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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第一章 東高等学校はじまり編

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8話 単純な男なので、入ることにしました

 巻き込まれ体質なのだと思う。

 昔からお願いされたら断れない性格で押しにとにかく弱い。

 俺にも考えはあったが、断っていやな空気になるくらいならと引き受けてしまう。

 今俺が置かれているこの状況は、そんないつもの俺の考えとは違う気がしていた。


「梶くんごめんなさい。騒がしかったですよね! あとうちの説明が足りなさ過ぎでした……。どんどん先行っちゃうのうちの悪い癖で。気づいたときにはみんな引いてたとか昔からよくあるんです。あはは……」


 ファナさんと女子さんは帰り、教室には白井さんと俺、二人だけ残っている。

 俺は変わらず座ったままで、白井さんは俺の一つ隣の席に腰を下ろし、耳元の髪を触りながら黒板の方を見ていた。


「お笑いやろうっていきなり声掛けちゃって……相方とか先走っちゃいましたけど」


 前髪を盾にするような視線で俺を見る白井さん。

 その表情でハッとする。俺はずっと白井さんの横顔を見ていた。


「もし、梶くんがよかったら、わらおー会に入ってもらえたら嬉しいなあって。あ、もちろんお試し入会でもいいですよ! うち、クーリングオフききますから! なんて意味不明ですね。へへ……」

「そう、ですね……」


 曖昧な返事をしてしまったが、自分自身の状況を整理しようと思考を巡らせる。


「って、なにやるかも伝えてへんし。ああうち、ほんま説明下手やな……」


 わしゃわしゃと髪をくしゃくしゃにして、呟くような声が聞こえてくる。


 代打で大喜利大会に出て、俺のテンパって出た回答を唯一笑ってくれた白井さんに一緒にお笑いをやろうと誘われる。

 白井さんは自分で立ち上げたわらおー会の中で活動していて、相方を探していた。


 ここで出てくるのがわらおー会の面々だが、とりあえずファナさんと女子さんのことは置いておこう。強烈すぎて一緒に考えているとあらぬ方向に飛んで行ってしまいそうだ。


 今の状況は――正式な俺の回答待ちだろう。

 白井さんの「お笑いやりませんか」は、わらおー会に入ることが始まりで、そこで俺は白井さんとコンビを組んでお笑いをやる。

 具体的に何をやるかはまだ未定。漫才ともコントとも配信とも言っていた。

 ……こんなところだろうか。


 それで今の俺の気持ちはというと、やってみますと返事したときと変わらない。

 つまりイエス、だ。

 ただなんというか、どうしようもないけど、ここにきて気恥ずかしさが勝ってしまい口に出せないでいる。こういうところ、マジで直さなくちゃいけない。


 白井さんの食堂での喜びよう。

 見ず知らずの俺を認めてくれたみたいで胸が高鳴った。

 それに、白井さんのくるくると回る表情と、小さめの体を大きく見せようとしている小動物のような仕草、大きな口を開けて屈託なく笑う顔。

 どれもが可愛いと思った。


『――梶くんがいいんです!』


 あの言葉が、一番の決定打だったのかもしれない。

 

 案内された教室では、金髪ツインテールのファナさんと、ショートで小麦色に焼けた男勝りな女子ここさんの勢いに押されてろくに喋れなかったけど。


「…………」


 もう一つ、考えなくちゃいけないことがある。

 高校二年の俺はいよいよ進路について考えなくちゃならない。

 とっくに決めている人もいるけど、俺は就職はイヤだから、ふわっと大学に行こうかなくらいしか考えていない。


 このままわらおー会に入って活動していくとなったら、勉強ができなくなるかもしれない。親に言ったらなんて言われるか容易に想像できる。


 けど、それでも――やってみたいと思ったのは確かだった。

 考えると考えるだけ不安も募っていくが、同時に興味も同じくらい湧いてくる。


 それに思い出すだけで笑えてくる。

 白井さんの喜怒哀楽の変化、ファナさんの豹変ぶり、女子さんの女子にやけにこだわる喋り方。

 この中で一緒に過ごせることができたら何かが変わるんじゃないかって。


 白井さんは黙って俺の返事を待っていた。

 たまにちらりと横を向いて俺を見るも、基本は前を向いて黒板を見ていた。 


「女子さんのネタ、女子の女子による女子だけの常識シリーズが気になってしかたないです」

「ほぇ?」


 白井さんは素っ頓狂な声を上げて俺の方に椅子を向ける。


「こーちゃんに言ったら喜んでやってくれますよ!」

「そんな気がします。すごくノリが良さそうです」


 答えなんて決まってるのに。

 どうして俺は素直にはいと返事できないのだろうか。


「それにファナさんも。僕もゲーム好きなので、仲良くなれそうだなあ、なんて。対戦はできなさそうですけど」

「あはは、ファナち自身そんな覚えはないみたいで。うちはキレ芸って呼んでます」


 金髪でおしとやかに見える雰囲気をひっくり返し壊すキレ芸……面白過ぎる。

 女子さん、ファナさんの印象を伝えるより、俺が今言うべきことは――


「お笑いはよくわからなくて迷惑ばかりかけるかもしれないですけど、なんか……楽しそうかもって思ってる自分がいます。何かに熱くなって夢中になるってこと、正直、部活動に熱中してる周りを見て羨ましいって思ってたんです。でも行動に移せないまま、今の僕がいます。だから――」


「梶くん……」


 なにより、白井さんに興味が湧いていた。

 その動機は不純なのかもしれないけど、きっかけはそれでいいんじゃないかって思う。それと、曖昧で平坦な日々が、いい方向に変わりそうな気がしたんだ。


「あらためて、わらおー会。入らせてください。よろしくおねがいします」

「梶くん……っ!」


 隠れた才能を持った主人公に、友人とか先輩がサッカーやろうとか野球とか、誘われて始める物語はアニメとかでよくあるけど、俺の場合はお笑いだっただけ。

 それと別に、俺に才能があるとは思えない。

 でも、白井さんの俺に向けられた熱意は、その気にさせてくれるには十分すぎるほどの熱量だった。


 白井さんは瞳を潤ませると、勢いよく俺の手を両手で包み込んだ。


「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」


 ぎゅっと握りしめられる力は強いのに、手のひらは驚くほど柔らかくて熱い。

 俺の手に伝わるその熱量が、ここから始まる「非日常」の温度そのもののような気がした。


 こうして俺は、白井さんの相方となる。

 想像もしていなかった道へ。

 俺は一歩、前に進んだんだと思う。

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