SS⑦その4.ソフィアがウィリアムを避ける理由
レイモンドとソフィアが密会していた日、帰宅後にソフィアから何か話してもらえるかと期待したが、レイモンドのレの字も会話に出ることはなかった。食事の最中にも関わらず泣いてしまうかと思ったが、何とか持ち堪えた。
それからも休みの度にソフィアをデートに誘ってみたがことごとく撃沈した。
「明日は、エアリス様のお茶会が。」
「急に打ち合わせが入ってしまって。」
「アレックスが秘密の相談があるみたいで。」
「次の休みは、えーっとえーっと……。」
私は蹲って泣いていた。ソフィアはそんなに理由を探してまで自分とは一緒にいたくないんだ。そう思うと涙が止まらなかった。心の中で。
「ちょっと、団長!そんな所で休んでないでちゃんと働いてください!」
そしてここはカメリエの森だ。
「また給料無くなっちゃいますよ。」
「良いんだ別に。もうお金を使う予定も無くなった。」
ウィリアムは完全に不貞腐れている。
「ウィリアム様、ちょっと!みんな死んじゃいますよ!」
「もう私なんていない方がいいんだ。そうすればソフィアは……うぅ。」
「あんたは絶対に死なないんですよ!他のみんな死んじゃいます!」
師団長が涙目で訴えている。
「はぁ。仕方がないな。ひとり泣く事も許されないとは。」
「カメリエの森じゃない所で思う存分泣いてください!」
ウィリアムはおもむろに立ち上がる。
「とっとと片付けて、早く帰るぞ!」
そう言うと、一瞬で周囲の魔物を殲滅し魔法騎士団の隊形を立て直す。
「全員、気を引き締めろ!」
誰も声には出さないが、『お前が言うな!』とその場の全員が思っていた。
「はぁ。」
カメリエの森から帰ってきたウィリアム。ソファに座り大きなため息を吐いている。
「ウィル、公爵領から帰ってきて何で侯爵邸に来るんだよ。公爵邸に帰れよ。」
「イル、こういう時は何があったのか聞くのが友というものじゃないのか。」
「どうせソフィーと喧嘩でもしたんだろう。ウィルが落ち込むのなんて、ソフィー絡みのことしかないんだから。」
「私はどうしたらいいんだ。せっかく夫婦になれたというのに。」
「何もしなくていいから、とりあえず公爵邸に帰ったらいいんじゃないですかね。」
軽くあしらうイルバートをウィリアムは涙目で見つめる。
「何だよ。」
「帰ってもどうせソフィアは相手にしてくれないんだーー!」
「ああ、もう五月蝿いな。分かったから。今日はここに泊まっていくか?」
「……いいのか?」
「帰りたくないんだろ?」
「帰りたいような、帰りたくないような。」
「どっちなんだよ。」
イルバートは苦笑いだ。
「でもやっぱり帰る。」
「はい、じゃあまたな。今度は休みの日にゆっくり遊びに来るといい。」
「ああ、ありがとう。」
ウィリアムはとぼとぼとイルバートの部屋を出ていく。
扉が閉まるなりイルバートは布団に潜り込んだ。ウィリアムが侯爵邸を訪ねたのは日付を跨ぐ頃、そう真夜中であった。馬車は先に帰らせていたので、ウィリアムはふらふらとひとり徒歩で移動する。そして、公爵邸に到着したの頃には朝日が登り始めていた。
「ウィル様、おはようございます。って、もしかして今お戻りですか?」
「ああ。おはよう、ソフィア。」
「昨夜遅くに馬車が帰ってきていたので、ウィル様もお戻りかと。今回の討伐は大変だったんですね、お疲れ様でした。」
ソフィアはウィリアムが羽織っていたマントと手袋を外す。
普段は出迎えてはくれてもそんな事はしないため、本当に心配してくれているのだろう。侯爵邸に真夜中に突撃して、徒歩で帰ってきたなどとは口が裂けても言えない。後で王宮に行き、イルバートに口止めをしなければと思う。
「そういえばウィル様。今度のお休みは空いていますか?」
「ああ、空いている。」
というか、ソフィアが相手をしてくれなければ永遠に空いている。
「よかった。では、一緒に王太子宮に遊びに行きましょう。」
「え?」
ウィリアムは固まった。これまで、ふたり揃って王太子宮に行った事などなかったからだ。
「どうして王太子宮に?」
ウィリアムは戸惑いを隠せない。王太子宮にはもちろんレイモンドも現れるだろう。ソフィアはレイモンドに会いたいのだろうか。いや、それならひとりで行けばいい。なぜ、私も連れていく。もしかして……。
「シャーロットちゃんに会いに行きたいのよ。この前、エアリス様とお話ししていたら久しぶりに遊びたくなってしまって。」
「嫌だ。それならばソフィア一人で行けばいいだろう。」
「え?」
断られると思っていなかったソフィアは困惑する。いつ何時もソフィアと一緒にいようとするウィリアム。今までは何処にだって嬉々として付いてきたのだ。
「どうして?一緒に行きましょう?」
「絶対に行かない。」
ウィリアムは疑っている。王太子宮でみんな揃ってソフィアとの離婚を説得させられるのではと。
「困ったわね……。」
ソフィアが小さく呟くのを、ウィリアムは聞き逃さなかった。




