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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「帰りますわ(無事に帰りたい)」

 正直にいうと、戦闘は回避できるかもしれないと甘い期待をしていた。


 レイは以前、「レジスタンスの勧誘を断ると戦闘になる」と言っていた。


 だが今回は、まだガーツがヴォイド・カルテル側にいる段階での接触だ。少なくとも、レジスタンスからの勧誘ではない。


 となると戦闘フラグの条件は、ガーツの誘いを断ることだったのだろうか。


 そんなのプログラムした記憶がない。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか十数人に囲まれていた。


 四方から機械的な駆動音と共に銃口が向けられる。


 俺の身体が、まるで舞踏会のように流れる所作でゆったりと腕を上げた。


「あら。名乗りもなく銃口を向けるなんて……。作法をご存じなくて?」


 帳ノ衣。


 四方から一斉に放たれる弾丸。しかしそれらは、俺やレイの周囲数センチに触れた瞬間、溶けるように消える。


 静寂の中、ひとりの男が引きつった顔で呟いた。


「……辺境の魔女だ」


「えっ、こ、こいつが……」


「……なんでこんなとこにいるんだよ!」


 全員が露骨に引いていた。これまでの余裕が嘘のように、部屋の空気が凍りつく。


「援軍だ!援軍を呼べ!構うな、あるだけの火力を注ぎ込め!」


 リーダー格らしい男が、裏返った声で叫ぶ。


 壁がスライドするように開くと、隠し扉から重武装の兵士たちがなだれ込んできた。


「そんなに急がなくてもよろしいですわ。わたくし、まだまだ余裕がございますのよ?」


 次々に撃ち込まれる高出力の弾丸やレーザービーム。さらに後方の魔法使いたちが、練り上げた炎と雷の複合魔術を同時に放ち、空間が熱と電撃で歪む。


「混ぜ物をするなら、もっと上品に仕上げてくださいませ」


 歪ノ術。


 指先を軽くひねると、迫り来る炎と雷は空中で不自然にねじれ合い霧散した。


 あまりの人数に、入り口付近では後続の兵同士がつかえ、後ろから押し込まれて身動きが取れなくなっている。


「では、今日のところはこれで失礼いたしますわ」


 パチン、と扇をゆったりと閉じる。


「次にお会いする機会がありましたら、その時はもう少し楽しませてくださいまし。では、ごきげんよう」


 俺は唖然としているレイの腕をそっと取り、何事もなかったかのように優雅に歩き出した。本当は走り出したいのに、優雅さが上書きされて走れない。


 背後では、敵兵たちが金縛りにあったように動けずにいる。


「れ、蓮華さん、歩いて帰るんですか! 案内役の人もどっか行っちゃったし、帰り道わかるんですか!」


「そんなもの覚えておりませんわ。でも、他に方法がありまして?」


 微笑みながら廊下に出た瞬間、天井の隙間から影が落ちる。


 上から不意打ちの四人。壁際から飛び出す三人。鋭い刃と魔力を纏った拳が、同時に俺の死角へと迫った。


 だが、俺は歩みを止めれない。


 帳ノ衣が触れた瞬間にそれらの凶器のすべてを弾く。その反動だけで、暗殺者たちは勝手に吹き飛んで壁に叩きつけられた。


「風情のある登場ですわね。ですが、少々芸が足りないですわ」


 廊下の奥からズシン、ズシンと重い金属足音。角を曲がって現れたのは五機のパワードスーツだった。


「数を揃えるのは結構ですけれど……質が伴わないのは、少々お粗末ですわ」


 歪ノ術。


 視線を向けた瞬間、全機の関節部分が、目に見えない力で同時に真逆へとねじ切れる。


 金属の悲鳴と破裂音が廊下に高く響き渡った。


 俺とレイは、まるで静かな庭園を散歩するかのように、火花を散らす鉄屑の横を通り過ぎていく。


 やがて、廊下の先に怪しく明滅する大規模な魔法陣が見えた。床一面に張り巡らされた、トラップの術式。


「子供のお絵描きのようで、可愛らしいですこと」


 速度を落とすことなく、迷わずその中心を踏み抜く。


 蝕ノ掌。


 床から放たれた衝撃のエネルギーそのものを、一滴も残さず闇へと吸い込む。足元で小さく土埃が上がっただけだった。


 かるく扇を翻し、また進む。


 別の広い廊下に出ると、パワードスーツ十五機が隙間なく横一列に並び、一斉に大型ガトリングの銃口をこちらに向けていた。


「先ほどから同じような手札ばかり。まるで三流劇団の再演ですわ」


 扇を口元へ添え、くすりと笑う。


「芸がないにも程がありますわ。せめてわたくしを楽しませたいのでしたら、次はどう来るのかしらくらいは期待させてくださらないと」


 墜ノ術。


 身体が勝手に扇を上から下へと振り下ろした瞬間、十五機の直下の床だけが、超重力によって円の形に綺麗にくり抜かれた。


 床が消え、抗う術なく一斉に落下していく十五機。下の階から派手に砕け散る重低音だけが、静まり返った館内に響いた。


 上へ抜ける階段を見つけては登り、ようやく見覚えのある大廊下へと出る。


「ここまで来るとはな。だが、ここまでだ」


 そこには沢山の兵士の前に、ガーツがひとり先頭に立っていた。


 ガーツがパチンと指を鳴らす。


 一瞬でパワードスーツを纏い、頭部バイザーまで完全に閉じている。先ほどのパワードスーツとは装甲の色が違う。周囲の光を妙な具合に吸い込む、不気味なくすんだ銀色。


「まあ」


 俺は試すように、ガーツに向けて歪ノ術の術式を走らせた。


 だが、紫色の光が装甲の表面に触れた瞬間、パチンとガラスが割れるような音を立てて術式自体がかき消える。


 続けて墜ノ術の重力圧を叩きつけてみる。それでもガーツはびくともせず、微動だにしない。


「無駄だ!魔女よ、お前が持ち込んだ、このレンカガネの脅威を身をもって知れ!あらゆる魔とスキルを無にする金属だ!」


 レイが息を呑み、俺の袖を引く。


 やはりというべきか。軍事利用を考えるなら、対魔法・対能力者装甲としては理想的、かつ最悪の代物だ。どんなに強力な魔法使いも、これの前ではただの人間に成り下がる。


 ガーツの勝ち誇った笑い声が響く中。


 俺は、ゆっくりと扇を閉じた。


「……」


 一歩、踏み込む。


 魔法が使えないと見て、ガーツが勝利を確信しながら巨大な機械の腕を振り上げた。


 その瞬間。


 鋭い踏み込みと共に放たれた俺の右拳が、パワードスーツの分厚い胸部装甲へ、めり込むほど深々と突き刺さった。


 響いた音は、ただ一つ。衝撃の塊のような鈍い音だった。


「が、はっ……!?」


 ガーツの巨体は、一瞬だけ宙に浮いたかと思うと、弾丸のような速度で廊下を転がり、背後の頑丈な壁を何枚も突き破り、そのまま遥か奥の部屋へと消えていった。


 崩れた壁から、白い粉塵がサラサラと虚しく舞い上がる。


 しばらくの間、敵の残党も、レイも、誰も声を出さなかった。


「れ……蓮華さん」


「なんですの?」


「今、素手で……、ただのパンチで吹き飛ばしましたよね……?」


 驚愕に目を見開くレイに対し、俺は何事もなかったかのように、服にかかった粉を払う。


「魔法やスキルが通じない時は、やり方しだいですわ。わたくし、お転婆というものに憧れていましたの」


 それだけ言って、何事もなかったかのように、また優雅に歩き出した。

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