SS⑦その3.ウィリアムの憂鬱
「今日は本当にありがとうございました。レイモンド殿下にお願いして本当に良かったです。」
「いや、僕の方こそ楽しい時間をありがとう。またいつでも声をかけてね。待っているよ。」
王宮のレイモンドの執務室前で別れの挨拶をする男女。それはもちろんレイモンドと……女性の方はソフィアである。
「なっ……!」
ウィリアムは驚きのあまり声が出そうになったが、口を押さえて建物の陰に隠れる。レイモンドの執務室に報告を上げに行く途中であった。
「何故ふたりが一緒に。ふたりで出かけていたのか。」
顔を真っ青にしてそのまま座り込む。
「最近は私が誘っても忙しいからと全然相手にしてくれないのに。子どもの事でプレッシャーをかけ過ぎて私の事が嫌いになったのか。やはり兄上の方が良いとか。ああ、困った。」
ウィリアムは頭を抱えてブツブツと呟き始める。
「あら、ウィリアム。こんな所で何をしているの?」
さらに間の悪い事にエアリスまで現れた。既に声は聞こえていないが、まだソフィアがそこにいるかもしれない。ウィリアムは頭を抱え、悩んで悩んで悩んだ……結果。
「やあ、エアリス。体調が優れなくてね。申し訳ないが、医務室まで運んでくれないか?」
「まあ、それは大変ですわ!でもわたくしひとりではお運びできませんので、すぐにレイモンドを呼んで参ります。レイモンドの執務室はすぐそこですわ。」
駆け出そうとするエアリスの腕を慌てて掴む。
「いや、大丈夫だ。もう良くなった。ありがとう。」
「それは良かったです。ではわたくしは急ぎますので。」
エアリスはにこりと微笑みまたも立ち去ろうとする。しかし、ウィリアムは腕を離さない。
「ウィリアム?」
「そうだ、体調は良くなったが、まだ無理はいけないようだ。今日はこのまま休暇をとってお茶でもしよう。付き合ってもらえるか?」
「ええ、もちろん。レイモンドの執務室をお借りしましょう。」
エアリスはウィリアムの手をグイグイと引っ張り始めたが、当然体格差があるためびくともしない。
「ふむ、たまには姉弟水入らずでお茶をするのもいいだろう。さあ行こう。」
「え、ちょっと。ウィリアム?わたくしはレイモンドに用が。え、えーーー?」
「さあ、義姉上こちらへ。」
「義姉上なんて今まで呼んだ事もないじゃない!それに、姉弟水入らずは血の繋がりがあってこそ成り立つのよーーーー!」
エアリスはウィリアムに応接室までずるずると引き摺られて行った。
「というわけなんです。ソフィア様までお待たせしてしまって、本当に申し訳ございません。」
ウィリアムに拘束を解かれたエアリスは全速力でレイモンドの執務室に駆け込んできた。
「いえ、とんでもございません。ご協力頂いているのはこちらの方ですし、邪魔したのもウィル様ですから、謝らなければいけないのはこちらの方ですわ。」
ソフィアは眉を下げて謝罪する。
「ウィルはどうしちゃったのかな?最近は真面目に働いていると思っていたけど。」
レイモンドも苦笑いだ。三人は首を傾げながら用意された紅茶に口をつける。
「そういえば今日はシャーロットちゃんは?」
「今日は乳母に預けてきてしまったわ。とても懐いていて、わたくしといるよりも楽しそうよ。」
エアリスは肩をすくめる。しかし、彼女がシャーロットをとても大切にしているのは知っているし、シャーロットも彼女に抱かれている時はとても幸せそうにしている。
「もうずいぶん大きくなっているのでしょうね。またゆっくり遊びたいわ。」
「もう伝い歩きをして、あちこち探検をしているわ。時々手を離して皆んなを驚かせるのが彼女の最近のお気に入りの遊びよ。」
「お転婆とイタズラ好きには困った物だね。」
「本当、誰に似たのかしら。」
エアリスは頬に手を当てて困った表情をしているが、レイモンドとソフィアは苦笑いでエアリスを見つめる。絶対にエアリスに似たのだ。今でこそお淑やかな大人の女性となっているが、エアリスの学園中等部時代のお転婆ぶりにはきっと成長したシャーロットも驚くはずだ。
学園の中庭を全力疾走していたり、木の上に登ったり、噴水に飛び込んでいた事もあったなと思い出す。レイモンドを追いかけ回していたソフィアの記憶の中にはエアリスの衝撃的な映像が数多く残っている。しかしそれらの行動には必ず意味があって、学園に忍び込んだ侵入者を捕まえるために走っていたり、高い所から降りられなくなった子猫を助けるために木に登っていたり、友人の大切なアクセサリーを探すために噴水に入っていたり。どれもソフィアの日記に書かれていた事だ。レイモンドはエアリスのそんな優しさや強さに惹かれたんだと思う。
そして先ほどの王宮全力ダッシュと執務室への滑り込みにもその片鱗は見えている。王宮の近衛たちが目を丸くして驚いていたはずだ。いつもはおっとりとお淑やかに振る舞うエアリスとはまるで別人だ。そして、それを分かってやっているエアリスもまた悪戯好きなのだ。
「それなら会場は王太子宮にするのはどうかしら?公爵邸だと気づかれないように準備するのも大変でしょう?」
「良いんですか?」
「シャルも賑やかな方が喜ぶしね。」
シャルはシャーロットの愛称だ。
「ありがとうございます!」
「ふふ、ウィリアムにはいつも驚かされてばかりだから、今回は私たちが驚かせる番ね。大勢の人が王太子宮に尋ねてくるから、きっとシャルもびっくりするはずよ。」
こういう所だ。シャーロットとエアリスは瓜二つである。しかし、彼女の悪戯はいつも皆んなを幸せを運ぶものだ。4人のリンクコーデを提案したのもエアリスだったなとシルヴィアは思い出し、懐かしく思うのだった。
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