SS⑧.ライラの涙、ウィリアムの涙
私は今日、自分の夢を叶えることができた。恥ずかしくて誰にも打ち明けられなかった夢。きっとらしくないと笑われる。皆んなは私の夢が文官で出世する事だと思っていたに違いない。でも本当はずっと母親になりたかった。愛する人と結婚して、子どもを授かって温かい家庭を作る。それが私の幼い頃からの夢。
「おぎゃーおぎゃーー。」
元気に産声をあげる我が子を見て涙が溢れる。夢が半分叶った。もう半分はこれから。3人で温かい家庭を築いていく。産まれたばかりの赤ん坊を嬉しそうに抱き上げるイルバートを見て、ライラは泣きながら微笑んだ。
「うわぁ、可愛い。本当にイルお兄様とライラお義姉様どちらにも似ていて不思議だね。」
学園のお休みの日、アレックスが侯爵邸に帰って来た。学園には王都にある侯爵邸から通ってもいいのだが、アレックスは自身の希望で学園の寮を利用している。ライラが嫁いで来ているため、お互いに気を遣わないでいいようにとの事だ。
「抱っこしてみるか?」
「いいの?!」
アレックスは目をキラキラと輝かせている。
「ああ、もちろん。」
「だ、大丈夫かな…。」
「ふふ、そんなに緊張しなくても平気よ。」
アレックスは少し不安そうにライラから赤ちゃんを受け取る。
「ふわふわで軽いね。本当に産まれたばかりの赤ちゃんはこんなに小さいんだね。びっくりしたよ。」
アレックスは小声で話しながらもすごく興奮している。
「ソフィア姉さんも抱っこしてみる?」
アレックスは隣に座るソフィアにふわりと微笑む。
「ええ。抱っこさせてもらおうかしら。」
アレックスの膝からソフィアが抱き上げると、タイミングが悪く起きてしまい、泣き出してしまった。
「あら、大変。どうすればいいのかしら。」
ソフィアは戸惑いイルバートとライラに目線を送る。
「大丈夫だよ、起きてびっくりしているだけだから。ゆっくりゆらゆらとしてごらん。」
イルバートはオムツを確認してからそう言った。
「ミルクもさっきあげたばかりだから、直ぐに落ち着くと思うわ。」
ふたりの言葉通り、赤ちゃんは直ぐに泣き止んだ。
「すごいのね、ふたりともすっかり父親と母親の顔をしているわ。」
「うん。赤ちゃんの気持ちがわかるなんてすごいね。全く言葉が通じないのに。」
ソフィアとアレックスは目を丸くした。
「そんな事ないわ。毎日初めての事ばかりで戸惑うのよ。でも、それは皆んな同じだから。」
「皆んな同じ…。」
「分からないなりに、何とかやっているうちに、成長していくのよ。私たちも、子どもと一緒にね。」
「そうだな。本当に毎日実感するよ。」
イルバートとライラは顔を見合わせて微笑む。
「すごいわ、ふたりとも。わたくしなんてまだ親になる自信がなくて。」
ソフィアはポロリと本音をこぼす。
「わたくしだって自信なんてこれっぽっちもありませんでしたわ。仕事ばかりしていた女よ。」
ライラは仕事モードの澄ました顔を作る。
「まあ、ライラお義姉様ったら。ふふふ。」
「ふふ、でもね。イルバート様との子どもが欲しい。本当の意味での繋がりが欲しいと思ったの。もちろん、いろいろなパートナーの形があるし、子どもだけが繋がりではないと思うけど。私たちには今のこの形がとても幸せよ。」
「あまり難しく考えないでいいんじゃないかな。ソフィーはソフィーのやりたいようにやればいいし。望むように生きればいい。ウィルもきっとそれを望んでいると思うよ。」
イルバートがソフィアの肩にぽんっと優しく手を置く。
「ねえ、ソフィア姉さんも赤ちゃん産まないの?すっごく可愛いよ。」
イルバートとソフィアは思いっきりずっこけた。
「アレックス、私の話を聞いていたかい?」
再び赤ちゃんを抱っこしているアレックスはかなりハイテンションだ。
「うん、もちろん。大体聞いていたよ。でも、赤ちゃんを抱っこしている時の姉さんはとても嬉しそうだもの。きっといい母親になると思って。」
アレックスはニッと綺麗に口角を上げて笑う。ライラは『今のソフィアの状況』を認め、イルバートは『ソフィアの葛藤』に寄り添ってくれたが、アレックスは『心の奥底に眠る願望』をぶち抜いて来た。ソフィアは子どもが大好きだ。仕事との両立に対する不安や子育てへの自信のなさで躊躇していただけなのだ。しかし、アレックスの『きっといい母親になると思って』という言葉がソフィアの胸に突き刺さった。背中を押してもらえたような、認められたような、心が軽くなったような。頑なになっていたソフィアの心が溶けるような感覚を覚える。
「急用を思い出しましたわ。わたくしは今日はこれで。また遊びにきますわ。」
「ああ、いつでも待っているよ。」
「ふふ、ソフィア様ならいつでも大歓迎です。」
「アレックスはゆっくりさせてもらいなさい。」
「うん。姉さん、またね。」
3人に満遍の笑顔で見送られ、公爵邸に戻ったソフィア。ウィリアムが執務室にいる事を確認するなり、足早に駆け込んだ。
「ウィル様、お待たせしました!カメリエ公爵家にもベストタイミングがやって来ました!」
ウィリアムは一瞬何のことだか分からず首を傾げたが、次の瞬間泣いて崩れ落ちた。ずっと不安にさせていたのかもしれない。
「……っ、待たせ過ぎだ。」
「ふふ、ごめんなさい。」
ソフィアはそんなウィリアムの背中を優しく撫でて抱きしめた。
お読みいただきありがとうございます!
SS⑦に入れ込もうと思っていたお話です。
さすがに長過ぎたので別の話としました。
ウィリアム……よかったね。
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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい
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では。




