SS⑦その5.扉の向こうには
次のお休み、ソフィアはとびきりのオシャレをして楽しそうに王太子宮に遊びに行った。その姿を見たウィリアムはやはり心配になり、こっそり後をつけることにした。
「あんなに嬉しそうなソフィア、見たことない。」
ウィリアムは絶望の表情で馬車に乗り込むソフィアを見つめる。そして、家紋の無いシンプルな馬車に乗り込むと、その後を距離を保って走るように指示した。到着した先は宣言通り王太子宮であり、ほっとしたような胸がざわつくような不思議な気持ちになった。家紋の無い馬車だったため、一瞬門番に止められそうになったが、ウィリアムの顔を見た瞬間に彼は道を開けた。ソフィアがニコラスという男に連れ去られた後、懇々とお説教をした門番かもしれない。いい仕事をするようになった。
王太子宮に着いた後も、コソコソとソフィアの後をついていく。全く気がつく様子はないので、尾行の才能があるかもしれない。今度諜報部にも遊びに行ってみよう。そんな事を考えていた矢先、ソフィアはくるりと身を翻してウィリアムに声を掛けた。
「ウィル様、いつまでもそんな所に隠れていないで、早くこっちに来てください。」
普通に見つかっていた。見つかった上で泳がされていたのだろう。諜報部への転向は諦めた。観念して姿を現し、ソフィアの側まで歩いていく。
「いつから気がついていたんだ?」
「昨夜、執事に馬車を手配していた時ですわ。家紋の無い馬車をご指定なさっていたので。」
そう答えたソフィアの唇は美しい弧を描く。
「では、心の準備はよろしいですか?」
そう言いながら扉の取っ手に手をかける。
「…もう好きにしてくれ。」
ウィリアムは目を瞑る。しかし、一向に扉の開く気配がない。代わりに、両頬に手が添えられて唇に何かが当たった。驚いて目を開けると、ソフィアに口付けをされている。ウィリアムが目を開けたことに気がつき、ソフィアは慌てて離れる。そして頬を染めて言った。
「やっぱり、わたくしが最初に言いたいので…。」
そこで言葉が途切れたのでウィリアムは首を傾げる。
「お誕生日おめでとうございます。」
そう言いながら今度こそ扉を開けた。
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
扉の先には見慣れた顔がずらりと勢揃いしていた。
「は?」
ウィリアムは間の抜けた声を出して呆然と立ち尽くす。
「ほら、ウィル様。貴方が今日の主役ですよ。早く入ってください。」
ソフィアがウィリアムの背中を押して誕生日パーティーの準備が整う会場に押し込む。
「な、何だこれは!」
ウィリアムは背中越しにソフィアに問いかける。
「ふふ、サプライズプレゼントです。」
一生懸命背中を押していたソフィアはニッと目を細めてウィリアムを見上げる。
「誕生日…。」
ウィリアムはもう一度会場の方に目を向ける。皆がにこやかにウィリアムを見つめて拍手を送り、イルバートとローゼン侯爵は風魔法で紙吹雪を飛ばしている。
「ソフィアがレイモンドに心移りをして、離縁の説得をされるんじゃなかったのか…。」
「何ですか、それ?そんなわけないでしょう!」
ウィリアムの独り言にソフィアが思い切りツッコミを入れる。
「まあ、そんな事許すはずありませんわ。」
エアリスも頬を膨らませてご立腹である。
「あ。うー。うー。」
てちてちとウィリアムの足元に小さな影が近づく。
「シャル、お前はお利口さんだな。もう私の名前を覚えたのか。」
ウィリアムは足元にへばり付いているシャーロットを抱き上げる。するとシャーロットはウィリアムの頭をよしよしとなでる。
「皆んながウィリアムに拍手をしていたから、何か良いことをしたと思ったのかしら。」
「シャーロットは本当に賢い。将来有望だな。ははは。」
「父上と母上までこんな所にいたら、何かあったら困るんじゃないのか?」
ウィリアムは苦笑いを浮かべながら指摘する。国王陛下、王妃陛下もちゃっかり参加しているのだ。
「政治的な何かだったら仕方がないから僕がいくけど…軍事的なことだったらウィル、お願いね。」
「本日の主役ですら操るんだから、本当レイには参るね。」
レイモンドの甘い笑顔と、肩を竦めるイルバート。手持ちの紙吹雪は無くなったようだ。
「魔法騎士団の面子も揃っているが…。」
「大抵のことはウィルひとりでも平気でしょ?」
「…。」
美しい顔で首を傾げるレイモンドに、ウィリアムは顔を引き攣らせ、それ以上は何も返さなかった。
「皆んなウィリアムを祝いたくて集まってくれたんですよ。いつまでもそんな顔してないで、何か言ってください。」
ソフィアにそう言われて、ウィリアムはどんな顔だ……と思いながらも何とか笑顔を作る。そして感謝を述べ、次の瞬間に泣き崩れた。嬉しさのあまりではない。安堵の涙だ。
「ウィルお義兄様大丈夫ですか?」
優しいアレックスが駆け寄る。
「…もう絶対にサプライズは禁止だ。」
拗ねたように呟くウィリアム。そして、ソフィアはウィリアムが勘違いをして悩んでいた事を聞き、少しだけ申し訳ない気持ちになったが、とりあえずサプライズは成功だ。それにパーティー自体は多分喜んでくれたと思う。
「じゃあ、来年は普通にパーティーしましょう。だってパーティー禁止令は出されなかったもの。」
ソフィアはふふふっと笑う。公爵になってからは、ウィリアムの希望でソフィアとふたりきりのささやかなお祝いしかしてこなかった。第二王子時代以来の誕生日パーティーだ。
「わたくしにはウィル様だけですわ。貴方しか見ていません。大好きです。ずっとこれからも。」
膝を抱えたままのウィリアムをソフィアは優しく抱きしめた。
いつもお読みいただきありがとうございます!
どこで区切ればいいか分からず、かなり長くなってしまいました。
新作の連載が始まっております。
こちらもお立ち寄りいただけると嬉しいです。
ヒロインは早々にシナリオから離脱したい
https://ncode.syosetu.com/n3102lv/
では。




