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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第1部】追放と漂着

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「わたくしのスキルですの(解除不可って何だよ)」

 目が覚めた。


 天井が金属だった。


 ……そうか。宇宙だ。


 夢じゃなかった。


 寝袋の中で数秒じっとしていた。前世でも毎朝やってた作業だ。仮眠室の天井を見ながら、今日も仕事か、と思う、あの感じ。状況は全然違うが、気分は同じだ。


 ジャンクはいなかった。作業着がなくなっている。もう動いてるらしい。


 体を起こした。体が勝手に優雅な所作で寝袋から抜け出す。着物の乱れを整えて、髪を直す。自動だ。俺は何もしていない。


(お前は寝起きでも令嬢なのか)


 まあいい。


 昨日の寝落ち直前に見えたあれを、まず確認したかった。


 ステータスオープン。


 出た。


 まぶたの裏に、半透明のウィンドウが浮かんだ。昨日は一瞬しか見えなかったが、今日はちゃんと読める。


---


 名前:九頭竜蓮華

 称号:元皇国第一公爵家令嬢

 体力:9999

 筋力:9999

 敏捷:9999

 知力:9999

 術力:9999

 闇術適性:9999

 属性:闇

 スキル:【悪役令嬢】(解除不可)


---


 称号だけ普通だった。


 他が全部おかしい。


 ジャンクが昨日言っていた。標準値が50で、鍛えた人間でも200か300。999なんてこの宇宙に三人しか確認されていない。


 9999が、六項目並んでいる。


 恋トキのパラメータ最大値は99だった。攻略キャラのほとんどが90台で、蓮華の闇術適性は確か……97か98だったはずだ。それが今は9999。


 桁が二つ違う。


 設定ミスにしても、笑えないレベルだ。


 スキル欄を展開した。


---


 【悪役令嬢】(解除不可)

 効果①:口調補正

 効果②:所作補正

 効果③:威圧

 備考:解除不可。永続。


---


 解除不可。永続。


 一生このままか。


 まあ、今更だ。昨日一日でとっくに思い知った。受け入れるしかない。


 ステータスを閉じた。


 次は術の確認だ。一人でやりたい。


 ちょうどジャンクが入り口に現れた。朝飯を持ってきたらしい。金属のトレイに、板状の何かと灰色の液体。


「朝飯、先に食えよ」


 受け取った。板状のものをかじった。


 まずい。固い。味がない。でも腹に入る。それだけでいい。


「お味は……まあ、及第点を差し上げましょうか」


(全然及第点じゃない)


 ジャンクがまた微妙な顔をした。


「顔が嘘をついてる」


「口が勝手に動きますの。お気になさらず」


 さっさと食べ終えて立ち上がった。


「少々、一人になる時間が必要ですわ」


「案内しようか」


「道案内は結構ですわ。わたくしの足で十分ですの」


「迷ったら戻ってこい。このステーション、構造がぐちゃぐちゃだから」


 部屋を出る。


 錆びた通路を一人で歩く。何人かとすれ違った。みんな、こっちをちらりと見て、目を逸らす。


 人気のない区画を探した。端の方に使われていない倉庫がある。広さは十分だ。


 扉を閉めた。


 まず感覚で出してみる。


 手のひらを前に出す。出ろ、というイメージだけで。


 指先に、紫の光が灯った。


 あっさり出た。この体にとっては呼吸と同じくらい自然な動作らしい。


 次に、意識を強く向けてみる。術式の構造をちゃんと見ようとする。


 頭の中に、何かが浮かんだ。


 光の文字列みたいなもの。なんだろう、これ。


 ……なんか、見覚えがある感じがする。毎日眺めていたものに、どこか似ている。どこが入力でどこが出力か、何となくわかる気がした。


(コードみたいだ)


 試しに、出力の値を絞ってみる。該当部分に意識を向けて、数値を下げる。


 指先の光が、米粒ほどに小さくなった。


 今度は少しだけ上げてみる。


 光が拳大になった。それだけで倉庫の空気が変わった。温度が上がる。壁が微かに振動している。


(これ以上は危ない)


 即座に値を戻す。光が消えた。


 ……術式を書き換えられる。感覚で出すだけじゃなく、中身を意識的にいじれる。これは使えるかもしれない。


 次に系統を試したかった。


 企画書で横目に見た名前が、うろ覚えで頭に残っている。確か七つあった。蝕、帳、歪、刃、融、墜、纏。全部の効果は覚えていないが、いくつかはなんとなく記憶にある。


 融。物質を溶かして変質させる系統。融ノ手、という技名だったはずだ。


 手のひらに意識を向ける。融、というイメージ。頭の中に別の術式が浮かんだ。さっきとは構造が違う。


 指先の色が変わった。


 金属片を拾ってきていた。触れてみる。


 じゅっ、という音がした。触れた部分だけ、きれいに溶けて液状になっている。熱くない。痛くない。ただ金属が溶ける。


(鉱石の精製に使えるんじゃないか)


 不純物を取り除いて純度を上げる。宇宙では資源が貴重なはずだ。売れるかもしれない。


 当面の生活費の問題が、少し見えた気がした。


 他の系統も気になったが、今日はここまでにしておこう。倉庫の壁をこれ以上傷つけたくない。


 最後に威圧を試した。


 術式とは違う。頭の中に何も浮かばない。ただ、威圧しようと思っただけで空気が変わった。


 それだけだ。オンとオフしかないのか。


 扉を開けて通路に戻る。すれ違った作業着の男が、こっちを見て二歩後ずさった。


(あ、威圧切れてないのか)


「お見苦しいところをお見せしましたわ」


 男は首を傾げながら去っていった。


 ……ちゃんとオフにしてから出るようにしよう。



 部屋に戻るとジャンクが端末を見ながら設計図を組んでいた。


「どうだった?」


「収穫がありましたわ」


「そうか」


 それ以上は聞かなかった。


 ジャンクが端末をこちらに向けてきた。


「昨日言ってた術のエネルギー応用、設計図組んでみた。見てくれるか」


 覗き込む。機械の構造は俺にはわからない。ただ、術力の出力を制御するという話なら別だ。


「悪くない着眼点ですわ」


「だろ? ただ術力をどう機械に受け渡すかが全くわからなくて」


「……機械側はあなたに任せますわ。出力の制御は、わたくしが考えましょうか」


 ジャンクが顔を上げた。


「制御って、どうやって」


「術式の構造を意識的に調整できますの。出力の値を変えるくらいなら、何とかなるかもしれませんわ」


(頭の中でいじる感覚だ。うまくいくかはやってみないとわからないが)


「……令嬢なのに、何でそういう発想になるんだ」


「色々ありましたの」


 ジャンクは一瞬きょとんとしてから、また笑った。


「わかった。分業にしよう。機械側は俺が組む。制御側は蓮華に任せる」


「機が熟せば、特別にお力添えいたしますわ」


(やる気はある。ただうまくいくかどうかは別の話だ)


「ジャンク、少々お聞きしてもよろしくて?」


「何?」


「この近くに市場はありますの?」


「闇市なら第三区画にある」


「お金を稼ぐ為の、わたくしなりの算段がありますの」


 ジャンクはしばらく俺を見ていた。


「……昨日今日でずいぶん落ち着いてきたな」


「追放された身ですもの。のんびりしている暇はありませんわ」


(そうしないと生き残れないからだよ)


 ジャンクが笑った。


「そうだな。何かあれば手伝うよ」


「ご厚意、覚えておきますわ」


 泥水コーヒーを一口飲んだ。まずい。でも今日は昨日より少しだけマシに感じた。


 当面の方針は決まった。融ノ手で鉱石を精製して売る。金を作る。制御プログラムはその後だ。


 それだけでいい。今日のところは。

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