SS⑦その2.ソフィアが社交場へ足を運ぶ理由
「そうだソフィア。今シーズンはソフィアも一緒に社交場で出てみるのはどうだろうか?」
「社交場ですか?」
アレックスのパーティーの翌朝、朝食を共にとりながらウィリアムが突然提案する。ソフィアはカメリエ侯爵夫人となって以降、絶対に出席が必要な式典以外、社交場への出席は控えていた。ソフィアブティックの立ち上げに忙しかったからだ。しかし、近頃は業務がだいぶ効率化され、作業工程もしっかり組まれているためソフィアが全ての指示を出さなくても良くなってきている。当初のような忙しさは無くなっているのだ。
「ソフィアブティックのドレスを着て出席すれば宣伝にもなるしいいと思うんだが。」
「そうですね、そうします!」
「はは、ソフィーは本当に仕事が好きだな。ブティックの話をした瞬間に目の色が変わった。」
ウィリアムは目を細めてソフィアを見つめる。
「ちょうど客層の拡大を考えていたところでした。ドレスの参考にもなるし、スケジュールの合うものはご一緒しますわ。」
ソフィアのドレスは同年代の若い夫人や年下のご令嬢たちにはとても人気であるが、それより上の層に対しては今の所売れ行きは良くない。というのも、ソフィアが自分でデザインしたドレスを着て出席したのが同年代の令息令嬢が集まるようなパーティーが多かったため、ソフィアとウィリアムに憧れる令嬢たちから爆発的に人気が出たのだ。となると商品開発もその年代をターゲットにした物が中心となり、フルオーダーの依頼以外はそれ以上の年代のドレスを作ってこなかった。
「となるとちょっと落ち着いたデザインのドレスを選んだ方がいいわね。今ある既製品のドレスをちょっと手直ししてみます。」
一から作っていては社交界シーズンは終わってしまう。朝食を食べ終わると、ソフィアはそそくさとブティックに出勤して行った。
プリンセスタイプのドレスをスレンダーラインやマーメイドラインのドレスに作り変えたり、リボンやフリルを外して、宝石やレースを付けたり試行錯誤して出来上がったドレスたちはどれもご婦人方に大好評であった。カメリエ公爵夫人として参加する社交場は今まで参加していたよりも参加者の年代が高く、ソフィアの読みも的確であった。ウィリアムの提案を了承し、ブティックとしてはかなりいい手応えを掴んだ。そう、ブティックとしては。
「そろそろお世継ぎは考えなくて?」
「女性の時間は有限ですのよ。」
「陛下も待ち望んでいらっしゃる事でしょう。」
「女性は仕事ばかりでもいけませんな。」
そう。カメリエ公爵夫人としての矜持はかなり落とされてしまったのだ。
「まあまあ慌てるな。」
「はは、私のソフィアへの愛は無限だ。問題ない。」
「ふむ、父上が私に望んでいるのは真面目に仕事をする事だけだと思うが。」
「その時が来たら、皆が驚くような美男美女が産まれてくる予定だ。ははは。」
ウィリアムが上手く対応してくれて、笑い飛ばしてくれて本当に助かった。自分の顔はおそらく引き攣ってしまっていた事だろう。公爵夫人として表情管理のトレーニングが必要だとソフィアは真剣に思う。
「ソフィア、嫌な思いをさせてしまってすまない。」
「いえ、全然問題ありません。」
「ふたりで社交場に出て、仲の良いところを見せれば黙ると思ったのだが。」
ウィリアムは苦笑いを浮かべている。普段からウィリアムはひとりであのような言葉を受け止めていたのかもしれない。ソフィアは胸がギュッと苦しくなる。
「ブティックのためだと思えばなんて事ありませんわ。」
それでも、ソフィアは頑なに子どもの話を避ける。
「……ソフィアは子どもが嫌いか?」
ウィリアムがいつもよりもトーンを落として、優しい口調で尋ねる。ずっと気になっていたのだろう。しかしソフィアの様子をみて、訪ねてこなかったのだ。
「嫌いではありません。」
「では、私との子どもが欲しくな…」
「そんなわけありません!……ただ、怖いんです。まだ、自分が人を育てる自信がないんです。」
前の世界でも避け続けてきた道。ウィリアムと幸せになる決意はしたが、親になる決心はまだついていない。ずっと1番下で可愛がられて育ててもらったソフィアは、自分が誰かを育てるイメージがどうしても湧いてこない。産んでしまってから、やっぱり無理でしたはきかない。
「……もう少しだけ、時間を下さい。」
「分かった。」
ウィリアムはそれ以降、子どもの話は一切しなくなった。
まだ続きます!




