7話 女子の女子による女子だけの常識は顔面バーン
俺の知っている情報と白井さんの説明からまとめるとこうだ。
俺が通う東高等学校――
ここには既にお笑い同好会がある。大喜利大会に出場予定だったが休んだ俺の友人もそこに入っていて、大喜利大会を開催したのもお笑い同好会だ。
それに対して、白井さん、ファナさん、女子さんがいる”わらおー会”がある。
対するというと変な意味合いになってしまうかもしれないが、他の言い方は思いつかなかった。
わらおー会は、お笑い同好会とは別物で、白井さんが今年立ち上げた活動グループだ。掛け持ちだが顧問もいて、学校から正式に認められていた。
高校一年生で人を集めて、先生の許可までもらって立ち上げた白井さんの行動力は素直に凄い。
「うち、お笑いが好きで、入学してからすぐにお笑い同好会に入ってたんですけど、なんか思ってた空気とか、うちだけ女子ってことだけで特別扱いされるんがなんか違うなあと思って抜けまして……」
「嫌いとかじゃないですよ」と白井さんは捕捉して続きを喋る。
「でもお笑いはやりたかったので、だったらうちが新しく作っちゃえって思って、夏休み前にようやくできたんです!」
少しずつ陽も落ちる教室の中、俺は三人から少し距離が離れた空いている椅子に座っている。
「うちのことより! いちおうわらおー会の役割みたいな、そんなの決まってまして!」
席の間を歩きながら、白井さんは”わらおー会”の経緯について説明してくれている。
「ファナちは、めっちゃビジュもええしもったいないんですけど、うちが無理矢理誘った手前、裏方担当してもらおって思ってます!」
「はい……ファナ、人前は苦手ですけど……サポートならお任せくださいっ」
今にも消え入りそうな微笑みを保っているファナさん。
確かに、整った綺麗な顔立ちで金髪でツインテールは目を引く力は絶大だ。
スタイルもいいし、今にも制服という殻を突き破りそうなくらい、胸も腰も主張している。
「こーちゃんはピンで臨機応変に動いてもらおうかと!」
「ああ、オレは我が強いからな。一人の方がやりやすいんだ」
我が強いって自分で言うんだ……。
女子さんの細身で日焼けした小麦色の肌は夕焼けの教室とよく似合う。
パッと見、陸上やっているんじゃないかって思うくらいスタイリッシュな体つきは細身だが筋肉の影をうっすらと見せていて――って、さっきから俺はそんなとこばっか見て!
「うちは、へへへ」
白井さんはちらりと俺を横目でみてはにかんだ。
「実はコンビに憧れててずっと相方を探してたんです! でもなかなか見つからなくて。お笑いが好きそうな女の子に声かけても全滅でして。ハードルが上がるというか、変な壁があるのか、断られ続けてて困ってたんです」
両手を後ろで組んだ白井さんは、一歩ずつ腰も曲げながら教室の端から端まで移動する。
「もちろんこーちゃんにも声をかけました。でも、一人でやる方が好きってことでダメでしたけど、わらおー会に興味を持ってくれて入ってくれたんです」
回れ右してまた端に向かって歩き出す。
「そんな中、あの大喜利の梶くんの回答と出会ったんです! また言っちゃいますけど、びびびって来たんです! うわこれ運命やって」
「うん、ファナびっくり……」
「あははー、あの時は直感と勢いに身を任せたというか。そうじゃないとなかなか動けない気がして。でも動いて正解だったよ。ファナち」
照れたように笑い、ぽりぽりと頬を掻く仕草をする白井さん。
「異性の相方って全然考えてませんでした。今日初めて男の人……梶くんに声掛けたんですけど、内心めちゃくちゃドキドキしてたんです。だからいいよって言ってくれたとき、ほんまに、ほんっっまに嬉しくて!」
真っすぐな笑顔で俺を見つめてくる白井さん。
ドキッと心臓が大きく脈打つのを感じた。
「ふうん……。そんなに面白かったのかよ? なあセンパイ。自己紹介も兼ねてなんかやってみてくれよ」
足を組みなおしていた女子さんは、ニヤリと笑って挑戦的な視線を投げた。
きた……。振られるかもしれない予感がしてた。
「もう文化祭も終わるし、話の続きは来週にしてよ。最後に先輩の自己紹介一発ギャグで締めようぜ。意気込みでもなんでもいいからさ」
「ええっ……僕、そんなの持ってませんよっ」
俺のへっぴり腰の敬語もなんとかしたかった。
いや無理か。女子にタメ口とかいきなりは要求レベルが高すぎる。
それよりもどうしよう。女の子三人の前でギャグとか思いつかないぞ!
「ここちゃん。先輩が困ってます……」
「そうそう。梶くんはそういうタイプじゃないと思うねんなあ」
間に入ってくれたファナさんと白井さんが女神に見えた。
ファナさんはゲームしているのか、時折テーブルの上のスマホに目をやって指で操作していた。
スマホを見ているときの表情は安定しておらず、主に喜と怒が如実に表れている。
「っしゃ! キタ! 防御無視で直接顔にバーン! はい、終わりざーこっ! ファナの勝ちなのでーす! ふぁっふぁっふぁっー!」
床をどんどんと踏みしめながら勝利の喜びを嚙みしめるファナさん。
ここで仮に一発ギャグをひねり出したとしよう。
すべてファナさんに持っていかれる気がした。
「……(にこ)」
ファナさんは何事もなかったかのように優しく微笑む。
「じゃあオレが一発ネタ見せてやっからよ。それでいいだろ?」
女子さんは「おっし」と、腕まくりをして机から降りる。
とんでもない展開になってきた。
一発ギャグなんてやったことないし。その前にギャグってなんだ?
当たり前に聞いて喋っているけど、ギャグの定義ってなに?
一言でドーンと笑わせるやつとか、身振りで笑わせるやつとか?
言葉は短い方がいいのか? 動きは必要?
――おいおい。
少しだけ冷静になると自分自身に驚く。やる前提で俺は考え始めているのだ。
「いくぜ? 女子の女子による女子だけの常識シリーズ!」
声高らかに「女子」と区切るたびに空を殴るような仕草をして、小気味いいリズムを刻む。
「こーちゃん! 持ちネタ出して梶くんにだけ新しいの要求するのはあかんよ?」
「む。そ、そうだな。それじゃ不公平だよな。ほのかがセンパイ上げするから、オレの火がついちまった。悪ぃセンパイ。……無茶振りしたわ」
「あ。いえ……」
「まあ、それでも一発披露するのが男だと思うけど? ま、勘弁してやらあ」
「ど、ども……」
(た、助かった……のか……?)
女子の女子による女子だけの常識シリーズ……気になる。
「んーと、とりあえず顔合わせは済んだし、こーちゃんの言う通り、続きは来週ってことで、今日はこの辺で終わろっか!」
パンと手を合わせるとファナさんと女子さんは揃って帰り支度を始める。
白井さんは忍び寄るように俺に近づいて来て、
「梶くん、あとちょっとだけお話しできますか?」
と、内緒話をするような小声で囁いた。
そんな小首を傾げて言われてしまっては、単純な俺ですから、白井さんの言葉に頷くことしかできなかった。




