「主人公ですわ(やっぱりいた)」
ジャンク、ナイラ、リン。
三人が揃った日から、なんとなく思っていた。
(いつかレイと会う日がくるかもしれないな)
根拠があるわけじゃない。ただ、恋トキの製造系、戦闘系、情報系チュートリアルキャラ三人と一緒にいる。それなら主人公もどこかにいて、目の前に現れてもおかしくない。そういう感覚だ。
だからレイ・ヴァン・クロウゼルという名前を聴いた時は、俺の頭の中は「やっぱりいた」だった。
(でも、なんで三日間も追跡していたんだ)
それだけがわからない。
「お嬢様、そろそろ出発の時間です」
「わかっていますわ」
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カルナ・ステーションの中心部、食事と商談ができる場所を指定した。
とりあえず四人で来た。俺の護衛という名目だが、本音を言えばジャンクもナイラもリンも「どんな人物か見たい」と言い出したからだ。
正午きっかりに、レイが入ってきた。
銀髪の、二十代前半くらいの若い男だ。蒼い目。身長は低めだが、立ち方に無駄がない。外見だけ見ると軍人という雰囲気がある。
俺たちのテーブルを見つけた瞬間、その目が大きく見開かれた。
全員を順番に見た。ジャンクを見た時、目が止まった。ナイラを見た時も。リンを見た時は、口が少し開いた。
そして俺を見て。
「本物の蓮華……!」
次の瞬間、レイの顔が赤くなった。それだけじゃない。テーブルに近づいてきて、椅子の前で止まったまま立っている。
(……なんだこれ)
「ようこそいらっしゃいましたわ。お座りくださいませ」
「あっ、はい。すみません」
レイが椅子を引いて座った。背もたれに手を添えて、裾を気にするような仕草で座る。裾などないのに。座ってからも、しばらくこっちを見たまま動かなかった。
(なぜそんなに動揺している)
「レイ・ヴァン・クロウゼルです。えっと、今は傭兵? 商人? うーん、何でも屋? みたいなことしてます。改めて、よろしくお願いします」
「九頭竜蓮華ですわ。こちらは商会の仲間たちですの」
ジャンク、ナイラ、リン、P-0を順に紹介した。
「ジャンクです」
レイの目が止まった。
「……ジャンク、さん。よろしくお願いします」
「ナイラ・カシムだ」
「ナイラさん。えっと、よろしくお願いします」
「リン・シャオメイです」
「リンさん。よろしくお願いします」
「P-0でございます」
「P-0さんも、……こちらにいたんですね」
思わず、という感じで声が出た。口元に手を当てる。
「すみません、独り言です」
(こちらにいた、って何が)
「三日間も、追跡していらっしゃいましたわね」
「……ごめんなさい。声をかけるタイミングがなかなかつかめなくて」
「どういったきっかけで、わたくしたちに関心をお持ちになったのかしら」
「辺境の魔女って話は、もう宙域じゅうに広まっているので」
(いやいや、辺境の魔女の噂だけなら、さすがに追跡する気にならないだろ。あれは酷いし、むしろ避けるよな)
「それだけではないでしょう」
短く返した。
レイが少し固まった。
「その……商人として、強い商会の動向は把握しておきたい? みたいな? それだけです」
扇でゆっくりと口元を隠す。
「もう少し正直におっしゃっていただけますと、嬉しいですわ」
レイが少し笑った。困ったような、でも少し嬉しそうな表情だ。
「本当に、……ただの個人的な好奇心です」
「わたくしへの?」
「蓮華さんと、その仲間の方々への」
三人の方をちらりと見た。視線がジャンクで、また少し止まった。
(そっちが、気になるのか)
「仲間の方々、というのはどういう意味ですかしら。面識でも?」
「えっと、……実は、前に一度だけ遠くから見たことがあって」
「どなたをでしょう?」
「ジャンク……さんと蓮華さんを、グレイヴヤードで。すれ違っただけですけど」
ジャンクが首を傾けた。
「……覚えがないな」
「覚えていないのは当然です。声をかけてないので」
「では、その時からご興味が?」
「はい。それで、蓮華さんのことが気になって調べたら……辺境の魔女の話が出てきて」
「それだけが追跡の理由ですの?」
「そうです」
ナイラが腕を組む。「それにしても三日は長いな」
「……声をかける勇気が出なかっただけです」
レイが少し苦笑した。どこか抜けたような顔だった。
「わたくしたちのこと、お調べになったのでしょう」
「ジャンクさんは……グレイヴヤードにいる人間にしては、腕が良すぎる。あの技術力で辺境にいるのは、何かあって流れてきた人間の動きだと思って。少し調べたら、数年前の仕事の記録が途中で途切れてました」
ジャンクが黙った。
「ナイラさんは、戦い方を見れば軍人だとわかります。でも傷を治さないで辺境にいる。正規軍の人間がそうなる理由は、大体決まってる」
ナイラが少し目を細めた。
「リンさんは……なんていうか、特殊な生まれと育ち方をしてますよね」
リンが端末から顔を上げた。
「随分と詳しいですわね」
レイが少し間を置いた。
「……たまたま耳に入ることもあって」
「それがたまたま三人分、ですの」
「……はい」
「では、わたくしのことは何をご存知ですかしら」
「九頭竜蓮華。蓮華マテリアル商会代表。辺境の魔女。皇国の出身ですよね。いつか行きたいと思ってます」
誰も何も言わなかった。
ジャンクがゆっくりと小首を傾けた。
「蓮華も言ってたな……。皇国ってどこの宙域だ?」
レイの表情が、一瞬だけ止まった。
「……あ、いえ間違えました」
少し間があった。
「……皇国って、ありましたっけ。たぶん自分の勘違いかもしれないですけど」
(皇国を知っている)
知っているはずのない言葉が出てきた。この宙域に、いや恋トキ外伝には皇国の話は出てこないはず。多分だけど。
「わたくしの出身など、どこでもよろしいですわ。今のわたくしはここにいますの」
「……そうですね」
レイが小さく息を吐いた。逃げ場を作ってもらったような顔だった。
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話はしばらく続いた。
途中、ジャンクとレイが技術的な話をした。動力の話から宇宙船の改修に流れた。レイの知識は表面的だが、何が重要かの判断は正確みたいだった。
気づいたら、レイが前のめりなり、テーブルに肘をつき、頬杖をつきながらジャンクの話を聞いている。
(……その座り方)
(男でそれをやると、なんか変だぞ)
「蓮華さんの術って、戦闘以外にも使えるんですか」
「色々できますわ。試したことのないものもありますけれど」
「制限は?」
「わたくし自身は限界など、ないのではと思っておりますわ。今のところそこには届いていませんもの」
レイが少し黙った。それから、小さくため息をついた。
(何のため息だ。限界がないと聞いて、なぜため息をつく)
「たしか、犯罪組織とかと揉めましたよね。今後どうするつもりですか」
「関わらないことを優先していますわ。向こうが来るなら、その限りではありませんけれども」
「それで大丈夫だと思いますか」
「さあ。わかりませんの。でも備えていれば困ることはありませんわ」
レイがまた笑った。今度は少しだけ表情が崩れた。
「……思っていたより、怖くないんですね」
「わたくしに、怖いところなんてありまして?」
「腕が六本、目が光るって聞いてたので」
「それは無い」
素が出た。
一瞬の沈黙。
レイが固まった。
「……今」
「な、なんですかしら」
「今、口調が」
「……ありませんわよ、腕は二本で目も光りませんわ」
「うん、知ってます」
レイが笑った。
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「また、お会いできますかしら」
口が言った。俺の意志と一致していた。
「はい、ぜひ!」
少し声が大きかった。すぐに気づいて、軽く咳払いをした。
「……お願いします」
レイが立ち上がって一礼した。帰り際に、もう一度だけ三人を見た。ジャンクを、ナイラを、リンを。何かを確かめるような目だった。
それからドアを出た。
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「……悪い奴ってわけじゃないな」
ナイラが短く言った。
ジャンクが少し考えてから言った。
「……なんか変なやつだったな」
「変?」
「うまく言えないけど……蓮華に似ている?」
その一言が、妙に引っかかった。
(似ている? どういう意味で)
(座り方か。口調か。それとも)
「P-0、レイ・ヴァン・クロウゼルに関する情報収集を続けてくださいまし」
「承知しました」
「皆さん、次に会う時はわたくし一人でお会いしたいのですが」
ナイラが少し眉を上げた。「なぜ」
「二人の方が話しやすい事もあるでしょう」
「……まあ確かに、あいつアタイたちを見るたびに変な顔してたからな」
扇をパチンと閉じた。
彼は皇国を知っている。三人のことも、初対面とは思えないほど知っていた。
主人公だとしても怪しいところしかない。
何者なのかを、少しずつ確かめていく必要がある。




