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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「主人公ですわ(やっぱりいた)」

 ジャンク、ナイラ、リン。


 三人が揃った日から、なんとなく思っていた。


(いつかレイと会う日がくるかもしれないな)


 根拠があるわけじゃない。ただ、恋トキの製造系、戦闘系、情報系チュートリアルキャラ三人と一緒にいる。それなら主人公もどこかにいて、目の前に現れてもおかしくない。そういう感覚だ。


 だからレイ・ヴァン・クロウゼルという名前を聴いた時は、俺の頭の中は「やっぱりいた」だった。


(でも、なんで三日間も追跡していたんだ)


 それだけがわからない。


「お嬢様、そろそろ出発の時間です」


「わかっていますわ」


---


 カルナ・ステーションの中心部、食事と商談ができる場所を指定した。


 とりあえず四人で来た。俺の護衛という名目だが、本音を言えばジャンクもナイラもリンも「どんな人物か見たい」と言い出したからだ。


 正午きっかりに、レイが入ってきた。


 銀髪の、二十代前半くらいの若い男だ。蒼い目。身長は低めだが、立ち方に無駄がない。外見だけ見ると軍人という雰囲気がある。


 俺たちのテーブルを見つけた瞬間、その目が大きく見開かれた。


 全員を順番に見た。ジャンクを見た時、目が止まった。ナイラを見た時も。リンを見た時は、口が少し開いた。


 そして俺を見て。


「本物の蓮華……!」


 次の瞬間、レイの顔が赤くなった。それだけじゃない。テーブルに近づいてきて、椅子の前で止まったまま立っている。


(……なんだこれ)


「ようこそいらっしゃいましたわ。お座りくださいませ」


「あっ、はい。すみません」


 レイが椅子を引いて座った。背もたれに手を添えて、裾を気にするような仕草で座る。裾などないのに。座ってからも、しばらくこっちを見たまま動かなかった。


(なぜそんなに動揺している)


「レイ・ヴァン・クロウゼルです。えっと、今は傭兵? 商人? うーん、何でも屋? みたいなことしてます。改めて、よろしくお願いします」


「九頭竜蓮華ですわ。こちらは商会の仲間たちですの」


 ジャンク、ナイラ、リン、P-0を順に紹介した。


「ジャンクです」


 レイの目が止まった。


「……ジャンク、さん。よろしくお願いします」


「ナイラ・カシムだ」


「ナイラさん。えっと、よろしくお願いします」


「リン・シャオメイです」


「リンさん。よろしくお願いします」


「P-0でございます」


「P-0さんも、……こちらにいたんですね」


 思わず、という感じで声が出た。口元に手を当てる。


「すみません、独り言です」


(こちらにいた、って何が)


「三日間も、追跡していらっしゃいましたわね」


「……ごめんなさい。声をかけるタイミングがなかなかつかめなくて」


「どういったきっかけで、わたくしたちに関心をお持ちになったのかしら」


「辺境の魔女って話は、もう宙域じゅうに広まっているので」


(いやいや、辺境の魔女の噂だけなら、さすがに追跡する気にならないだろ。あれは酷いし、むしろ避けるよな)


「それだけではないでしょう」


 短く返した。


 レイが少し固まった。


「その……商人として、強い商会の動向は把握しておきたい? みたいな? それだけです」


 扇でゆっくりと口元を隠す。


「もう少し正直におっしゃっていただけますと、嬉しいですわ」


 レイが少し笑った。困ったような、でも少し嬉しそうな表情だ。


「本当に、……ただの個人的な好奇心です」


「わたくしへの?」


「蓮華さんと、その仲間の方々への」


 三人の方をちらりと見た。視線がジャンクで、また少し止まった。


(そっちが、気になるのか)


「仲間の方々、というのはどういう意味ですかしら。面識でも?」


「えっと、……実は、前に一度だけ遠くから見たことがあって」


「どなたをでしょう?」


「ジャンク……さんと蓮華さんを、グレイヴヤードで。すれ違っただけですけど」


 ジャンクが首を傾けた。


「……覚えがないな」


「覚えていないのは当然です。声をかけてないので」


「では、その時からご興味が?」


「はい。それで、蓮華さんのことが気になって調べたら……辺境の魔女の話が出てきて」


「それだけが追跡の理由ですの?」


「そうです」


 ナイラが腕を組む。「それにしても三日は長いな」


「……声をかける勇気が出なかっただけです」


 レイが少し苦笑した。どこか抜けたような顔だった。


「わたくしたちのこと、お調べになったのでしょう」


「ジャンクさんは……グレイヴヤードにいる人間にしては、腕が良すぎる。あの技術力で辺境にいるのは、何かあって流れてきた人間の動きだと思って。少し調べたら、数年前の仕事の記録が途中で途切れてました」


 ジャンクが黙った。


「ナイラさんは、戦い方を見れば軍人だとわかります。でも傷を治さないで辺境にいる。正規軍の人間がそうなる理由は、大体決まってる」


 ナイラが少し目を細めた。


「リンさんは……なんていうか、特殊な生まれと育ち方をしてますよね」


 リンが端末から顔を上げた。


「随分と詳しいですわね」


 レイが少し間を置いた。


「……たまたま耳に入ることもあって」


「それがたまたま三人分、ですの」


「……はい」


「では、わたくしのことは何をご存知ですかしら」


「九頭竜蓮華。蓮華マテリアル商会代表。辺境の魔女。皇国の出身ですよね。いつか行きたいと思ってます」


 誰も何も言わなかった。


 ジャンクがゆっくりと小首を傾けた。


「蓮華も言ってたな……。皇国ってどこの宙域だ?」


 レイの表情が、一瞬だけ止まった。


「……あ、いえ間違えました」


 少し間があった。


「……皇国って、ありましたっけ。たぶん自分の勘違いかもしれないですけど」


(皇国を知っている)


 知っているはずのない言葉が出てきた。この宙域に、いや恋トキ外伝には皇国の話は出てこないはず。多分だけど。


「わたくしの出身など、どこでもよろしいですわ。今のわたくしはここにいますの」


「……そうですね」


 レイが小さく息を吐いた。逃げ場を作ってもらったような顔だった。


---


 話はしばらく続いた。


 途中、ジャンクとレイが技術的な話をした。動力の話から宇宙船の改修に流れた。レイの知識は表面的だが、何が重要かの判断は正確みたいだった。


 気づいたら、レイが前のめりなり、テーブルに肘をつき、頬杖をつきながらジャンクの話を聞いている。


(……その座り方)


(男でそれをやると、なんか変だぞ)


「蓮華さんの術って、戦闘以外にも使えるんですか」


「色々できますわ。試したことのないものもありますけれど」


「制限は?」


「わたくし自身は限界など、ないのではと思っておりますわ。今のところそこには届いていませんもの」


 レイが少し黙った。それから、小さくため息をついた。


(何のため息だ。限界がないと聞いて、なぜため息をつく)


「たしか、犯罪組織とかと揉めましたよね。今後どうするつもりですか」


「関わらないことを優先していますわ。向こうが来るなら、その限りではありませんけれども」


「それで大丈夫だと思いますか」


「さあ。わかりませんの。でも備えていれば困ることはありませんわ」


 レイがまた笑った。今度は少しだけ表情が崩れた。


「……思っていたより、怖くないんですね」


「わたくしに、怖いところなんてありまして?」


「腕が六本、目が光るって聞いてたので」


「それは無い」


 素が出た。


 一瞬の沈黙。


 レイが固まった。


「……今」


「な、なんですかしら」


「今、口調が」


「……ありませんわよ、腕は二本で目も光りませんわ」


「うん、知ってます」


 レイが笑った。


---


「また、お会いできますかしら」


 口が言った。俺の意志と一致していた。


「はい、ぜひ!」


 少し声が大きかった。すぐに気づいて、軽く咳払いをした。


「……お願いします」


 レイが立ち上がって一礼した。帰り際に、もう一度だけ三人を見た。ジャンクを、ナイラを、リンを。何かを確かめるような目だった。


 それからドアを出た。


---


「……悪い奴ってわけじゃないな」


 ナイラが短く言った。


 ジャンクが少し考えてから言った。


「……なんか変なやつだったな」


「変?」


「うまく言えないけど……蓮華に似ている?」


 その一言が、妙に引っかかった。


(似ている? どういう意味で)


(座り方か。口調か。それとも)


「P-0、レイ・ヴァン・クロウゼルに関する情報収集を続けてくださいまし」


「承知しました」


「皆さん、次に会う時はわたくし一人でお会いしたいのですが」


 ナイラが少し眉を上げた。「なぜ」


「二人の方が話しやすい事もあるでしょう」


「……まあ確かに、あいつアタイたちを見るたびに変な顔してたからな」


 扇をパチンと閉じた。


 彼は皇国を知っている。三人のことも、初対面とは思えないほど知っていた。


 主人公だとしても怪しいところしかない。


 何者なのかを、少しずつ確かめていく必要がある。

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