SS⑦その1.幸せの侯爵家
「「「「アレックス、入学おめでとう!」」」」
「わあ、みんなありがとう。」
春になり、アレックスがセグノーツ学園への入学のため王都に引っ越して来た。今日無事に入学式を終えて、侯爵邸の中庭でお祝いをしているところだ。暖かくなって庭には様々な花が咲いており、家族揃ってのお花見も兼ねている。
「しかし、アレックスがもう12歳か。早いもんだな。」
「末っ子はいつまでも幼い印象でいけないわね。そろそろ子離れしないと。こんなに立派に大きくなったんだもの。」
ローゼン侯爵とアンリが目を潤ませて微笑み合う。
「ああ、本当に。産まれたのが昨日のことのようだ。」
「ウィル様はアレックスが産まれた時立ち会ってないでしょう!」
「そうだったな。実の弟のように可愛がっているからつい。ははは。」
感動の空気の中も我が道を行くウィリアム。しかし、思い出話が始まると困るソフィアに対する配慮も含まれている事を、彼女は知っている。
「入学式はどうでしたか?」
ライラがアレックスに問いかける。
「去年ソフィア姉さんに見学に連れて行ってもらっていたから緊張しなかったよ。」
「そう、良かったわ。」
「アレックスならすぐに友だちもできるだろうし、上手くやっていけるだろう。なんたってソフィアでも何とかなったんだからな。」
「どういう意味ですか?」
イルバートがアレックスを安心させる意味で放った言葉であろうが、ソフィアは半眼で彼を見つめる。
「まあイルバート様、そんな言い方いけませんわ。こんなに素敵なソフィア様に対して失礼です。ソフィア様は学生の頃も男女問わずとても人気でいらっしゃいましたわ。」
ライラの言葉にウィリアムの眉がぴくりと動く。
「ほう、それは初耳だな。」
ライラはしまったという顔をしたがもう遅い。
「ああ、ソフィー自身はレイしか眼中にないようだったから気がついていなかったね。レイとエアリスが付き合ってからはウィルがソフィーを囲ってしまってたから誰も近寄れなかったよ。遠巻きに眺めている連中はいたかもしれないな。」
「ほう。そいつらの目も焼いて回った方が…」
「そんな事しなくてもウィル様しか見ていませんわ!」
ウィリアムの瞳に炎がチラついたため、ソフィアは慌ててウィリアムの両頬を掴み笑顔で目線を合わせる。
「そうか…。」
ウィリアムは顔を赤くして、瞳は黄金に戻った。ソフィアはふぅと息を吐く。
「ふふ。本当、こちらは賑やかでいいね。これからの生活が楽しみだな。」
ダブルのプチ痴話喧嘩も笑って受け流してくれるアレックス。彼が1番大人だなとソフィアは苦笑いを浮かべる。
「そうだ、ライラ様もおめでとうございます。そろそろ安定期ですよね。」
「ありがとうございます。ちょうど先週安定期に入ったところですわ。悪阻も落ち着いてだいぶ楽になって来ました。」
ライラは少し膨らんできたお腹をさすりながら答える。
「そうですか、それは良かったです!」
「もう動いたりするの?僕も触ってもいい?」
アレックスが目を輝かせて質問する。アレックスは自分が1番下の弟のため、間近で赤ちゃんの誕生を見た事がない。すごく楽しみにしているのが見て取れる。
「小さく動いたりはするんだけどね。本当に小さすぎてまだ分からないと思うけど、良かったら触ってみて。」
ライラはアレックスの手を取ってお腹に当てる。
「どう?膨らんでいて面白いでしょう?この中に赤ちゃんがいるのよ。」
「うわぁ。いつ産まれるの?楽しみだなー。産まれたら抱っこさせてね。」
アレックスのキラキラの瞳につられて、ライラもとても嬉しそうだ。
「ええ、もちろんよ。」
「そうしたらアレックスはこの子の叔父さんだな。」
そして、3人のやり取りを眩しそうに見つめるソフィア。
「みんな幸せそう。今年もローゼン侯爵家はハッピーな事が盛りだくさんね。ふふふ。」
「ふむ、カメリエ公爵家もそろそろ…」
「そうね、わたくしたちの最良のタイミングで授かれるといいわね。」
ソフィアはウィリアムの言葉を遮った。普段はあまりない光景だ。アレックスたちの方を眺めたままのソフィアは、視界の端でウィリアムの瞳が一瞬だけ悲しげに揺れたのを捉えた。しかしそれに気付かないふりをして微笑む。
「はは、そうだな。それがいい。」
ウィリアムもソフィアに同調して笑った。
お読みいただきありがとうございます!
続きます。
今回ちょっとだけ長くなります。




