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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第1部】追放と漂着

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7/10

「廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号ですわ(本当にこの名前で良かったのか?)」

 翌朝、ジャンクがP-0を抱えて戻ってきた。


 昨夜から作業していたらしく、目の下に隈がある。それでも目が輝いている。技術者の目だ。手応えを掴んだ顔をしている。


「ステーションのシステムに繋いだ。動作確認もした。問題ない」


「お疲れ様ですわね」


「P-0、通信テストしてみてくれ」


 P-0のレンズが光った。


「通信確認。グレイヴヤード区画のネットワークに接続しました。現在地の情報収集を開始します」


 ジャンクが満足そうに頷いた。


 P-0のレンズが俺を見た。


「お嬢様、おはようございます」


「おはよう」


「これからの予定をお聞かせいただけますか」


「まずは船の確保を考えておりますわ」


「承知しました。グレイヴヤードの廃棄船舶リストを検索します」


 P-0が黙って何かを処理し始めた。


 その間、ジャンクがコーヒーを持ってきた。また灰色の液体だ。一口飲んだ。まずい。でも、少し慣れてきた気がする。


「お嬢様」


 P-0が口を開いた。


「なんですの」


「廃棄船舶リストを確認しました。グレイヴヤード内に放棄された船が十隻あります」


「十隻もありますの」


「もちろん稼働状態ではないと予想されますので、修理費を含め数千万円規模になるかと存じます。現在の資金では、率直に申し上げて難しい水準です」


(……数千万円)


 今の手持ちは十数万円。レンカガネが大量に出るとも限らない。鉄と銅では話にならない。


「ジャンクに船の修理を依頼しても、同じ値段かかりますの?」


「技術料をおまけしても、やっぱり部品代だけで数千万はかかる。でも、部品をどこから調達するかでかなり変わる」


「P-0、廃棄機材から使える部品はありますの?」


「グレイヴヤード内の廃棄機材を精査しました。転用可能な部品が相当数含まれている可能性があります。リスト化しましょうか」


 ジャンクが目を輝かせた。


「それ、めちゃくちゃ助かる。規格も量もバラバラで、どこから手をつけていいかわからなかったんだ」 


「時間はかかりますが、体系的に整理すれば効率的に必要な部品を特定できます」


 ジャンクが少しだけ顔をしかめた。


「……ただ、使えそうな部品は大体誰かに押さえられてる。残ってるのは、誰かの縄張りに踏み込まないといけない場所ばっかりだ。うまく交渉できればいいんだけど」


 そこで、口が勝手に動いた。


「……要は、高価な純正モジュールを前提にするから足りないのですわ」


 二人の視線がこっちに向く。


「規格が合わないなら、合わせればよろしいでしょう? 出力も制御も、こちらで噛み合わせてしまえばいい。多少性能が落ちようと、動けば十分ですわ」


 ジャンクが目を細めた。


「……言ってることはわかる。実際、そういう発想自体は珍しくない。でも、それをやろうとすると調整が地獄なんだ。出力も挙動もバラバラな部品を無理やり繋げば、すぐに吹き飛ぶ」


「そこは、わたくしの闇術でどうにでもなりますわ」


 空気が止まった。


(俺、そんな事出来るの?)


 口が勝手に続ける。


「強引ではありますけれど、出力のブレを押さえ込んで、無理やり安定させることくらいは可能ですわね。歪みや負荷は多少出るでしょうけれど、運用でカバーすれば問題ありませんわ」


 ジャンクが、はっきりと目を見開いた。


 P-0がすぐに反応する。


「術式による出力補正を前提とする場合、低品質部品の組み合わせでも実用水準に到達する可能性が高まります。構成の自由度が大幅に向上します」


 ジャンクが、ゆっくりと笑った。


「なるほど……できないから捨ててた手段を、できる前提で組めるなら話は違う」


「ええ。完璧な部品を揃える必要はありませんわ」


「それなら、危ない場所に無理して踏み込む必要も減る。わかった。それでいこう」


 それにしても、話がここまで進むのは少し早い気もした。


 まだ船そのものを正式に確保したわけでもないのに、流れだけが先に固まっていく。


 もしかして、ジャンクも船が欲しかったのかな。


---


 午後、ジャンクとP-0が部品のリスト化を進める間、俺はもう一つの課題に取り掛かった。


 術力の制御プログラムだ。


 術式はコードに似た構造をしている。頭の中で書き換えられる。それは確認した。問題は、その術式を機械側に渡す方法だ。


(船の動力にするとなると、インターフェースの問題だな)


 術力と機械の間に、何か橋渡しになるものが必要だ。


「ジャンク、術力を機械に渡すとき、受け口はどんな形を想定していますの?」


 ジャンクが端末を取り出した。設計図を見せてくれる。


 機械の構造は俺にはわからないから、入力と出力の部分だけを見る。ここに術力を流し込むとなると、出力を一定に保つ必要がある。


「出力は、どの数値に設定すればいいかを教えていただければ」


「それは計算できる。少し待ってくれ」


 ジャンクが計算を始めた。


 P-0が俺を見た。


「お嬢様、記録を取りながら作業を進めると効率的かと思います。出力値と機械の反応を対照させていけば、最適な数値を早期に特定できます」


「お願いできますの?」


「それが仕事ですので」


(有能だ)


---


 ジャンクが計算結果を出した。必要な出力値を数字で示してくる。


 俺は術式を頭の中で展開した。その数字に合わせて、出力値を調整する。


 手のひらに、紫の光が灯った。


 小さく、安定した光のはずだった。


 一瞬だけ、空気が歪んだ。


 音もなく、壁の一部が消えた。


(……は?)


 ジャンクが固まっている。どん引きだ。


「……これでどうですの?」


 誤魔化すように口が動く。


 ジャンクが計測器を確認する。


「あ、……出力は安定してる。でも理論値を大きく超え過ぎている」


(バグだな)


 思い通りにコードが走らないなんて、プログラムあるあるだ。


 気を取り直して術式の出力値を微調整しながら、再度、術を展開する。


 今度は上手くできた。


 P-0が記録を取っている。


「お嬢様、今の出力値を記録しました。この値を基準として作業を進めます」


「ありがとうございますわ」


 ジャンクが端末に数値を打ち込みながら言った。


「これ、うまくいけば船の動力源になる。蓮華の術力を安定供給できれば、燃料コストがほぼゼロのエンジンの完成ってわけだ」


「それは大きいですわね」


(なるほど。術力で船を動かすようにするのか。そもそもどんな燃料でどんな原理で動かしてるのなんか知らないけど、燃料の資金問題をスキップできるのは大きい)


「……では急ぎますわ」


 出力を上げる。下げる。固定する。P-0が記録を取る。ジャンクが機械側の受け口を設計する。


 黙々とした作業だった。でも不思議と、嫌じゃなかった。


 蓮華になる前……、プログラマーだった時もこういう作業をしていたな。


 バグを潰して、数値を調整して、動作を確認して。誰も見ていない深夜のオフィスで、モニターの光だけを浴びながら、一人でコードと向き合う。


 冷めたコーヒーと、キーボードの打鍵音と、空調の唸り。


(今は一人じゃない……まあ、それだけのことだけど、なんか楽しいな)


端末を叩くジャンクの横顔と、静かに光を明滅させるP-0のレンズ。その二つが視界の端にあるだけで、同じ作業が違う色をして見えた。


---


 夕方、ジャンクが意を決したような表情で「見せたいものがある」と言った。


 案内されたのは、グレイヴヤードの地下格納庫だった。


 ここにたどり着くまでの道のりは複雑で、入り口も上手くカモフラージュされている。俺一人では、ここに来るのは不可能だろう。


 その奥、薄暗い空間に、一隻の船が鎮座していた。


 でかい。いや、船としては小さい部類なのかもしれないが、間近で見るとずいぶんな迫力だ。全体的に継ぎ接ぎだらけで、あちこちに溶接の跡がある。どこをどう見ても、スクラップを寄せ集めて作った船だとわかる。


「今まで部品や資金が足りなくてね。それに僕一人だとちょときつくて、制作を諦めてたんだ。だけどP-0のリストや蓮華の術のおかげで、完成の目処がついた」


 ジャンクが船を見上げたまま言った。


「船をお持ちでしたのね?」


「この船は、僕が……僕達がここに来てから、スクラップや廃棄物を拾っては、少しずつ、少しずつ、仲間みんなで組み上げた船なんだ。いつかここを出て、僕達の故郷へ帰るつもりだった」


 一瞬だけ、ジャンクの声が止まった。


「……まあ、その仲間もみんないなくなってしまったし、故郷は追い出されたみたいなもんだから、今更なんだけどね」


 それ以上は何も言わなかった。


(……ああ、そういうことか)


 朝の前のめりな態度の理由が、ようやく繋がった。


 ジャンクは修理の依頼を俺から受けたんじゃない。ずっと止まっていた「自分たちのプロジェクト」を再始動させたかったのだ。


「船の名前は?」


「まだない。蓮華が付けてくれ」


(俺が命名するのか)


 船を眺めた。継ぎ接ぎだらけの、不格好な船。


 でもジャンクや、いなくなったジャンクの仲間達の想いが積み上げてきたものを確かに感じる。


「……『廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号』ですわ」


 口が勝手に命名した。


 センスは別に置いておき、名付けの方向性は悪くないと思った。


 けど思いのある船の名前だ。レンカガネとは違う。 あの船には積み重ねてきた時間がある。スクラップ一つ一つに、誰かの手が入っていて、失われたものの代わりに繋いできたものだ。軽く扱っていい類のものではない。


 ジャンクがしばらく考えた。


「……まあ、いいか」


「いいのかよ」


 素の言葉がでた。


 P-0のレンズが船を見回した。


「お嬢様、一点よろしいですか」


「なんですの」


「『廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号』という名称ですが、現在の外観との乖離が著しいかと存じます」


「それが何か?」


「いえ、記録いたします」


 ジャンクが苦笑いを浮かべた。


「本日の作業報告をよろしいですか」


「どうぞ」


「術力制御の基準値を確定しました。ジャンクさんの設計と合わせて、明日から実装テストに入れます。それと」


「なんですの」


「お嬢様は、時折、口調が乱れることが確認されてます。あれは、はしたないかと存じます」


「……善処いたしますわ」


 口が勝手に動いた。


 善処しなくてもいいから、俺が思ってないことは言わないで欲しいよ。


 俺は船を見上げる。


 不格好な船。


 でも――


(これで出航できる)

わたくし達の船になる「廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号」の初御披露目ですわ。

命名の品格について、異論のある方は評価欄で存分にどうぞ。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークと評価でご支援くださいませ。

(……本当に、よろしくお願いいたします)

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