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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「それなりに大きくなりましたわ(借金もしてますけど)」

 ドルドの件から数日後だった。


 廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の通信機に、見慣れない回線から呼び出しが来た。P-0が「ガーツ・ガーツ本人からです」と静かに告げた。


「今回の件はドルドの独断だ。こちらの本意では無い」


 短く、それだけだった。


 ガーツからの通信は、謝罪という言葉から連想されるような温度や誠意をまるで含んでいない。


 淡々としていて、必要最低限の情報だけを切り出したような、ひどく事務的な声だった。


「まあ、ご丁寧にありがとうございますわ」


 口が勝手に動く。


「ですが、わたくし共はヴォイド・カルテルの名において、一方的な暴力を受けましたの。それが独断の一言で霧散するわけではありませんわ」


 扇で口元を隠す。


「賠償も示さず、責任も取らず、こちらに実害を与えておいて……それが貴方の仰る本意の全容かしら?」


 わずかに間を置く。


「随分と、お安い流儀ですのね」


(一方的でもなかったし、実害はなかったけどね)


「まさかとは思いますけれど……不始末を収めるだけの余力も残っていらっしゃらないのかしら?」


 扇の奥で、くすりと笑う。


「でしたら、見逃して差し上げてもよろしくてよ?」


 一拍の間を置いて、ガーツが淡々と告げた。


「ドルドの艦隊十五隻。何故か中核ユニットや部品を欠いた機体が多くあるようだが……、その所在は問わないことを賠償としよう」


 それだけで、通信が切れた。


(引いた)


 あっさりしすぎていた。怒鳴りもしない、脅しもしない、食い下がりもしない。


 ジャンクが静かに言った。


「……あっさり引いたな」


「ええ」


「怖くないのか」


「すげー、怖い」


 素が出た


 リンが端末を確認しながらうれしいそうに言った。


「ヴォイド・カルテルの船、完全にいなくなりました。宙域にゼロです」


(船まで引いた。これは本格的に何か企んでいるよな)


 なぜガーツはドルドに任せたのか。


 ドルドが衝突を起こしやすいことは、ガーツが一番よく分かっていたはずだ。


 なのに、今回のような仕事を任せるだろうか?


 むしろ、あのまま真綿で首を締めるような手口を続けてたら、俺は契約結んでいたかもしれないのに。


(ドルドとの衝突を望んでいた?)


 考えても、確信には届かない。


「しばらくは様子を見ますわ。何か動きがあれば教えてくださいまし」


---


 そして数ヶ月が経った。


 蓮華マテリアル商会は、少し大きくなった。


 というよりも、大きくなっていた、という方が正確だ。


 きっかけは「辺境の魔女がヴォイド・カルテルを追い払った」という噂だった。しかも船十五隻を無力化した上で、報復もない。


 その話が広まるにつれて、辺境の魔女という存在が一人歩きし始めた。あの一団に立ち向かえる商会、という看板が気づかないうちについていたのだ。


 そうなると、奴らに睨まれて身動きが取れなくなっていた小さな商会が、次々と声をかけてきたのだ。


「魔女の姉貴に仕えさせてほしい」


「傘下に入れてほしい」


「一緒にやらせてくれ」


 俺は止めようとした。本当に止めようとしたんだが、口が勝手に受け入れを許可した。


 気がつけば、三つの小商会を吸収合併していた。


 吸収合併、なんて綺麗な言い方をしているが、実態はもっと雑だ。行き場を失った連中をまとめて抱え込んだだけに近い。


 一つは採掘専門の小さな業者で、設備はぼろいが腕はある連中だった。合併してからジャンクが設備を刷新し、今では主力の採掘チームになっている。


 もう一つは輸送業を細々とやっていた商会で、船を三隻持っていた。ヴォイド・カルテルに航路を塞がれて仕事が取れなくなっていたところだった。今は蓮華マテリアル商会の輸送部門として動いている。


 最後の一つは情報屋に近い商会で、リンとはもともと顔見知りだったらしい。「リンにお任せしますわ」と口が言い、気がつけばリンの部下になっていた。


 新しい社員は総勢で二十数名になった。


 リンの情報部は、情報収集だけでなく取引先の信用調査や、ヴォイド・カルテルの動向監視まで手がけるようになっていた。本人は「気がついたら仕事が増えてた」とぼやいているが、楽しそうに見える。


 ナイラは新入り社員の戦闘訓練や運転技術の向上を担当している。最初は「めんどくさい」と言っていたが、今では毎朝訓練を開いている。教えた相手が上達すると、無言で頷いている。どうやら教えるのは嫌いじゃないらしい。


 ジャンクは相変わらず廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の整備と、新しく加わった輸送船の改修を担当している。十五隻分の材料はほとんど使い切って、廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の装甲や内装がかなり強化された。「最高の素材になった」と嬉しそうにしている。


 六億円は、そのほとんどを投資に回した。


 設備の刷新、新しい社員の給料、増えた船の修繕費、それから新しい輸送船一隻の手付金。


 当然ながら、借金もした。


「お嬢様、今月の返済額ですが」


「わかっておりますわ。なんとかなりますわ」


「なんとかなる、という根拠はございますでしょうか」


「わたくしがいますわ」


 P-0が少し間を置いた。


「……承知しました」


 本社は廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号のままだ。「本店が船である商会」として連邦データベースに登録されている。新しい社員たちは最初は本気で困惑していたが、今では慣れた。会議も廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の中でやる。


 もちろん来客の対応も廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の中だ。


「代表室はどこですか」


「操縦席の隣ですわ」


「……代表室、ないんですか」


「操縦席の隣ですわ」


 こういうやり取りも、最近は珍しくない。


 この宙域では「辺境の魔女」の商会として、一部の人間に妙な人気があった。 


 取引の場でうちの名前が出ると、相手の態度が少し変わる、という話もリンから聞いた。


 レンカガネは、意図的に採掘していない。


 ミスリルの座標はある。でも俺が精製するとレンカガネになる。レンカガネが出たとなれば、また面倒事に巻き込まれる可能性がある。


 代わりに、採掘チームがミスリルを掘っている。俺が採掘しないとレンカガネにはならないから、ミスリルとして市場に出せる。需要もある。それが今の方針だ。


「魔女の姉貴も採掘に来ないんですか」


 採掘チームの新入りが聞いてきた。入ったばかりで、遠慮がない。


「代表と呼んでくださいな。わたくしは経営に専念しておりますの」


「でも、聞いた話だと魔女の姉貴が採掘すると質がぜんぜん違うって」


「代・表・の、わたくしより、社員の皆さんの腕がよろしいですわ」


「いや、でも」


「わたくしが採掘すると、目立ちすぎますの」


 そこで終わりにした。


(レンカガネのことは言えない)


 こんな感じで忙しい日々を過ごしていた。


---


 ある日の夜、リンが端末を持って来た。


「蓮華姉さん、ちょっといいですか」


「なんですの」


「尾行してる船がいます」


 全員が黙った。


「ヴォイド・カルテルですの?」


「それが……違うみたいなんです」


 リンが端末をこちらへ向けた。小さな光点が、廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号の動きに合わせてゆっくりと動いている。


「船籍が不明で。こっちの動きに合わせて動いてます。採掘エリアに行けばついてくる。ステーションに戻れば戻ってくる。三日前から続いてます」


「サイズは?」


 ナイラが操縦席から言った。


「小型です。戦闘装備は感知できない。でも速い」


 ジャンクが端末を覗き込んだ。


「……見たことない形だな。どこの船だ」


「それがわからなくて」


(ヴォイド・カルテルじゃない。船籍不明。小型で速い。戦闘装備不明。三日前から追跡している)


「本人に聞いてみますわ。P-0、通信を開いてくださいまし」


「承知しました」


 しばらく何もなかった。


 それから、繋がった。


「……あっ」


 中性的な男の声だった。


「もしかして、そっちから通信してきた感じ?」


(……誰?)


「そうですわ。三日前からこちらの動きに合わせていらっしゃるようでしたので、ご連絡いたしましたの」


「えっ、バレてたの? やだ、どうしよう」


 向こうで何かがドタバタする音がした。


「ご安心くださいまし。敵対するつもりはありませんわ。ただ、どちら様かお聞かせいただけますかしら」


「あっ、そうだよね、名乗ってなかった。ごめんなさい」


 少し間があった。


「……レイ。レイ・ヴァン・クロウゼルって言います。一応、独立商人やってて」


(レイ・ヴァン・クロウゼル)


 恋トキ外伝の主人公の名前だ。


 外伝の顔。シナリオ担当ではなかった俺でも、名前くらいは知っている。


「あの、蓮華マテリアル商会のこと、ずっと気になってて。直接会って話できる? いろいろ聞きたいことがあって」


「構いませんわ」


 口が答えた。でも今回は、俺の意志とほぼ一致していた。


「場所はこちらが指定してもよろしいかしら」


「うん、全然いいよ! どこでも行くから」


「では、 カルナ・ステーションの中心部、明後日の正午はいかがでしょう」


「わかった、絶対行く! ありがとう!」


 通信が切れた。


 船内が静まり返った。


 リンが恐る恐る聞いた。


「……入社希望かな」


「わかりませんわ」


 ジャンクが首を傾けた。


 ナイラが一言だけ言った。


「面倒な予感がする」

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