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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「商会を正式に登録しましたわ(今まで勝手に名乗ってただけだった)」

 ガーツと会った数日後、ドルドから連絡が来た。


「六億を振り込んだ。レンカガネ一キロを確かに受け取った。だが、独占取引の返事はいつになるんだ?」


 無視した。


 二日後、また来た。


「契約について話し合いたい」


 無視した。


 リンが困った顔で言った。


「蓮華姉さん、このまま無視し続けるつもりですか」


「ええ」


「理由は?」


「約束した取引は終わりましたわ。ですが独占取引の契約はまだ交わしておりませんもの。返事をするもしないも、わたくしの自由ですわ」


 リンが頭を掻いた。


「それは……まあ、そうですけど。相手がそう受け取るかどうか、別の話じゃないですか」


「向こうの解釈の問題ですわ」


「楽観的すぎませんか」


 扇をゆっくりと開く。


「向こうに必要なのはわたくしで、わたくしに必要なのは向こうではありませんわ」


 ジャンクが静かに言った。


「力で解決しようとしてきたら話が変わるんじゃないのか」


「その時はその時ですわ」


「……まあ、強いの知ってるけど」


 ジャンクが苦笑した。


 リンがナイラを見た。


「ナイラ姉さんはどう思いますか」


「状況を見て動く。今は待つ時間だと思う」


 ナイラがそれだけ言って作業に戻った。


---


 六億円もの大金を手に入れたのはいいが、税金だの申告だの手続きが面倒だ。


 裏で動く分には問題なかったが、この額になると話は別だ。下手をすれば、六億をそのまま持っていかれるかもしれないらしい。


 ということで、商会の正式登録を行うことにした。


「現在、蓮華マテリアル商会は非公式の状態です。取引の法的保護を受けるためには、連邦の商業登録が必要かと存じます」


「そうですわね。いずれやらないといけないと思っておりましたわ」


「書類はすでに準備できております。商会名と代表者名を確定すれば、手続きを進められます」


「商会名は蓮華マテリアル商会ですわ。代表者名は九頭竜蓮華」


「承知しました。本店所在地は」


 口が動いた。


「廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号ですわ」


 P-0が少し間を置いた。


「……船を本店所在地として登録することは、連邦商業法上、可能ではございます」


「では、それで」


 ジャンクが苦笑した。


「本店が船って、移動するたびに住所変わるんじゃないか」


「船籍番号で登録いたしますので、問題ございません」


 登録は半日で完了した。


「蓮華マテリアル商会、連邦データベースへの登録が完了いたしました。商会証明番号が発行されております」


 P-0が報告した。


「よろしいですわ」


 リンが端末を眺めながら言った。


「連邦データベース、検索したら出てきましたよ。蓮華マテリアル商会、ちゃんと載ってる」


 ジャンクが頷いた。


「……ついにグレイヴヤードの闇市から始まって、ここまで来たな」


「感慨深いですわね」


「感慨深いというか、グレイヴヤードにいたほうが安全だった、って感じだけどな」


 ナイラが苦笑いしながら言うと、ジャンクは同意するように頷いた。


---


 ドルドからの連絡は、その後も続いた。


 二日に一度が、一日に一度になった。文面も変わってきた。


 最初は「独占取引の返事はいつだ」だったのが、「なぜ返事をしない」になり、「契約の意思があるのか確認しろ」になった。


 もちろん、すべて無視した。


 実は最近、思い出したことがある。


 ドルド。


 恋トキ外伝にいた名前だ。うっすらの記憶だから確実ではないけど。


 序盤中の序盤、強制イベントで主人公達に負けてた奴だ。


(……もしかして、放っておけば主人公が処理してくれるのでは?)


 実に楽観的な考えだが、のらりくらりかわしていれば、ヴォイド・カルテルのヘイトが、こちらから主人公へ移るかもしれない。


 いや、移ってほしい。


 ガーツ・ガーツはともかく、ドルドならば、この手は有効かもしれない。


「蓮華姉さん、ちょっといいですか」


 考え込んでいると、リンが端末を持って来た。顔がいつもより少し硬い。


「なんですの」


「私達の採掘エリアに、見慣れない船が増えてます。三日前から。動かないんですよ。ただそこにいるんです」


「ヴォイド・カルテルの船ですわね」


 リンは頷いた。


「最近わたしが使ってた情報ルートも詰まってます。買い手が急にいなくなって、売り手も口が重くなった。こっちもカルテルの圧だと思います」


「情報網まで締めてきましたのね」


「P-0、現在の財務状況は」


「レンカガネの売却で六億円の収入がありましたが、これは一度限りの特別収入です。通常の鉄と銅の精製品による月収入は、月契約が一件減るごとに影響が出ます。当面の経費は問題ありませんが、取引先が更に減ると厳しくなります」


「わかりましたわ」


---


 翌日、また一件取引が減った。


 今度はオリハルコンの情報を持ってきてくれた採掘業者だ。「しばらく忙しい」という簡単な連絡だけで、詳細はなかった。


(じわじわ来てるな)


 嫌な感覚だった。


 海賊の時は派手だった。相手がわかりやすくて、力で一蹴すれば終わった。でも今回は違う。見えない圧力が、少しずつ外堀を埋めていく。


 ナイラが低く言った。


「カルテルの船、今日は十二隻になった。採掘エリアの入り口を固めてる」


「採掘できなくなりますわね。ですが、まだ止められてはいませんわ」


「行けないことはないけど、囲まれたら面倒だ」


「なら、行きますわ」


「……え?」


「採掘に行きますわ。囲まれてから考えますの」


 ジャンクがため息をついた。


「蓮華、それは無茶じゃないか」


「向こうも仕掛けてきていないでしょう。牽制の段階ですわ。こちらが動かなければ、主導権を渡すことになりますわ」


 ナイラが短く言った。


「アタイは賛成だ」


「ありがとうございますわ」


---


 採掘エリアへ向かうと、入り口付近にカルテルの船が見えた。


 動かない。何もしない。ただそこにいる。


「蓮華、本当に行くか」


「ええ」


 ジャンク号はゆっくりと進む。


 カルテルの船は道を開け、何もしてこなかった。


 採掘を終えて帰る時も、同じだった。


「……何もなかったな」


 ジャンクが呟いた。


「ええ。でも確実に圧をかけていますわ」


「いつ仕掛けてくると思う?」


 扇を開く。


「ドルドから返事の催促が来なくなったら、ですわ」


 ジャンクが黙った。


「連絡が来る間は、まだ交渉するつもりがあるということ。来なくなったら、交渉を諦めたということですわ。その時に動きます」


 リンが端末を見た。


「……今日も来てます。ドルドから」


「内容は」


「『返事をしろ』」


「まだ大丈夫ですわ」


(でも、時間はそう長くないだろう)


---


 ドルドからの連絡が途絶えたのは、それからすぐだった。


 襲われたのは採掘場に向かう途中だ。


「カルテルの船、こっちに向かってきてる。十五隻」


 ジャンクが端末を見ながら言った。


(やっと来たか)


 ガーツ・ガーツも言っていたが、ドルドは短気だ。姑息な嫌がらせより、直接来る方が性に合っているはずだ。


「P-0、ホログラム投影をお願いしますわ」


---


 包囲が完成すると、通信が入った。


「蓮華マテリアル商会。何度も何度も何度も俺様を無視しやがって! いい加減にしろ!」


 ドルドの声だった。


 宇宙空間に九頭竜蓮華のホログラムが映し出される。


 十五隻からざわめきが届いた。「辺境の魔女」「あれ本物か?」「怖ぇ……」


「まあ、ずいぶんと賑やかですこと」


 扇で口元を隠す。


「ドルドさま。ガーツさまから、わたくしに直接手を出すなと、きつく申し付けられていませんのかしら?」


「……関係ない! 撃て! 突入班、乗り込め!」


 十五隻の船から一斉砲撃が来た。


 全部受け止める。着物の裾がふわりと揺れた。


 そのうちの数隻の船が、廃鉄より蘇りし高潔なる騎士ジャンク号にドッキングを強行してくる。


 だが、接舷しようとして跳ね返された。


 術力の結界だ。船全体を包んでいる。物理的に触れることはできない。


「な、なんで弾かれる!」


「もう一度!」


 また弾かれた。


 宇宙服を着た兵士が船外へ出てきた。銃を持った者たち。直接ハッチをこじ開けようとして、見えない壁に阻まれた。


 魔法使いが炎、衝撃波、電撃を放つ。それも全部、結界に吸い込まれて消えた。


「……なんだこれは」


 口が静かに言った。


「わたくしの結界は、わたくしが許可した者以外、通れませんわ」


「全員戻れ! 砲撃に切り替えろ! 全弾叩き込め!」


 十五隻が一斉に砲撃を再開した。


(そろそろいいだろう)


 手のひらを上に向ける。


 闇術、歪。


 ただ、十五隻が次々と機能を失っていった。エンジンが止まる。武装が使えなくなる。でも船体の密閉性は保たれている。空気は漏れない。乗員は無事だ。


(歪めるのは機械だけ。人間には触れない)


 十五隻が宙に漂っていた。動けない。戦えない。


 通信の向こうで、ドルドが息を飲む音がした。


「ドルドさま」


 口が静かに言った。


「ガーツさまへ、ご伝言をお願いしてもよろしいかしら」


「……な、なんだ」


「今回、わたくし共はあまりに一方的な暴力を受けましたの。ただ清廉潔白に、日々の糧を得るために採掘をしていただけですのに……。ああ、恐ろしい。わたくし、あまりの衝撃に深く、深く傷つきましたわ」


 扇をゆっくりと、それでいて鋭い音を立てて閉じた。


「残念ながら、このような無作法な形で関係が始まった以上、独占取引の契約など到底考えられませんわ。誠に遺憾ながら、お断りさせていただきますわ」


 しばらく沈黙があった。


「……っ」


(しまった、と思っているだろうな)


---


 船内に戻ると、三人が無言でこちらを見ていた。


「全員無事ですわ」


「わかってる」


 ジャンクがゆっくりと言った。


「……最初から、これが狙いだったのか」


「ええ」


「ドルドが直接来ると思ってたのか」


「あの方は短気ですわ。無視し続ければ、必ず動くと思っておりましたの」


 リンが少し目を丸くした。


「攻撃させることで、正当に断る理由を作ったってことですか」


「ええ。あのまま断れば、向こうは面子を潰されたと感じ、それこそ手段を選ばずに私達を本気で潰しに来たでしょうね。でも向こうが先に手を出してくれれば……」


 扇を開いた。


「わたくしは被害者ですの」


 ジャンクが額に手を当てた。


「……計算してたのか、全部」


「大体は」


(口が勝手にやった部分もかなりあるけど)


 リンが端末を見ながら言った。


「ドルドさん、カルテルの中で完全に終わったと思います。ガーツさんの指示を無視して動いて、しかも断る口実まで作ってあげて」


「ドルドさまが自分でまいた種ですわ」


 ナイラが短く言った。


「で、十五隻の船はどうするんだ」


「慰謝料として少し頂ましょう。ジャンク、素材として使えますの?」


 ジャンクがため息とも笑いともつかない声を出した。


「まあいいか」

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