。



 【A級冒険者】と、冒険者の中でも最高峰の肩書を持つ者が、一切の容赦なく、顔の形が変わるまで殴る蹴るの暴行だ。

 もはや、あれは公開処刑である。

 そんなことがあり、今では奴の怒りを買わないように誰も関わろうとしない。



「………やっぱりすげぇよな。あの体」



 できることといえば、目の前にいる冒険者のように遠くから体を眺めることくらいじゃないだろうか。

 もちろん、それでも目をつけられる危険があるが。



「………やべ!」



 おそらく目が合ったのだろう。

 勢い良く顔を下に向けた。

 馬鹿だなぁ。

 相手に因縁を与えるきっかけを作ってどうする。

 あいつは鎖の繋がれていない猛獣と同義だ。



 顔が良いからと猛獣と戯れたいか?

 答えはノーだ。

 少なくてもどれだけ美人であろうと、命の危険があるならば、俺は絶対に嫌だ。



 絶対にイチャモンなどつけられないようにするのが、正しい選択だ。


 ーーだというのに。


 それでも目の前のこいつのような命を危険に晒す愚行を犯す者がいる。

 まったく、こいつらは冒険者だからといって冒険しすぎだ。

 命は一個なんだから大事にしないと。

 なんで気軽に命を危険に晒せるのか理解に苦しむ。



 俺を見習え。

 見よ、この俺の存在感の薄さを!

 依頼書をじっと見つめて、今日の依頼のことで頭がいっぱいですよ風を装って息を潜める。



 こうやって人畜無害な人間を演じることで、俺は前世の頃から修羅場を切り抜けてきたのだ。

 現に後ろから奴らの声が聞こえたような気がしたが、問題ない。

 若干、冷や汗が滲み出て、体が震えそうになるが、この程度の危険はいくつも乗り越えてきた。

 



 大丈夫、大丈夫だ。

 大人しくしておけば何もされない。

 つーか、後ろには誰もいない。

 そう、後ろには誰もいないんだ。



 だんだん呼吸が荒くなっているが、問題ない。

 あと一人、目の前のこいつが終われば。

 自己暗示のように心の中で大丈夫を連呼し続けて、平静を保つ。

 


 

 

「お待たせしました。依頼書を拝見致します」


「お願いします!」


「は、はい、メーウの毛刈りですね」


 依頼書を渡すと、なぜか少し驚いた受付嬢だったが、すぐにいつもの調子に戻る。

 判子が押されて返ってきた。


「ありがとうございます。では、お気をつけて」


 

 後ろは一切視界に入れず、受付嬢に軽くお辞儀をしてすぐにはける。

 ギルドの出口付近まで歩いて、ようやく安全が確保されたところで振り返る。


 案の定奴らだった。

 やはり後ろを振り向かずに正解だったな。

 流石は俺、ナイスな判断だ。

 自画自賛しながらギルドを出た。


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