SS⑥後編.幸せなクリスマス
「何とかひと段落つきましたね。」
エマがブティックの事務所にあるソファに倒れ込む。
「本当に。一時はどうなる事かと思ったわ。」
隣に腰掛けるソフィアは眉を下げて笑う。
「お疲れ様でした。お力になれず、すみません。」
そう言いながら、アンソニーが紅茶とお菓子を出してくれる。
「アンソニーがいてくれるおかげで、安心して店を離れられるのよ。そんな事言わないで。」
「そう言ってもらえると助かります。」
アンソニーは頭を下げて向かいのソファーに座った。
「もうクリスマス当日になっちゃいましたね。」
「そろそろお帰りにならないと、公爵様がお待ちなのでは。」
「ふふ、そうね。この紅茶を頂いたら帰ろうかしら。最近はウィル様もお仕事を頑張ってくれているし、今日はふたりでゆっくり過ごすわ。」
にこりと笑ったソフィアは紅茶の入ったカップに口をつける。
「でもソフィア様。何だか顔が赤くありませんか?」
エマがソフィアの顔を見ながら首を傾げる。
「そうかしら?」
「確かに…。」
アンソニーの眉間に皺がよる。
「そう言われてみれば、何だかフラフラするような…。」
ソフィアは頭に手を当てて、ソファの背にもたれかかる。
「大丈夫ですか、ソフィア様!」
倒れていたエマが起き上がる。
「今、公爵様に連絡を!」
アンソニーが慌てて事務所を出ていった。
知らせを聞いて飛んできたウィリアムにお姫様抱っこで馬車まで運ばれる。
「ソフィア様をよろしくお願いします。」
「ああ。エマ、アンソニーありがとう。」
ウィリアムはふたりに向かって大きく頷くと、馬車を出発させた。
「ウィル様?いつまでこのままいればよろしいですか?」
馬車の中でもウィリアムの膝の上に乗せられたままのソフィアは困惑していた。
「このまま休め。着いたらベッドまで運んでやる。」
優しく微笑むウィリアムの顔が近すぎる。
「ウィル様にうつってしまうかもしれないので、できれば離れた方が…。」
「構わん。どうせ明日からしばらくは休暇だ。一緒に休んでいればいい。」
ソフィアの提案は優しく却下された。そして、ぎゅっと抱きしめられ、更にふたりの距離が縮まる。
「大変だったな。よく頑張った。」
ウィリアムに抱きしめたまま頭を撫でられる。疲れた身体にウィリアムの声が沁みる。ウィリアムとこうやって過ごせるのは久しぶりだ。ここ数週間は公爵邸に着いてすぐ、倒れるように眠ってしまう日が続いていた。
「ウィル様はあったかいですね。」
抵抗を諦めたソフィアはウィリアムにもたれかかる。
「ソフィアは…熱いな。まさか、寒いのか?今服を貸してやる。」
慌てて服を脱ごうとするウィリアムの手をそっと制止する。
「大丈夫です。このままでいてください。」
そう言うと、ソフィアはウィリアムの腕の中で丸まった。
「ふむ、ではこのまま一緒に。」
ウィリアムは羽織っている外套でソフィアを包み込み、そのまま抱きしめる。
「ふふ、ありがとうございます、ウィル様。とっても幸せな気分です。」
ぼんやりとした意識の中、馬車の窓から見えるキラキラとした街を眺めるソフィア。
そして、やはり数日遅れで熱を出したウィリアムは、休暇中ずっと寝て過ごすことになる。しかし、同じく休暇に入ったソフィアにつきっきりで看病され、ウィリアムは苦しくも幸せな年越し休暇を過ごしたのであった。
お読みいただきありがとうございます!
季節外れも甚だしいお話となってしまいましたが、春、夏、秋、ときたので冬のお話を書いてみました。
クリスマスの話という事でいつもよりも少しだけ甘めのソフィアとウィリアムでした。
では。




