第3話②筋肉と鋼
重力の手下の実力はいかに?
「‥‥来たか。ハンターが邪魔に入るって話は本当だったな」
ワゴン車から降り立った男は、獅子を見て不敵に笑った。
「お前らは中に行け。核の回収が最優先だ。ここのバカは、俺一人で片付ける」
部下たちが店内へ滑り込むのを見届け、ボスが静かに拳を握る。
《鋼化》
男の体が鈍い銀色に変わっていく
「‥‥ははっ! 俺の相手は一人で十分だってか。‥‥いいぜ、その自信を骨ごと粉々にしてやる」
獅子は地面を蹴り男の顔面に拳を叩き込む
ガキンッ!!
火花が散り、衝撃波で周囲の街灯がへし折れる。
だがボ男は少し首を傾けただけだった。
「‥‥ほう、いい拳だ。並のハンターなら今ので首が飛んでいただろうな」
男の表情には、依然として余裕が張り付いている。
「‥‥チッ、硬ぇな。いいサンドバッグになりそうだ」
獅子は不敵な笑みを浮かべると、着弾した拳を引くよりも早く、反対の手で男の脇腹を抉るように叩き込む。
バァァンッ
一撃、二撃と、目にも止まらぬ連撃が《鋼化》された体に叩きつけられる。
一発放つたびに、周囲のアスファルトが弾け飛び、衝撃が空気を震わせる。
「火力不足だな」
男が重い腕を振り上げた。
「俺の《鋼化》は、物理的な破壊をすべて無効化する。‥‥次は、俺の番だ」
男の銀色の拳が、空気を切り裂いて獅子の顔面に迫る。
「いいなぁ」
避けるか、受け流すか。普通ならこの2択だろう。<普通なら>
獅子は自ら拳を突き出す
ドゴォォン
両者の拳がぶつかる
爆発じみた衝撃波が辺り一帯を吹き飛ばす。
「‥‥ッ!」
鋼の肉体を持つ男の顔に、わずかな驚愕が走る。
正面からぶつかり合えば、相手の腕が粉砕されるはずだった。だが、獅子の拳は砕けるどころか、さらに力を増して押し返してくる。
「‥‥無駄だと言っている。この硬度は、お前の拳などでは一生傷一つつけられん」
男がさらに力を込め、獅子の拳をじりじりと押し返していく。
獅子は拳を引くと同時に、男の顔面へ目にも止まらぬ速さで左を放つ。
男はそれを銀色の腕で弾き、即座に重い右を獅子の腹へ叩き込んだ。
「ゴッハァ」
「タフな野郎だ」
男は吐き捨てる
「‥らああああッ!!」
獅子は拳の雨を浴びせる
男も黙っていない。至近距離で獅子の顔面や脇腹を鋼の拳で殴り返す。
互いに回避を捨てた、泥沼のゼロ距離打撃戦。
火花が散り、衝撃波が周囲の空気を爆ぜさせる。
「聞き分けの悪い奴め、頭も筋肉でできてんのか」
男が拳を振りかざそうとした瞬間腹に違和感を感じる。
熱い。そう思い、獅子の拳が降り注ぐ腹を見る
「だいぶあったまったようだなぁ」
「摩擦熱っていうのがあんだぜぇ」
「何ッ」
獅子の拳は、もはや皮膚が焼けて真っ赤に染まっている。だが、そのスピードは落ちるどころか、さらに加速していく。
真っ赤に焼けた男の胸板に獅子の拳がめり込む。
「熱いうちに打たせてもらうぜぇ」
「離れろっ」
獅子を殴り飛ばそうと腕を振りかぶる
だが、それよりも早く、獅子の「熱」を帯びた最後の一撃が、赤熱した鋼の心臓部を捉えた。
「この世で一番硬いのは金属じゃねぇ、筋肉だぁ」
ドォォォォォォォンッ!!
限界まで加熱され、脆くなった中心部。そこへ獅子の全体重を乗せた拳が突き刺さる。
「‥‥ぁ、が‥‥‥」
獅子の拳が男の体を貫く
「‥‥殴りがいがあったぜ」
獅子はボロボロになった拳を眺め、満足げに口角を上げた。
限界を超えた連打、そしてボスの鋼鉄を無理やり溶かした代償は大きく、獅子の全身の筋肉は悲鳴を上げ、視界もかすんでいる。
「‥‥‥休憩だ」
短くそう呟くと、獅子はその場に仰向けに倒れた。
「‥‥‥‥さて。主役が寝たんや、観客も消えてもらわんとな」
ニケは瓦礫の散らばる宝石店の中へと、音もなく足を踏み入れた。
店内では、部下たちが慌ただしく宝石を袋に詰め込んでいる。
「ボスがやられた! 早く回収して逃げるぞ!」
「‥‥逃がすわけないやろ」
低く冷たい声が響く。
「まだハンターがいたのか」
敵の一人が能力を解放しようと動く。ニケは指先をパチンと鳴らした。
敵の胸元で、いつもの小さな爆発が起きる。
「‥‥あはは! なんだその豆鉄砲は!」
部下たちが嘲笑う。だが、その笑いはすぐに凍りついた。
「‥‥あ‥‥が‥‥?」
爆発したはずの箇所から、炎も煙も上がらない。
代わりに、敵の胸元が「ありえない一点」に向かって、グニャリと吸い込まれるように歪んだ。
爆破の衝撃で吹き飛ぶのではなく、まるでその場所の空気が「消失」したかのように、肉体と衣類が中心へと収束していく。
「‥‥‥‥っ!? なんだ今の爆発は!?」
「‥‥さぁな。ただの爆破やで。‥‥少し、『密度』が濃いだけや」
ニケは無表情のまま、次々と指を弾く。
パチュンッ、パチュンッ、パチュンッ‥‥。
小さな音と共に、店内の空間が歪に波打つ。
それは爆発というよりは、空間を無理やり凝縮して破裂させるような、異様な現象だった。
「痛ぶるんは趣味ちゃうんやけど我慢してくれや」
『雑魚』を倒し終わると外で倒れている獅子のもとへ向かう
「ひどい怪我やな、病院まで運ぶか」
そういうとニケは獅子を抱える
「重っ、何キロあんねん」
バタンッ
獅子が飛び起きる
「お、起きたか?」
「ん?どこだここ」
「記憶障害とか言わへんでな、病院やで」
「あいつらはどうなった?」
「鋼男はお前が倒して、後の雑魚は片づけといたで」
「任務終わったのか?」
「あぁ。完遂や。今は余計なこと考えんと、ゆっくり休みや」
しばらく天井を見つめていた獅子が、ふと思い出したように口を開く。
「ニケ、今回の報酬いくらだったんだ?」
「報酬?あぁ、金は全く貰えへんかったで」
ニケはさも残念そうに肩をすくめて見せた。
「そんなに被害がでかかったのか?」
「ちゃう、今回の報酬は金やなくてランクや」
「ランク?焦土級的なのか?」
「それは敵のやけどな、ハンターにもあるんや」
「何になれたんだ?」
「結果が出るのはまだ先やな。‥‥ま、楽しみしとき」
「そうか」
「出たらまた言うで」
「頼んだ」
獅子の意識が再び眠りへと沈んでいくのを確認して、ニケは立ち上がった。
「俺は一旦ホテル戻るから、なんかあったら呼びや」
そう言い残すと、ニケは足音を立てずに病室を出た
「‥‥えー、ですので、命に別状はありません。ただ、筋肉の損傷が激しいので、リハビリには時間がかかるかと」
「了解です。お世話になってますわ」
ニケは診察室を出ると、獅子の病室へと向かう。
901号室
「相変わらず爆睡やな。一週間も寝たままで、本当に生きてるんか?」
「グォォォォ‥‥ッ」
「‥‥うん、やかましいくらい生きてるな」
ニケはため息をつく。(はぁ、いつになったら起きるんや‥‥。てか、お見舞いって暇やな)
「ちょっとトイレ行ってくるで。‥‥にしても、この病院トイレ遠いねん!」
数分後、歩き疲れた様子でニケが病室に戻る。
「ほな、顔見たしもう帰る‥‥って、あれぇ!? おらへん!」
ベッドはもぬけの殻。シーツだけが虚しく波打っている。
混乱するニケの耳に、ヒュゥゥ‥‥と場違いな風の音が聞こえた。
ふと見ると、全開になった窓。
「ちょっ、まさか‥‥!」
駆け寄って窓から身を乗り出す。
「二ケェぇ!」
4階付近の窓枠に、指先だけでぶら下がっている獅子の姿があった。
「あんた何してんねん!! 飛び降り自殺でもするつもりやったんか!」
「ここ高くて良いな、ボルダリングにピッタリだぜ」
「ええから早よ戻ってや」
獅子は窓枠から窓枠へ、まるで野猿のように飛び移りながら壁を垂直移動し始めた。9階という高さを無視した超絶スタント。
数秒後、獅子はひょいっと窓から室内へ飛び込んできた。
「何してんねん!、て言いたいところやけどあんた見てたら疲れてきたわ」
「じゃ、帰るぞ」
「出来るか!一週間も寝たきりやったんやで」
「もう治ったぜ?」
獅子はニヤリと笑い、バキバキと拳を鳴らす。
「はぁ、医者呼んでくるから、そこ動かんといてや。変なとこ登るなよ、絶対やで!」
ニケが呆れ果ててナースステーションへ向かう後ろ姿を見送りながら、獅子は自分の掌を見つめる。
「‥‥また、戦える」
獅子の口角が、凶暴に吊り上がった。
数分するとニケが戻ってきた。
「‥‥というわけで、主治医が『医学の敗北や‥‥』ってブツブツ言いながら白目剥いてたわ。一応、経過観察のために今日は大人しく入院しとき。何もなければ明日の朝、正式に退院や」
ニケはそう釘を刺すと、スマホの画面を獅子に見せた。
「獅子、あんたの試験結果」
そこには大きく赤色の文字で《B級昇格》と表示されていた。
「B?」
「そうや、大金星やで。本来なら一段階ずつの昇格やけど、前回の戦いっぷりが評価されて、E級から一気に『B級』に特進や。あんた、もう新人卒業やで」
獅子は自分の掌を握り、感触を確かめる。
「へぇ、Bか。で、その上はどれくらいあるんだ?」
ニケは指を一本ずつ立てながら説明を始めた。
『E・D』: まだ見習い。雑用から始まる下積み層。
『C』: やっと一人前。
『B』: ←イマココ! 地方のギルドならエースを張れる精鋭や。
『A』: 国を代表するようなトップクラスの化け物。
『S』: もはや人間かどうかも怪しい『生ける伝説』や。
『SS』:数人しかいない化け物中の化け物、グラウンド・ゼロ級に匹敵する
「Bの上が、まだそんなにあるのか。面白ぇ‥‥」
獅子の瞳に、飢えたような光が宿る。
「ところで、面白い任務見つけたんやで」
ニケが画面をスクロールすると、『A級以上限定・極秘調査任務』という文字が出てきた
「これに参加したいんや、級制限があるの自体珍しいし、ましてはA級以上。」
「強い敵がいるんだな?」
「それは100%保証するで」
「決まりだな」
「A級になってこれにでるぞ、ニケ」
「これの募集期限は半年後、それまでにならないかんのやけど」
「なれねぇことはないだろ?」
「手はあるで。今、ハンター協会第二本館で『Aランク昇格合宿』の参加者を募っとる。これに合格すれば、特例で即A級や」
「そこで全員ぶっ飛ばすんやな?」
「そうやで。詳しいことは明日話す、今日は安静にしとき」
そういうとニケは病室を出た。
獅子は興奮して夜になっても寝付けなかった。
評価お願いします!次回投稿は今日か明日!かなりロング編です




