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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「同じ転生者ですわ(やっぱりね)」

 商業区の外れに、小さな軽食スタンドがあった。昼時を外れた時間帯で、客はほとんどいない。


 カウンターの席に腰を下ろすと、頭の奥にまだ夢の余韻が残っているのがわかった。


 あの、孤独を積み重ねた日々から抜け出せない。体はここにいるが、意識はどこか霞んでいる。


「蓮華さん」


「……なんですかしら」


「少し、変な話をしてもいいですか」


「この広大な宇宙ですもの。今さら普通を求めるほどわたくしも野暮ではありませんわ」


 レイはしばらく黙って、手元のカップを見つめてから、決意したように顔を上げた。


「わたし、この世界の人間じゃないと言ったら信じますか。ここじゃない別の世界から転生してて……」


 ここがゲームの世界であること、自分が実は女性で転生者であること。レイは静かに話した。


 そこからも色々と話してくれたと思う。でも今の俺には、全部が霞の向こうの話だった。


「外伝のシナリオで、やることがあって。連邦シナリオ、レジスタンスシナリオ……。共通クエストもあって。蓮華さんはゲームの中では裏ボスなんです。だけど会ってみて、きっと大丈夫だと思って」


 そうか、と思った。


「だから、仲間が必要で。特にジャンクさんやナイラさん、リンさんを仲間にしたいので……」


 その瞬間、頭の霞が一気に消え失せ、憎しみのような感情で心が埋まる。


 どれだけ積み上げても、誰かのものになった。


 どれだけ成果を上げても、誰も見てはくれなかった。


 冷たい廊下。扉の前で手を下ろした、重い箱を棚に置き、心を殺したあの日。


 だが、今は違う。


 不器用な手つきで、ジャンクが初めてコーヒーを持ってきてくれた。


 何も言わずに、ナイラは隣に立ってくれた。


 「見て」と、リンが少しだけ誇らしげに端末を傾けて見せてくれた。


 ……やっとだ。


 やっと、手に入れたんだ、それを。


 突然、力が溢れた。


 合金製の机の半分が、触れてもいないのにどろりと黒く焦げ、腐食していく。


 床の食器が振動で落ち、砕け散った。空気が重くなり、レイを圧迫した。


「わたくしの……ですわ」


「れ、蓮華さん?」


「わたくしが、わたくしとして生きるために、ようやく手に入れたものですわ!」


 闇術が腕を伝って黒い霧のように滲み出ていた。机の焦げがさらに広がり、床にまで侵食を始める。


「その方たちを、わたくしから奪うことは、何人たりとも許しませんわ。例えあなたが、主人公だとしても!」


 レイは、ただ圧倒されていた。


 しばらくして、沈黙の中にレイの小さな声が届いた。


「……ごめんなさい。奪うつもりじゃなかったんです。みんなで一緒に、って……そう言いたかっただけで」


 バシッ。


 乾いた音が店内に響いた。


 俺は両手で、自分の頬を強く叩いた。じわりと広がる痛みで正気を取り戻し、暴走しかけていた術を強引に押し込める。


(……何やってんだ、俺は)


 夢で見た蓮華の記憶。積み重ねた孤独。失い続けた時間。


 その感情が、まだ自分の中に残っている。


 俺の感情と、蓮華の感情の境界が曖昧になっていた。


(……夢の影響か)


 自覚すると、逆に少しだけ冷静になれた。


「……少し、時間をくれ。また後日連絡する」


 素の言葉が出た


 逃げるように店を出て、廊下の角で壁に手をついた。膝が笑っている。


「お嬢様」


 P-0の声がした。


「なんですの」


「術力の異常漏出を確認しました。ステーションのセンサーが警報を発する寸前でした」


「……問題ありませんわ。少し、虫の居所が悪かっただけです」


「記録します」


「こんな時にまで記録しなくていいですわ」


 体の震えが収まるまで、俺は冷たい壁から離れることができなかった。


---


 部屋に戻ってから、扇を膝の上に置いて、天井を見た。


 術力はもう落ち着いていた。頭も、少しずつ戻ってきていた。


(整理しないと)


 レイは自分は転生者だと言った。正直、そうだろうとは思っていた。何やら怪しい雰囲気だったし、同じ転生者として気づかない方がおかしい。


 三人を仲間にしたい。


 その言葉で制御が飛んだ。


 今ここにいるのは間違いなく俺だ。記憶も、自我も、思考も俺のものだ。


 だが、時々こうして、蓮華の感情があまりにも自然に混ざる。


 蓮華という人格は、今どうなっているんだ?


 消えたのか、それとも、俺の奥底でまだ生きているのか。


(……考えても答えは出ないな)


 レイとの会話も、あのまま終わらせるのは良くない。それに聞きたいことはまだまだある。


 蓮華が裏ボスとして設定されているなら、ゲームの中でどういう存在だったのか。


 ただ、そもそも俺は外伝を途中までしかプログラムしていない。途中で過労死したから、外伝は発売されていないはずだった。


 いや、もしかして発売されたのか。


 あり得る。途中まで作っていたデータは残っている。他のスタッフが引き継いで発売したなら、レイの知っている「外伝」が存在していてもおかしくはない。


 そこまで考えて、頭を抱えた。


「……面倒くさ」


 思わず本音が漏れる。 


 ゲームのシナリオだの、世界の危機だの、正直どうでもいい。


 俺の目的は一つだ。悠々自適に暮らすこと。困らない程度に金を稼いで、安全な拠点を作って、気の合う仲間と適当に飯を食って暮らす。


 その程度でいい。


 でも、もしこの世界がシナリオ通りに動くなら、平穏そのものが吹き飛ぶ可能性がある。


 俺はしばらく天井を見つめたまま、ゆっくり目を閉じた。


 やっぱり……、まずは情報だよな。


 知らなければ、対処もできない。


 今の平穏を全力を守る。


 それこそ誰にも奪わせるものかと、胸の奥で静かにそう思った。


---


 翌朝、レイに連絡を入れた。


 場所は変えた。商業区の中ほどにある小さなバーだ。昼前の時間帯で、客は俺たちだけだった。


 レイが来た。少し緊張した顔で向かいに座った。


「昨日は、失礼しましたわ」


「……いいえ、わたしこそ」


「いいえ」


 短く返した。謝罪の応酬は要らない。


「一つ、聞いてもよろしいかしら」


「はい」


「ゲームの中で、わたくしがどういう存在だったか、教えていただけますの」


 レイが少し考えてから答えた。


「外伝では裏ボスとして実装されてたんですけど、バックストーリーはなかったんです」


「バックストーリーが、ない?」


「はい。キャラクターとしてデータはあって、戦闘にも出てきて。でも、なぜ裏ボスになったのかとか、どういう経緯があったのかとか、そういう話は外伝の中には一切なくて」


(実装だけされていた、か)


「なぜ裏ボスに、と思いますの」


「わたしの予想なんですけど」


 レイが少し言いよどんだ。


「本編の『恋華☆トキメキ☆プリンセス』での蓮華さんって、すごく人気で。攻略できないのに、みんな好きで。だから外伝でも大きい役をあてたんじゃないかって」


「……まあ」


 俺は扇を、ゆっくりと開いた。


 口元を隠して、少し顎を上げた。


「当たり前ですわ」


 レイが少し固まった。


「え」


「人気があるのは、当然のことですわ。それだけのことをしてきましたもの」


「……あの、それは、本家ゲームの中の蓮華さんの話で」


「存じておりますわ」


 口が勝手ににやつく。


 (蓮華が照れてるのか?)


 扇をパチンと閉じた。


 俺の中で、何かが少し、軽くなった気がした。


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