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追放された悪役令嬢、宇宙に飛ばされたら最強でした ~中身は35歳社畜なのに、口が勝手にお嬢様になるんだが~  作者: 多々太
【第2部】辺境の魔女

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「三人揃いましたわ(そういうことか)」

 カルナ・ステーションの第五区画は、情報屋や仲介業者が集まる場所だ。


 P-0が「情報収集の効率を上げるには、この区画の人脈が必要です」と言ったので足を運んでみた。

 

 俺は見た目から敬遠され気味だし、口を開けば勝手に煽るし、もともとコミュ障なんで殆ど商人との交流はなかった。


 だか、流石にそうは言ってられない。


 採掘ポイントの質を上げるためにも、先に動いている連中の情報が欲しい。


 雑然とした通路を歩いていると、ふいに何かが足にぶつかった。


 見下ろすと、小柄な人影が床に転がっていた。


 黒髪のショートカット。オーバーサイズのパーカー。首から翡翠のペンダントを下げている。かなり若い。


「いったたたた……」


 顔を上げた瞬間、目が合った。少女だ。十代前半くらい。


 転ぶ直前、わざと足の力を抜いたのが見えた。崩れ方も綺麗すぎる。偶然には見えない。


 俺を見た瞬間、その目が一瞬だけ冷たく光った。


 それから、遅れて痛そうな顔を作る。


(わざと転んだな)


 少女が大げさによろめきながら立ち上がった。


「す、すみません。急いでいたもので……怪我しませんでしたか? お詫びに少しだけ時間をいただけますか。実は耳寄りなお話しがありまして」


 台詞がなめらかすぎる。


 幸せになれる壺とか買わされそう。


 だが口が動いた。


「まあ、災難でしたわね。お話とは何かしら」


(聞くな。絡まれるぞ俺の口)


 少女の目がほんの少しだけ輝いたが、すぐに隠れた。


「実は……ヴォイド・カルテルの航路データを持っていて。どこを通って、いつ、どんな荷物を運んでるか。それを売りたいんですけど、普通の人には売れなくて」


「ヴォイド・カルテルとはどのような方ですの?」


 少女がきょとんとした。


「……知らないんですか?」


「ええ。わたくし、この宙域に来て日が浅いものですから」


 少女がしばらく俺を見ていた。それから少し声のトーンを変えた。


「辺境を仕切ってる犯罪組織の名称です。密輸、略奪、傭兵の斡旋……何でもやってる。採掘船が狙われることも多いから、航路を知ってれば避けられる。だからそれが売り物になる」


「なるほど」


(犯罪組織の航路データ。それをこの年の子が持っている。どうやって入手したのか、そしてなぜ俺に声をかけたのか)


「そのデータ、どこから入手されましたの?」


「言えないです」


 詰まらなかった。きっぱりと言った。


「いくらでお売りになるおつもりかしら」


「五万円で」


 口が笑った。扇を静かに開く。


「出所も言えない情報が五万円。それをわたくしに持ってきたのは……この区画で、一番価値をわかってくれそうだから、でしょう?」


 少女の表情が一瞬固まった。


「……三万でどうですか」


「情報の出所が不明なものに三万円は払えませんの」


「一万……」


「五千円でよろしいですわね。確認してから支払いますわ」


 少女がしばらく黙った。


(この子が欲しいのは金だけじゃない。反応を見ていればわかる。安全に情報を売れる相手が欲しいんだ)


「……わかりました」


 データを受け取ってP-0に確認させた。


「お嬢様、信憑性はあります。一部古い情報が混在していますが、それなりの価値はあるかと」


「それでは五千円お支払いいたしますわ」


 少女が硬貨を受け取って、少し間があった。


「……最初からわかってましたよね。ボクの演技」


「ええ」


「なのに付き合ってくれたんですか」


「データが本物なら取引として成立しますわ」


 口が続けた。


「それと……あなたが本当に欲しいのは、お金ではないでしょう?」


 少女の目が細くなった。


「信用できる取引相手。安全に情報を売れる場所。違いますの?」


 少女がしばらく黙っていた。翡翠のペンダントをぎゅっと握って、それから小さく言った。


「……正解」


「でしたら、一度の取引で判断はしませんわ。積み重ねですの」


「わかりました。また来ます」


 踵を返して歩いていく。その後ろ姿を見ながら、ジャンクが小声で言った。


「……今の子、いくつくらいだ」


「十四か十五くらいではないかしら」


「その年でああいうことをしてるのか」


「生きるためでしょう」


 それ以上は言わなかった。


 通路の角を曲がる直前、少女が振り返った。


「あ、わたしリン。リン・シャオメイ。次もよろしくお願いします」


 そう言って消えた。


 リン・シャオメイ。


 ……待て。


 ジャンク。ナイラ。リン・シャオメイ。


 三人の名前が頭の中で並んだ瞬間、何かが弾けた。


 ずっと思い出せなかった。どこで聞いた名前か。会社で、誰かが言っていた。シナリオ担当のデスクに貼ってあった紙。外伝のキャラクター一覧だ。


 製造系チュートリアルキャラ:ジャンク。

 戦闘系チュートリアルキャラ:ナイラ・カシム。

 情報系チュートリアルキャラ:リン・シャオメイ。


 三人揃った。


(……ここ、恋トキ外伝の世界なのか)


 足が止まった。


 ジャンクが振り返った。


「どうした? 顔色悪いよ」


「……少し、考えていることがありますわ」


 ナイラが腕を組んだ。


「何かわかったのか」


「ええ……少し。詳しくはまた」


(落ち着け。整理しないと)


 P-0が静かに言った。


「お嬢様、先ほどの取引について補足がございます」


「なんですの」


「リン・シャオメイと名乗った少女ですが、データを渡す前に、こちらの端末への接続を試みた痕跡がございます。すぐにわたしが遮断しました」


 沈黙が落ちた。


「……報告が遅いですわ」


「取引の妨げになると判断しました」


「なぜ黙っていましたの」


「取引は成立しました。データは本物でした。少女に実害はございませんでした。報告のタイミングとして今が適切と判断しました」


 ジャンクが苦笑した。


「なお、遮断の際に少女の端末スペックを確認しました。自前で改造した機材を使っています。十四歳前後の子供が扱える水準ではありません」


 俺は少女が消えた通路の角を見た。


(面白い子だ)


「また来るでしょうね」


「確率は高いかと存じます」


---


 船に戻ってから、頭の中を整理した。


 ここは恋トキ外伝の世界だ。ジャンクが製造系、ナイラが戦闘系、リンが情報系。三人のチュートリアルキャラが、全員この世界にいる。


 そしてこの世界の主人公は、レイ・ヴァン・クロウゼルという名の指揮官のはずだ。まだ会っていない。


(この先に何が起きるかは……俺にはわからない。シナリオは担当外だったし)


 わからない事だらけのこの世界か少し、怖かった。


 それと同時に、腑に落ちた感覚もあった。なぜここにいるのか。なぜこの体がこんなに強いのか。まだ答えは出ていないが、少なくとも「どんな世界にいるか」はわかった。


 足元が少し、固まった気がした。

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