SS⑥前編.キラキラの王都、走り回るソフィア?
「毎年思うけど、この時期の王都は本当に美しいわね。」
キラキラとした飾りが街中に飾り付けられて、行き交う人々もどこか楽しそうに見える。ソフィアも目を輝かせながらその風景を眺める。
「ふふ、そうですね。」
街の中心には大きなモミの木が立てられ、色とりどりのオーナメントが掛けられている。アンソニーもモミの木に集まる子どもたちを見ながら微笑む。
「我々は来シーズンのドレスの注文が殺到してますから、ほっこりしている場合じゃありませんよ!」
ブティックのガラス窓から街の様子を眺めていたソフィアとアンソニーにエマから喝が飛ぶ。
「張り切ってますね、エマ。」
「私がここに来て初めて迎えるシーズンですからね。皆様に無事に素敵なドレスをお届けしたいのです。」
「ええ、そうね。休憩も終わったし、もうひと頑張りしましょうか。」
「はい!」
とはいえ、シーズン用に注文の入っているドレスについては、既に採寸やデザインは終わっているため、各工房に作業工程を共有して、仕上がりを待っている状態だ。打ち合わせのない日は、店頭に立つか、工房の様子を見に行って進捗状況を確認しに行くことが多い。
「じゃあ行ってくるわね。」
「店番よろしくお願いします。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
アンソニーに見送られてエマとともに街へ出る。
「ステラさんの工房に行ってみましょう。そろそろお願いしていたレースが仕上がるはずです。」
「そうね。」
ソフィアとエマは白い息を吐きながら歩き始めた。
「えーーーー!職人の半分が高熱で倒れている?」
「熱が下がり次第出勤させているのですが、次々と倒れてしまって……。申し訳ございません。」
ステラさんは深く頭を下げる。インフルエンザか…とソフィアは思う。
「ステラさん顔を上げて。体調不良は仕方のないことよ。それよりも、これ以上被害が広がらないように対処しましょう。」
ソフィアは首に巻いていたマフラーを口に当てる。エマにも同じようにさせた。
「まずは熱が出始めてから5日間は出勤しないように伝えて。」
「えっ。」
「作業が遅れるように感じるかもしれないけど、体調不良の連鎖を収束させるのが先決よ。その方が結果的に作業も挽回できると思うわ。」
体調が万全ではない人に無茶をさせては、当人にとってはかなりのストレスになるし、いい物も出来上がらない。そして、感染者が増えていくという危険性もある。何もいいことはないのだ。
「それから、熱が出た人と近くで会話や食事をした人がいたら、それ以外の人と隔離してちょうだい。働くスペースを分けて、食事も一緒に取らないように気をつけてね。」
「分かりました!」
ステラは早速作業場へ向かおうとする。
「ちょっと待って。私たちは何を手伝えばいいかしら?」
「何でもやりますよ!」
ソフィアとエマは外套を脱ぎ、マフラーは後ろで縛って固定する。
「そんな、ソフィア様とマネージャーにお手伝いしていただくなんて…。」
ステラは両手を前に出してソフィアとエマを制止する。
「わたくしたちはみんなでチームよ。それに、ステラさんのレースが仕上がらなくては、仕上がりを待っている針子たちも困るもの。」
ソフィアはにこりと微笑み、ステラを説得した。
さすがにレース編みはできないため、必要な糸を探して運んだり、レースのレシピを差し替えたり、買い出しに行ったり、掃除をしたり、食事を用意したりと、やれる事は何でもやった。そして納期ギリギリになんとか全てのレースを仕上げる事ができた。
「ふぅ、やれやれですね。」
「でも、何だか嫌な予感がするわ。」
やり切った達成感に浸るエマの隣で、ソフィアは右手で胸を押さえている。
「……他の工房も見て回りましょう。」
ソフィアの予想通り、半数の工房でインフルエンザらしき流行病のクラスターが発生していた。感染者の有無に関わらず、高熱者が出た時の対応を紙に書いてまとめた物を各工房に配り、指導して回った。そして、スタッフが足りていない所はソフィアとエマが手分けして巡回し、雑用を引き受けて何とか作業を進めてもらう。
「猫の手も借りたいですーー!」
エマは叫びながら煌めく街を駆け抜けていった。
一話にすると長すぎたので、後編に続きます。




