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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第3部】恋トキ外伝 -DARK BLOSSOM-

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30/33

「攻略対象キャラですわ(俺は男だからな)」

 営業部長ガーツ・ガーツからの連絡は、珍しく丁重なものだった。


「ファルケン財閥のシリウス・ファルケンという男からの取引の申し込みだ。その取引の条件として、レイ・ヴァン・クロウゼルに直接会いに来て欲しいと言っている」


「シリウスとは、どのような方ですの」


「……悪い奴ではないんだがな。なかなか厄介な御曹司だ」


 あのガーツが珍しく言葉を選んでいる。


「なるほど、よくわかりましたわ。その取引、許可しますわ」


 いや、本当はこれっぽっちもよくわかっていない。


 基本的に俺は三十五歳の社畜プログラマーだ。


 商談の対応はスキル「悪役令嬢」に任せているが、俺としては「面倒くさいクライアントの取引なんて勘弁してくれよ」と胃が痛む思いだった。この口は相手によっては勝手に煽り散らすからだ。


 ヴォイドカルテルとレジスタンスを合併吸収して成長した蓮華マテリアル商会は、今や大商会の仲間入りを果たしてしまった。


 そのせいで、最近はこういった御曹司だの会長だのといったVIPとのやり取りが目に見えて増えている。


 それに伴いジャンクやナイラ、レイたちもそれぞれ部門の部長に就任し、忙しい毎日を送るようになっていた。


 前世は過労死した身だ。せっかく異世界に来たというのに、また同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。


 そろそろ本格的に、組織の働き方改革をしないといけない時期かもしれないな。


 そんなことを考えていると、取引の指名を受け、採掘場チームの主任パイロットへと出世したレイが物凄い勢いで部屋に飛び込んできた。


「シリウス・ファルケンから取引の指名が来たって本当ですか!? あんな奴と二人きりは絶対に嫌です、蓮華さん一緒についてきてください!」


「構いませんが、お知り合いですの?」


 そこまで言うと不意に思い出した。


 シリウス・ファルケン。こいつ、恋トキ外伝のキャラだ。


 もともと硬派な戦略シミュレーションゲームだったのに、無理に乙女ゲーへの仕様変更された『恋トキ外伝 -DARK BLOSSOM-』。


 それに伴って急遽追加された攻略対象キャラの一人。


 レイが顔を曇らせた。


「レジスタンスで出世しないと出会わないのに……。商会でもフラグが立つなんて。なんで急に」


「まあ、行ってみればわかりますわ」


「そうですね!」


 レイの切り替えの早さは、プロジェクトの仕様変更にすぐ対応できるデバッガーみたいで助かる。


---


 待合室の扉を開けた瞬間、目が眩むほどの逆光だった。


 窓を背にして立っているせいで、シリウス・ファルケンの輪郭が光に縁取られている。無駄にドラマチックな演出だ。目がチカチカする。


「乙女ゲームの演出って、こんな風に再現されるんだ……」


 レイが謎に感動していた。


「逆光なだけですわ。ブラインドを閉めさせましょう」


 そんな俺たちのやり取りを気にも留めず、シリウスが優雅な足取りで近づいてきた。


 逆光の影から現れたその姿は、一言で言えば王子様だった。


 丁寧に整えられた、いかにも育ちの良そうな艶やかな金髪。こちらのすべてを見透かすような、深く澄んだ碧眼。


 少女漫画からそのまま抜け出してきたかのような、完璧な八等身の金髪碧眼イケメンである。


 乙女ゲームへの仕様変更に際して、作画班が限界まで気合いを入れ、限界まで予算を注ぎ込んでグラフィックを盛りまくったことが容易に想像できる容姿だった。


 これ、グラフィック担当も過労死してないか心配だ。


「九頭竜蓮華様、お会いできて光栄です。まさか辺境の魔女と呼ばれる方が、こんなにも美しいとは」


 シリウスは滑らかな動作で、俺の隣に立つレイへと視線を移す。


 その瞳に、どこか熱を帯びた光が灯る。


「そしてレイ・ヴァン・クロウゼル。やっと君に会えた」


 やたらと低くて落ち着いた声だ。人気声優にでもなれそうだな。


 いや、人気声優を採用したのか。


「声が……! 声が良すぎます、蓮華さん……!」


(レイ、お前こいつのこと苦手なんだよな……?)


 内心で激しく突っ込みつつも、俺は優雅に一礼した。


---


 商談が始まった。


 シリウスはよく話す男だった。資金援助の条件、協力の範囲、情報共有の方法。どれも極めて筋が通っていて、財閥の御曹司という肩書きが飾りではないことくらいは評価できた。


 要件定義がしっかりしているクライアントは嫌いじゃない。


 シリウスはレイと話をしながら、時々、こちらを確認するような目線を寄越してはニコっと微笑む。


 レイが「ちょっと失礼します」というと、また袖を引いてきた。


「こいつ、蓮華さんをチラチラ見てますよ」


「わたくしが代表なのですから、反応を気にするのは当たり前ですわ」


 決定権を持つトップの顔色を伺うのは本能みたいなもの……と、口では偉そうに言ったものの、俺の内心は冷や汗モノだった。


(いや、それでも見すぎだろ。やっぱり付き添いの俺が邪魔なのか……?)


 シリウスがレイに向き直った。


「君は昔、海賊に襲われていた男を救った。覚えてるかい?」


「あ、いえ、そんなに……」


「その男が、僕だと言ったら驚くかい?」


「いや、別に……」


 シリウスが穏やかに笑った。


 そして、またしても俺をチラッと見ると、今度はとろけるような甘い微笑みを浮かべた。


 背後にバラの花びらでも散らせていそうな、場違い極まりない色気。


 あまりのシュールさに、俺は背筋が凍るのを通り越して震えた。


---


 商談の終わり際、シリウスが扉まで見送りに来た。


 レイに向かって、これ見よがしに微笑みかけた。


「またお会いできることを楽しみにしています、レイ」


「あ、はい、こちらこそ……」


 返事をしながらも、レイの眉間には思いきり皺が寄っている。商談においてその素直すぎる嫌悪感はマイナスだ。後でアドバイスしないと。


 シリウスが、最後にもう一度だけ俺をじっと見つめてきた。


「蓮華も、ぜひまた」


(もう呼び捨て?)


「ええ、よろしくお願いしますわ。次回の契約書の修正案、楽しみにしております」


 俺が営業スマイルを返すと、彼は一瞬だけ奇妙に目を見開いた後、静かに扉を閉めた。


---


 帰り道。


「……なんか、変でした」


 レイが首を傾げていた。


「何がですの」


「シリウスが、ちゃんと商談してたんですよ」


「なら、良かったですわ」


「違うんです」


 レイが少し真剣な顔になった。


「本当は、あそこで私が女だと気がついて、口説こうとするんです。蓮華さんがいるから、無理矢理は無いだろうと思ってたんですけど……」


 少し躊躇いながら続けた。


「……あいつ、途中で気が変わって蓮華さんを口説きたかったんじゃないですか」


「まさか。気のせいですわ」


「気のせいじゃないと思います……。蓮華さんは知らないでしょうけど、あいつはそういう男です」


 たしかにシリウスはフラグ分岐が多くて、プログラムがクソ面倒だった記憶がある。


「わたしのせいで、蓮華さんまで巻き込んでしまった気がして……。あの男、絶対に蓮華さんを狙ってます。本当に気をつけてくださいね」


「……何に?」


 狙われてると聞いて、ちょっと素がでた。


「気をつけるべきは、イベントの強制力です」


 レイは周囲を警戒するように声を潜め、早口でまくしたてた。


「シリウスとの出会いは、商会に所属でもフラグが立ちました。これって、きっとこの世界が強制的にイベントを進めようとしてるんだと思うんです」


 レイは少し間を開けた。


「……とにかく、あいつは、ありとあらゆるベタな恋愛イベントを物理的に発生させて外堀を埋めてくるタイプのキャラなんです!」


(力技のシナリオ進行……)


「しかも、個別ルートに入ると、選択肢を間違えた瞬間に財閥の権力で拉致監禁されます。ヤンデレ監禁BADエンドです」


「……監禁、ですの?」


 35才のおっさんが、金髪碧眼のイケメンと監禁生活とは笑えない。


「蓮華さんのステータスなら大丈夫と思いたいんですけど、もしイベントに強制力があるなら、もしもの可能性があると思って」


 レイは真剣に俺を見つめる。


「シリウスから個人的なお誘いが来ても、絶対に有能な部下を数人引き連れて行ってください。私でも良いです。二人きりはデスフラグです!」


「……なるほど。善処しますわ」


 俺は笑顔の仮面を張り付かせたまま、心の中でガーツに激しいクレームを送りつけた。


 どこが悪い奴ではないだ。完璧に悪い奴じゃねーか。

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