「レンカガネが狙われてますわ(ミスリルの剣は買うしかないのか)」
リンは温泉から戻った後も、当然のように船に居着いた。
気づけば船に荷物がひとつ、またひとつと、少しずつ増えている。
(増えてるな)
気にしたら負けのような気もしたが、こういう事ははっきりとしておきたい。
「リン。蓮華マテリアル商会の情報部として働く気持ちはおありになりますの?」
「え、雇ってくれるの?」
「ええ。無断で居座るより、よほど体裁がよろしいでしょう?」
リンが少し考えてから、にこっと笑った。
「じゃあ働きます。よろしくお願いします」
……これでチュートリアルキャラ3人揃っちゃたな。
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リンが持ってきた情報の中に、ミスリルの鉱脈がある小惑星の座標があった。
翌日、現地に向かった。
岩に手を触れると、すぐわかった。術力との馴染みがいい。融ノ手を展開して金属を引き出そうとした瞬間、術力が思ったより深く入り込んだ。レンカガネが取れる時と同じ感覚だ。
手のひらに残ったのは、見覚えのある淡い銀色の金属。
「ジャンク、これを」
「……レンカガネだ。ミスリルを精製しようとしたよね?」
「ええ。変質してしまいましたわ」
リンが覗き込んだ。
「じゃあレンカガネの正体はミスリルってこと?」
「お嬢様の術力がミスリルに作用して変質したのだと思われます。以前からミスリルは魔力と親和性が高いとされていますので、お嬢様の術力との相性が良すぎたのかもしれません」
P-0が補足した。
(俺が精製する限り、ミスリルは採れないってことか。ミスリルの剣も作ろうと思ってたのに)
「今日はレンカガネとして持ち帰りますわ」
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レンカガネが一キロと、まとまったところでグレイヴヤードへ向かった。
第三区画の闇商人だ。最初の商談から付き合いがあって、レンカガネが貯まるたびに来ている。顔馴染みだ。
だが今回は様子が違った。
いつもの場所に人がいない。近くの露店の主に聞くと、首を振った。
「先週あたりから、急に姿をみなくなったって」
リンが聞き込んできた。
ジャンクが静かに言った。
「さらわれたか、殺されたか、野垂れ死んだか」
「……怖いですわね」
「グレイヴヤードで生きていくには運も必要だよ。今まで運が良かっただけ。僕も蓮華に会わなければ、いずれは消えてただろうしね」
重い言葉だった。
「別の買い手を探しますわ」
一旦船に戻ると、リンとP-0が顔を突き合わせていた。
「お嬢様、気になることがあります」
「なんですの?」
「最近、レンカガネの話が水面下で広まってきているんです」
リンが端末を見ながら言った。
「スキルも魔法も効かない。既存の分析がはじかれる。そういう新しい金属が出回ってるって、希少金属の取引をしてる連中の間で注目されてきてて」
「それは知りませんでしたわ」
「蓮華姉さんたちがグレイヴヤードで売り始めてからじわじわ広まってたみたいです。で、そうなると当然、どこから来てるのか調べようとする人間が出てくる」
「……なるほど」
「出所を追ったら、グレイヴヤードの闇商人に行き着く。そこで仕入れ先を聞こうとしたか、もしくは独占したくて動いたか。入れ替わるように新しい買取商が来てるのも、たぶんその流れのようです」
P-0が続けた。
「タイミングと状況から見て、無関係とは考えにくいかと存じます」
(その程度のことで、あの商人は消されたのか)
「グレイヴヤードで売り続けたのが裏目に出ましたのね」
「これ……もしかしたら、ヴォイド・カルテル関係の人間かもしれないです」
「なぜそう思いますの」
「このタイミングで希少金属狙いで入ってきた。グレイヴヤードで動ける組織となると、ヴォイド・カルテルが一番可能性が高い。確証はないですけど」
「なるほど。そうなりますと、今のグレイヤードの商人はヴォイド・カルテルの関係者ということですの?」
「でも逆に言えば、相手が何を狙ってるかは見えました。それだけで十分です」
リンがにやりと笑った。
「蓮華姉さん。どうせ他に流しても、あの連中が買い占めます。なら最初から、犯罪組織から絞り取った方が早いです」
ジャンクは苦笑いを浮かべてる。
「あの商人の敵討ちってのも悪くない」
ナイラが腕を組んだ。
「何かあれば動ける準備をしておくけど、無茶するなよ」
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闇市の一角に、新参の買取商がいた。
中年の男が座っていた。愛想のいい顔をしているが、目が笑っていない。
「何をお持ちで」
「希少金属ですわ」
レンカガネを取り出して置いた。男の目が一瞬だけ真剣になった。
「……鑑定できねぇ。これは……レンカガネ?」
「まあ、ご存知でしたの?」
扇をひらりと開く。
「市場にもほとんど姿を見せない希少金属ですのに。どこでお聞きになったのかしら。ああ、耳の早い方々の噂話でして?」
「……ああ、そうだ」
「ふふ。以前からいた商人が突然消えて、代わりにあなたが座っている」
扇で口元を隠す。
「レンカガネを手に入れるために、ずいぶんと手荒なことをなさいましたのね」
男の沈黙を、鋭い視線が射抜く。
「レンカガネの出所は蓮華マテリアル商会ですわ。交渉はすべて、わたくしを通しなさい。またどなたかを消してまで探りを入れるおつもりなら、代償の桁が跳ね上がりますわよ」
「……何を言ってる」
「あなたの本部へ伝言ですわ。使えない使い走りは不要。話ができる責任者を出せ。以上ですわ」
「俺様が使えない……っ、わかった。本部に伝える」
「ええ、そうなさいな。では本日のレンカガネの値段ですわ」
扇を閉じた。
「一グラム三十万円」
「は? 二十五万だっただろ、二十五万にしろ」
「では四十万ですわ」
「はぁ!? なんで上がる! 相場だろ!」
「値切る方には、値上げでお応えしておりますの。礼儀ですわよ?」
「なら三十万に戻せ!」
「……あら、まだお続けになりますの? では五十万にして差し上げます」
「っ……なら買わねぇ! 採掘場所さえわかれば、買う必要もねぇ」
「まあ。本当のご目的が出てしまいましたわね」
男が口を閉ざした。
「場所を探って、ご自分達で取りに行くおつもりでしたの。なるほど」
「……そうだ。場所さえわかれば」
「以前の商人も、きっと同じことを考えていたのでしょうね」
扇で口元を隠す。
「わたくしも少々甘いところがございますから、後をつけられてしまう可能性は否定できませんわ」
扇をゆっくりと揺らす。
「それで今、あの方はどちらにいらっしゃるのかしら。発掘場所を知ってても、手に入れられなかった。だから消されたのでは?」
男が固まった。
「場所をお知りになっても、うまくいかなかった時に困るのは、わたくし、ではございませんのよ」
「ちっ、……五十万」
「残念ですわ。今はもう六十万ですわ」
「ですわですわうるせえ! ふざけるな! 俺はヴォイド・カルテルだぞ!」
「あらまあ」
楽しげに目を細める。
「看板を掲げれば中身も大きく見えると? 便利なものですわね。中身が伴わなくても、大きく見せていただけるのですから」
扇がゆっくり揺れる。
「けれど……そういう方ほど、いつまでも使われる側から、一生抜け出せませんのよ」
「……っ」
「顔に出ておりますわ。悔しいのでしょう?」
「無理にお買い上げいただく必要はございませんわ。どうぞそのままお帰りになって、本部の方にでもご報告なさいませ。買い付けに失敗いたしましたと」
にっこりと微笑む。
「さぞ見応えのある舞台になるのでしょうね」
「こいつ……うぜぇ」
男が力強く拳を握る。今にも殴り掛かって来そうだ。
(俺も我ながらうぜぇと思うよ)
「では、その悔しさごとお買い上げなさいな。六十万で」
沈黙。
やがて、男が絞り出した。
「……六十万で買う」
「よろしいですわ」
パチンと小気味よい音を立てて扇を閉じた。
「身の丈に合ったお取引ができて、何よりですこと」
くるりと踵を返す。
「レンカガネは一キロありますの。次は相応しい方と相応のお金を揃えて、ここへいらっしゃいな。その時は、またお目にかかって差し上げますわ」
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闇市を出ると、リンが走り寄ってきた。
「どうでしたか?」
「一グラム六十万で売れましたわ。本部への取り次ぎも取り付けましたの」
ジャンクがため息をついた。
「……ヴォイド・カルテル相手に値上げして、しかも本部に繋げさせたのか」
リンが心から嬉しそうに言った。
「ヴォイド・カルテル、この宙域で一番大きい犯罪組織なんですよ。そこまで言えるなんて蓮華姉さんすごい」
「本当はすごく怖かった」
思わず素がでた。
「……お疲れさま」
ナイラが頭を撫でてくれた。……悪くない。
リンが少し考えてから言った。
「ヴォイド・カルテルの本部が来たら、次はどうしますか?」
「その時はその時ですわ」
「……それで大丈夫なんですか」
「さあ」
(俺にもわからない。でも口が勝手に煽りまくってやってきたことが、うまくいっているのは事実だ)
「まあ、口に任せておけばよろしいですわ」
ジャンクがため息をついた。
「……まあいいか」
ここまでお読みいただき、感謝いたしますわ。
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(見てくれてるだけで普通にありがたい)




