「やめておきますわ(どっちも)」
レイ・ヴァン・クロウゼルが蓮華マテリアル商会に入会することになった。肩書きは採掘場チームの専属パイロット。
ナイラが操船の腕を確かめた結果、「使える」の一言で誰も文句なしの採用となった。
レイは実は男装令嬢で、転生者でもあり、この世界の主人公であることは、みんなには伝えていない。
これはレイと相談して決めたことだった。余計な心配を与えるより、今のままの距離感で過ごしてもらった方がいい。そう判断した。
三日間ストーカーしてきた熱烈な蓮華マテリアル商会ファンで、何度も面接をしてやっと入会できた、腕のいい元傭兵という、本人にとっては複雑すぎる設定で通している。
実に盛りだくさんな奴だ。
ただ、俺はレイに自分が転生者だとは伝えていない。言おうとした瞬間、何故か口が話すのを拒否したからだ。
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三日目の夜。
レイの歓迎会を兼ねた夕食が終わり、食堂にゆるい空気が流れ始めた頃、レイが姿勢を正した。
「あの、一つ……情報があって、聞いてもらえますか」
「何かしら?」
俺は扇を開き、軽くあおぐ。
「信頼できる筋からの話なんですけど……この宙域で私の名前が広まってるみたいで。近々、商会に二つの組織からスカウトが来るはずなんです」
「どこから?」
リンが首を傾げる。
彼女が知らないというのが珍しい。それだけで、レイの言葉に重みが生まれた。
「連邦と、レジスタンスです。で……どちらかを断ると、断った方と蓮華マテリアル商会が必ず戦闘になります」
ジャンクがコーヒーカップを置いた。その音が妙に大きく響く。
「どっちを断っても戦闘って物騒だよね。断り方次第だと思う。それに……リンが知らない情報源って、僕は信用できないかな。裏取りできない話は危ないから」
その一言で、レイの背筋がぴんと伸びた。
「そ、そうですよね。私なんかの情報じゃ信用できないですよね。でも、本当なんです」
「落ち着きなさいな。わたくしは信用しておりますわ。続けて」
俺が宥めると、レイはほっと息をついた。
「レジスタンスのリーダーは、ガーツ・ガーツっていう人で。わたし的には、連邦よりレジスタンスの勧誘を受けた方がいいかなって……」
「ガーツ・ガーツ」
ナイラが低く呟いた。
「……知ってるんですか?」
「知ってるも何も」
ナイラの表情が険しくなる。ナイラが、みんなの顔を確認するように見て頷く。
「ヴォイド・カルテルの重役だぞ」
「えっ」
レイの目が丸くなる。
「ヴォイド……カルテルって、あの……」
「この宙域の犯罪組織だよ」
ジャンクが静かに告げる。
「ドルドもそこの人間だし」
「ドルドも……!」
レイが椅子から乗り出す勢いで前のめりになった。
「じゃあ、ガーツ・ガーツがレジスタンスのリーダーってことは……レジスタンスって」
「ヴォイド・カルテルの組織、ということになりますわね」
食堂に、重い沈黙が落ちた。
「……そんな設定なかった」
レイがぽつりと呟く。
(みんなの前で余計なことを呟かないでくれ……)
レイは頭を抱えたまま、続けた。
「連邦に対抗する正義の組織だと思ってたのに」
「わたしも……そう思ってました」
リンまで肩を落とす。
「なら、レジスタンスは信用できないってことか」
ジャンクが淡々と言う。
「……じゃあ、連邦のスカウトを受けるのはどう?」
レイが提案するが、ジャンクは即座に首を振った。
「反対。連邦なんて、取引相手ならともかく所属するもんじゃない。ナイラもそう思うよね」
「……まあな」
ナイラの顔は渋い。どうやら連邦に良い思い出はないらしい。
「あそこは、面倒ごとの種だ」
「でも、断ったら戦闘になるんですよ……?」
レイが不安げに言う。
「なったらなったで対処しますわ。どちらかに与する方が、よほど危険ですもの」
「……まあ、いいか。どうせどっちに転んでも面倒だしな」
ジャンクが肩をすくめた。
その言葉に、レイが前のめりになる。
「……何?」
「ジャンクさんの、生『まあ、いいか』いい!」
「え、口癖だよ」
「その口癖がいい!」
ジャンクが困ったように眉を寄せ、ナイラが小さくため息をつく。
食堂の空気は、ほんの一瞬だけ軽くなって、すぐに戻った。
俺は扇で口元を隠し、笑いをこらえた。
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「P-0、リン。連邦とレジスタンスの動向を最優先で監視なさい。スカウトが来たら即報告をお願いするわ」
「承知しました」
「やってみる」
ふと、俺の口が勝手に喋り出し、扇で口元を隠す。
「……いえ、やっはりガーツ・ガーツの居場所を特定してくださいまし」
「蓮華姉さん?」
リンが不思議そうに首を傾げた。
「わざわざお越しいただくまでもありませんわ。選んでやるなどと傲慢な勘違いをする前に、わたくしの方からお断りして差し上げますわ。それが、わたくしが示せるせめてもの礼儀というものですわ」
優雅に扇をパチンと閉じる。
(平穏が遠のく音がする……)
「さて。準備を始めますわ」
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