6話 わらおー会の女子トリオは強烈で夕映える
真っ先に目が追ったのは、机の上にスマホを置き、背を丸めながらじっと画面とにらめっこしている金髪ツインテールの女子だった。
光を反射するような鮮やかな金髪。色白で、青い瞳はまるで宝石のようだった。
「一緒に見てたのに、ほのちゃん急に出ていくからびっくりしちゃったよ……」
「ごめんごめん、梶くんが急に逃げるから反射的に追いかけちゃって」
スマホ画面とこちらを交互に見ながら小さな声で喋る。
控えめな声量と背を丸めている姿は、物静かな雰囲気が漂っていた。
ほんわかとした顔でスマホに目を落とすと、勢いよく両手で持ち上げ天に掲げる。
「――はァ!? こいつぶん回りすぎ! おいい、負けたじゃん。10連勝したの上げたかったのに!」
「えっ……?」
小鳥のさえずりから猛禽類に入れ替わったみたいな豹変っぷりに、第一印象がひっくり返る。聞き間違いかと思ったけど、聞き間違えられるくらい短い言葉じゃない。
「相手誰……? ちっ、低ランかよ! ネタデッキの上振れとか壁とやっといてくんないかなあ、マジで!」
ネタデッキ……カードゲームだろうか?
負けてちょっとだけ腹が立ったのかもしれない。
とりあえずそう思うことにしよう。ただでさえ混乱中なのに、沼に自ら足を踏み入れちゃいけない。
「あっ……はじめまして。ファナと申します」
一拍置いて俺の方を見ると、にこっと背筋を伸ばし、青色の瞳を細めた。
凛と金色のツインテールがつつましげに揺れる。
「あの、宜しくお願いします」
儚げな笑みを浮かべ小さく首を横に傾けた。
「は、はい、こちらこそ……お願いします。ファナ、さん」
ファナは苗字なのだろうか、それとも名前なのだろうか。
先ほどの光景を忘れようと、体が勝手に別の情報で上書きせんとする。
「ファナちは普段は静かで可愛いんやけど、見ての通りゲームとかで別人になる子で。たぶん、運転したら片手ハンドルで性格が強気に変わるやつ! あはは!」
「うぅ、ほのちゃん変なこと言わないでぇ。先輩が誤解しちゃう……。あの、先輩。ファナ、そ、そんなことないですから」
「ははは……」
誤解というより、初手でその片鱗を拝見しました。
「なあセンパイ。ほのかにお願いされたんだろ? まさかその一声で変な気ぃ起こしてねえだろうな? ここには女子しかいないとか、下心満載でほいほいついてきただけだったら――先輩だろうが、女子代表として容赦しねぇからな」
机の上で小麦色にやけた長い足を組んで座っている、長身の女子が荒々しい口調で喋る。
耳が隠れるかくらいのボーイッシュな黒髪の短髪で、細い目は鋭く俺を睨んでいるようだった。その迫力に思わずたじろいでしまう。
それに、スカートで足を組んでいる姿は非常にマズい。
「女子をどんな目で見てるか知らねえけどよ。ここはそんなきゃっきゃした女子のたまり場じゃねえからな。女子のあられもない姿見れると思ったら大間違いだぜ」
ギラリと威嚇するような眼光を放つ。
組んだ足の甲で半分脱ぎ掛けのローファーをブラブラさせているのもまた挑発しているような、そんな態度だった。
それより、何回女子って言うんだろう……。
「ふん。オレは伊ケ崎だ。伊ケ崎女子。ちなみに、女子って書いてここって読むんだ」
まさか本名にまで女子が入ってるとは思わなかった。
これはネタなの? 素なのか? ここで試されてたりする? わからん……。
「こーちゃんは面白そーなことしてるなって声かけてきてくれたんです! ファナちは、うちが強引に誘った感じやけど……ファナちと、こーちゃんとうち。みんな同じクラスなんですよ」
同じクラスの女子三人。気心知れた仲良しトリオといったところだろうか。
「宜しくお願いします。伊ケ崎、さん」
圧力に負けている俺は、無難にお辞儀する。
「ん? ああ、女子でいいぜ。2文字だし呼びやすいだろ、伊ケ崎の3文字よりさ」
「ですかね……。じゃあ、こ、女子さん」
「おい。名前呼びだからって好感度上がってると思うなよ。オレは誰にでも女子で呼べって言ってんだ。別にお前の見た目がスッとしてスタイルいいなとか、シャープな顔つきが男前だなとか思ってねえから。気に入られたなんて勘違いしてんなら、女子代表として容赦しねぇからな!」
「も、もうここちゃん……先輩がびっくりしちゃってます……」
「こーちゃんに見た目合格だって言われたよ! さすが梶くん!」
突っ込むなんてできないけど、突っ込んじゃだめだよなきっと。
でも、このもやもやを一言だけ心の中で叫びたい。
――みんな個性が強すぎる!!
夕焼けが教室内の陰影を赤と黒にしていく。
軽快な足取りで白井さんは二人の元へ歩いて行き、ファナさんと女子さんの真ん中の位置に並ぶとくるっとスカートを躍らせながら振り向いた。
逆光で並ぶ三人の影が教室の壁まで伸びている。
両手を広げた白井さんは白い八重歯を見せながら子供っぽい笑顔を浮かべる。
「ようこそ、梶くん! わらおー会へ!」
隣のファナさんは控えめな笑みで、両手を膝の上に置いて静かに佇んでいる。
女子さんは腕も組み、顎を上げてにやりと一笑、誇らしげな顔を浮かべる。
――わらおー会。
騒いだりするのは苦手だったから目立たないようにしていた高校生活。
このまま三年も同じなんだろうなあと思っていた。
楽だったけど、ふとした瞬間にこんな自分イヤだなと考えるときもある。
そんな俺の高校二年の生活も残り半年と迫る中、予想もしなかった騒ぎの中に、思いがけない出会いから俺は飛び込んだ。
もっと大きな騒ぎの中にどんどん巻き込まれていく。
そんな予感がひしひしと胸にあった。
陰キャな俺だけど――なんだか悪くないと思う自分と、逃げたいと思わなかった自分に一番驚いていた。
序章 おわり
第一章へつづく――
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それでは【第一章 東高等学校はじまり編】の開幕ですっ。




