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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「名を売りましたわ(結果は上々だ)」

 採掘が終わった。


 今回は当たりだった。魔鉄が予想より多く出て、オリハルコンやレンカガネも少量混じっていた。積立用にオリハルコンをほんの少し確保し、残りは売りに回す分だ。手持ちが少し厚くなる。


(悪くない)


 そんなことを考えながら操縦区画の椅子に座っていると、ナイラが振り返った。


「お前、さっきからニヤニヤしてるぞ」


「ニヤニヤしておりませんわ」


「してた」


「採掘の成果に満足しておりましたの。よろしいでしょう」


 ジャンクは無言でコーヒーを飲んでいる。


「では帰りますわ。出発してくださいまし」


「了解」


 ナイラが操縦パネルに手をかけた瞬間、P-0のトーンが変わった。


「右舷三十度、遠方に複数の船影を確認しました。計八隻。こちらへ向かっています」


 ナイラがモニターを叩く。映し出された船は形が不揃いで、軍の規格ではない。武装は重く、舷側の塗装は剥げて継ぎ接ぎだらけだ。


「……海賊だ。ヴォイド・カルテルじゃないな。船の形が違う」


「別の連中がいたというだけかな」


 ジャンクがしばらくモニターを眺めてから、小さく言った。


「……どうする」


(余力はある。でもまず穏便に済ませたい)


「逃げられますの?」


「駄目だ。向こうの進路を見ろ。回り込んでる。どこかで進路を塞がれる」


(なら交渉しよう)


 俺は立ち上がった。


「わたくし、船首へ出ますわ。闇術の結界は外からじゃないと船を守れませんの」


「……生身で出るのか」


「ええ。ご安心くださいまし」


 ジャンクが小さく頷き、ナイラが短く言った。「気をつけてよ」


 出口へ向かいながら、頭の中で確かめる。


(防御は問題ない。船ごと包めるのも先週確認した。とにかく穏便にすめばいいんだけど)


---


 船首に出た。


 宇宙は静かだ。音はなく、冷たさも感じない。着物の裾だけが、風のないはずの空間でわずかに揺れる。


 船首の端、一番前に立ち、術力を薄く広げる。自分の体だけでなく、船全体を包むように外側へ伸ばすと、船の輪郭がうっすらと光った。


(これで船は大丈夫だ)


「P-0、通信を繋いでくださいまし。ホログラムも」


 口が勝手に動いた。


(なんでホログラム? 交渉するだけなのに)


「通信、接続。船外ホログラム投影、ならびに相手船映像の受信を開始します」


 俺の体の輪郭が光を帯びて広がり、膨らみ、宇宙空間に九頭竜蓮華の姿が巨大に映し出される。同時に、視界の端に相手船のブリッジ映像が割り込んできた。


 体が勝手に扇を開く。


(やめてくれ。穏やかに行こうとしてるんだよ俺は)


 向こうの船からざわめきが通信越しに聞こえてくる。「なんだあれ」「術師か」「生身で宇宙に立ってるぞ」「トリックだろ」。


 ブリッジ映像の中で、乗員たちがざわついているのが見える。


 口の端が静かに上がり、扇でゆっくりと口元を隠す。目は笑っていない。


「まあ、よくいらっしゃいましたわ。わたくし達を待ち伏せするとは、ご苦労でしたこと」


 映像の中、顎に傷のある大柄な男が一歩前に出た。


「女術師か。荷を渡せ。抵抗すれば撃つ」


(さすが海賊、怖い)


「わたくしの船と知らずに来てしまいましたのね。おかわいそうに。無知というのは、罪ですわよ」


 一瞬、男の眉が動く。


「……荷を渡せ」


「では、一度だけ申し上げますわ」


 扇をゆっくりと閉じた。


「今すぐお引き返しくださいまし。今日は機嫌がよろしいものですから、それで見逃して差し上げますわ。ですが次の一手が攻撃でしたら」


 閉じた扇を相手を突きつける。


「後悔なさることになりますわ。取り返しがつかなくなってからでは遅うございますもの」


(いや待って。交渉のつもりが完全に煽ってる。俺はそんなつもりじゃ)


「撃て」


 エネルギー砲撃が来た。


 八隻から同時に放たれた砲弾がこちらへ集中するが、その軌道と出力を見た瞬間、狙いがわかった。船体の破壊ではなく、あくまで無力化と威圧。積み荷を残すための手加減だ。


 直撃。


 爆発が広がり、光が弾け、熱が散る。火力としては十分だが、壊しきらない範囲に収められている。


 着物の裾がふわりと揺れる。それだけだ。術力の膜がすべてを飲み込んで宇宙の塵に変え、船体には焦げ一つなく、着物にも汚れ一筋ない。爆発の残光が、花びらのように散っていく。


 その様子を眺めながら、きれいだなと思った。


 同時に、船内からレーザーが一条走った。ジャンク号のレーザー砲だ。細く頼りない光が向こうの船体をかすめ、焦げ跡を残した程度で終わる。


(ナイラまで撃たないでよ。余計こじれる)


 通信越しのざわめきが変わった。「なんで効かない」「無傷……だ……と」「なんて恐ろしい笑顔なんだ」


「いかがでしたの。全弾命中でしたわね。ご確認いただけましたか」


 返事はない。


「当たっておりますわよ。ちゃんと。ただ、効いていないだけですわ。わたくしにも、この船にも」


「な、なんで……」


「さあ。なぜでしょうね。心優しい海賊様がお手加減なさってくださったのでは?」


「撃ち続けろ! 数で押し切れ!」


「あら。ではわたくしも、少しだけお付き合いいたしますわ」


 砲撃が続いた。何度も何度も直撃し、そのたびに爆発が広がるが、すべて術力の膜に飲み込まれて消える。煙が晴れるたびに、俺はそこに立っている。扇を持ったまま、微動だにせず。


「お疲れではないかしら。弾薬はまだおありですの? あるのでしたら、続けてくださいまし。お時間はございますわよ」


「て、撤退! 逃げるぞ!」


「……では、お見送りいたしますわ」


 手のひらを上に向けた。


 闇術、刃ノ雨。


 発動前に術式を組む。出力は最小限、対象は無機物のみ。推進機能を優先して破壊し、残す二隻の座標を除外する。


 一秒もかからなかった。


 術力が溢れた瞬間、空間の色が変わった。紫の光が滲み出て宙へ広がり、星の光を塗り替えながらどこまでも伸びていく。


 向こうの船から悲鳴が上がった。「なんだあれ」「光が」「逃げろー」


 光が降った。


 無数の刃が紫の閃光となって宙を切り裂いた。一条、十条、百条と増えながら八隻へ降り注ぎ、軌跡が幾何学模様を描く。直撃。爆発。連鎖。船体が弾け、火柱が上がり、破片が星屑のように宇宙へ散っていく。


 轟音が波のように広がって、それから。


 静寂が落ちた。


 六隻が消えた。跡形もない。残骸すら漂っていない。あれだけの爆発が連鎖していたのに、宇宙はもう静かだった。紫の光がゆっくりと消えていき、最後の一筋が星に溶けるまで、しばらくの間、宇宙が紫色に染まっていた。


 残りの二隻は動かなくなっていた。推進機能だけを潰し、生命維持は残してある。


(……やりすぎだ。出力絞ったのに)


 漂流する二隻を見下ろした。


「まあ。ずいぶんと呆気なかったですわね。少々拍子抜けでしたわ」


 通信の向こうで男の声が震えている。


「な、なにがおきたんだ……一瞬で……」


「最初に申し上げましたわ。見逃して差し上げますよと。なのに争いと後悔をお望みになったのは、どちらでしたかしら」


 わずかに首を傾げ、扇で口元を隠す。


「望みが叶って、満足いただけまして?」


「ば、化け物め……」


「蓮華マテリアル商会の船に手を出した結果がこれですわ。蓮華マテリアル商会をよく覚えておいてくださいまし」


 扇をゆったりと広げた。


「助けが来たら、今日のことをこの辺の皆さまに広くお伝えくださいな。蓮華マテリアル商会の名と共に、ね」


 冷たく、静かに、笑った。


(蓮華マテリアル商会ってなんだよ)


 通信を切った。


---


 船内に戻ると、ジャンクとナイラが無言でこちらを見ていた。


「P-0、漂流している二隻と、周りの生命反応を確認してくださいな」


「生命反応あり。全員生存しています」


「よろしいですわ」


(よかった。誰も殺していない)


 ジャンクが静かに言った。「……すごいよ。あの砲撃を全部受けて、船も傷一つなくて、それで六隻を一瞬で……本当にすごい」


「お役に立てましたなら何よりですわ」


 ナイラが口を開いた。「一つ聞いていいか」


「何かしら」


「蓮華マテリアル商会って何だ」


 少し間があった。


「おそらく、わたくし達のことですわ」


(口が勝手に名乗ったんだよ)


「今初めて聞いたぞ」


 ジャンクが困った顔で続けた。「……僕も今初めて聞いた」


(俺だって初めて聞いたよ)


 ナイラが頭を抱えた。「相談もなしで、思いつきで商会名を名乗るやつがあるか」


「あれは、口が勝手に動きましたの」


「それを思いつきって言うんだよ」


 P-0が静かに口を挟んだ。「お嬢様が蓮華マテリアル商会という名称を口にされたのは、本日が初めてでございます。商会の発足記念日として記録いたします」


「別に記録しなくていいですわ」


「いいえ、いたします」


 ナイラがため息をついた。「……まあ、商売するなら商会の方がいいとは思うけど」


「でしょう」


 ジャンクが少し笑った。「僕は商会員でいいよ。でも、給料はどうなるんだ」


「もちろん、現状維持ですわ」


---


 ステーションに戻って数日が経った。


 市場を歩いていると、あちこちから声が聞こえてきた。


「聞いたか。化け物みたいな術師が現れたって話」


「ああ、辺境の魔女だろ。おんぼろ船一隻で海賊の艦隊を全滅させたんだとよ。しかも宇宙に生身で立ってたって」


「砲撃を何十発も全部体で受けて、笑いながら煽り続けてたって。傷一つないどころか、服すら汚れてなかったらしいな」


「真っ黒な着物に大きな扇を持った女だって」


「噂じゃ、腕が六本あったって言うぞ」


「六本?」


「目が金色に光り輝いて、そのたびに周りの空間が歪んだって証言もある」


「時空が歪んだのか」


「六隻が消えた瞬間、周囲の星の位置がずれて見えたって言う。体長が数キロあったって話もある」


「数キロ? それはさすがに」


「術じゃなくて、存在そのものがおかしいんじゃないかって話だ」


「……化け物じゃないか」


「蓮華マテリアル商会とか名乗ったらしいが、辺境の魔女の方がしっくりくるよな。本当にどんな女なんだ」


「顔は知らねぇが、一目で絶対わかるはずだ。宇宙に生身で立って、爆発の中で微動だにしない奴なんて、人の姿をしてるとは思えねぇし」


 笑い声が遠ざかっていった。


(腕が六本)


(時空が歪んだ)


(体長が数キロ)


(……ホログラムがそこまで大きかったか?)


「お嬢様。蓮華マテリアル商会の名前を含む情報が、本ステーション内で二十三件確認されています。腕が六本という証言が五件、目が光るたびに時空が歪んだという証言が七件ございました」


「……そうですの」


「なお、辺境の魔女という異名は全件に含まれておりました」


「噂って怖い」


 思わず素が出た。


---


 船に戻ると、ナイラが言った。


「商会の名前、広まってるぞ」


「そのようですわね」


「これを狙ってたのか」


「名前くらい売っておかないと商売になりませんの」


 ナイラが笑いながら言った。「辺境の魔女、こっちの方が定着しそうだけどな」


「わたくしを見てくださいまし。この立ち居振る舞い、この着物、この扇。どこをどう見れば魔女になりますの。わたくしは蓮華マテリアル商会の代表ですわ。魔女などという呼び名は相応しくありませんの」


「宇宙で生身で立って、艦隊を一瞬で消す術師だぞ。魔女で済んでよかったと思えよ。もっと恐ろしい呼ばれ方もあったはずだ」


 少し間があった。


「……それは、否定できませんわね」


「だろ。魔女、可愛いもんだ」


「可愛くはありませんわ」


 ジャンクが苦笑した。「どっちにしろ名前は売れたじゃないか」


「商会の名前じゃないと意味がございませんわ」


---


(しかし、俺の……、蓮華の強さは異常だろ)


 エネルギー砲を全部弾いた。刃ノ雨を少し使って、六隻消えた。恋トキ外伝のパラメータ上限は999のはずだ。


 そもそも恋トキ外伝は、元々は宇宙が舞台の戦略シミュレーションとして開発が進んでいた全く別のゲームだった。


 だけど恋トキが予想外にヒットしたことで、スポンサーの鶴の一声がかかった。恋トキの設定を無理やりそのゲームに詰め込むことになった。


 世界観こそ歪んでいたが、ゲームとしてのバランスはきちんと取れていたはずだ。


 そんな外伝の世界に、俺が蓮華として存在していて、パラメータが9999になっている。正直意味がわからない。


 まあ、いい。ストーリーをほぼ覚えていない以上、これから何が起きるかわからない。ならば、強いほうがありがたい。

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