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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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59話 わがまま

 女子さんに蹴られた太ももがじんじんと痛む。

 グループチャットもまるで反応がない。

 白井さんにばかと言われ、ファナさんには自分で気づけと言われた。

 それってつまりどういうことなんだ?


「だって白井さんの夢のためじゃないか。仲間として応援すべきだろ……?」


 なぜあんなに二人を怒らせたのか、理由を探すべくひたすら反芻していた。

 涙を浮かべて走って行った白井さんの姿が瞼の裏に焼き付いて離れない。



 みんなの反応から客観的にわかるのは、俺は間違っていたということだ。



◇ ◇ ◇



 翌日、登校すると昇降口で白井さんと鉢合わせた。


「お、おはようございます……」

「う、うん。おはよ……」


 それだけの会話で白井さんは目線を落として通り過ぎていく。


「白井さん!」


 思わず声を掛けた。

 このまま挨拶だけで別れてしまうのは、もう会えなくなってしまうんじゃないかと変な不安に駆られてしまった。


「……なに? 梶くん」


 白井さんは肩に掛けた鞄を脇でぎゅっと締め俺を見上げる。


「昨日のことですけど……、やっぱり冷静に考えて……」

「冷静に考えてって?」

「大会に出た方が……、いいんじゃないかと」


 このまま終わるのはやっぱりもったいないと思う。

 白井さんは才能があるし、確かな夢もあるし、何よりお笑いが大好きなんだ。そしてその結果を、爪痕を残したい。


 けど、自分は強くても相方が弱かったら優勝なんて狙えないだろ?

 それに、監督とかそういう立場の人間なら弱い相手となんて組ませない。


「もうええって。なんでそんなにしてうちを追い払おうとするん!?」


 白井さんの勢いと棘のある言葉に俺の息が止まった。

 初めてだった、こんな風に声を荒げる白井さんを見るのは。


「追い払うとかじゃなくてですね……」

「そうやん! 僕はいいから大寺先輩と一緒にやればいいって、うちを追い払ってるのと一緒やん!!」


 白井さんが一歩、二歩と近づいてくる。


「なんなん? うちが決勝でネタ飛んだのがそんなに気に入らんかった!? そうなら言うてよ! もううちとは組めませんってハッキリ!」


 え……? なんでそうなる??


「違います! そんなこと思ったことありません!」

「思てるからやん! カッコイイように理由つけて、うちと離れたいだけやん!!」


 聞きなれない白井さんの声は今にも泣きそうなくらい震えて聞こえた。 


「白井さんにとってチャンスじゃないですか!」


 白井さんの声の大きさに触発されて俺もつい声を荒げてしまった。


「僕はただ、現実的に考えて――!!」

「梶くんはもう、うちと一緒にやりたくないってことやろ!」

「そんなこと言ってません!」

「言うてんのそれ! うちは……、うちは! あーもー! わかった! もーええ! 梶くんの好きにすればええやん!」


 白井さんは俺の言葉を遮るように叫ぶと、踵を返して走り去ってしまった。


「好きにって……」


 ひらりとスカートがひるがえり、上履きが床を叩く音が白井さんの機嫌を代弁しているように遠ざかっていく。


「あ……」


 俺は手を伸ばしたまま、その場に縫い付けられたように動けなかった。登校時間の昇降口。当然、周りには大勢の生徒がいる。注目の的だ。

 ひそひそとした囁き声が、針のように全身に突き刺さる。好奇の目がほとんどだ。  俺は逃げるようにその場を離れ、教室へと向かった。



◇ ◇ ◇



 そこからの数日間、白井さんと会うことはなかった。というのは俺の勝手な都合で、わらおー会に顔を出すのが気まずかった。


 朝、白井さんとすれ違うことがあったが俺が視界に入るやいなや、彼女は露骨に顔を背け、分かりやすいように頬っぺたを膨らませて、ふいと横を向き声を掛ける間もなく走っていく。


 俺は一人、図書室の隅っこに行ったり、意味もなく校庭を歩いたり、誰もいない渡り廊下で時間を潰すようになった。

 常にスマホの画面に映っているのは、全国高校生お笑いナンバーワンの公式ホームページ。


「……はあ、くそ……」


 わかってる。ほんとはわかってる。

 でも、そんなことを言ってしまったら、白井さんの才能や夢は、大寺先輩の言う通り遠ざかってしまう。


 俺のわがままで、白井さんの道を塞ぎたくない。


 俺はやっぱり、単純な男なんだ――




「邪魔なんですけど。こんなところに突っ立って」


 渡り廊下の真ん中で突っ立っている俺に声を掛けてきてくれたのは雨宮さんだった。ジトっとした冷たい目が今の俺には余計に刺さる。


「雨宮さん……」

「……」


 道を譲ろうとするが、雨宮さんは首を動かすだけで進もうとはしない。


「そういえば、先輩にはちゃんと謝罪してませんでしたが、私がリッカであることを知っておきながら接していたのでおあいこですよね?」

「で、ですね……。言い出すのも失礼かなと思いまして。……えっと、白井さんと仲直り? できたみたいで良かったですね!」

「ほのかと私は仲が悪いとかじゃありませんから。お互いが深く結びつくための試練だったにすぎません。私が見ない間のほのかの私生活はボロボロですよ。特に食生活なんて目も当てられません。なので今は、ほのかのために毎日お弁当作って栄養管理したりしてます。本当に世話のかかる子で困ってます」


 笑い慣れてないような少し不気味な笑顔で雨宮さんが笑う。困ってますと言う割には凄く楽しそうだ。

 なんにせよ、元通りになったなら何よりだ。


「色々考えましたが、これからもハルさんがリッカを特別扱いしてくれるのなら、私も特別にハルさんを見てあげますからね。ただ、私に報告なしに配信したり、フォロワーや他のことについての報告を怠ったら……」

「そ、それはもちろん逐一、抜かりなく! リッカさんは第一号ですから!」

「はい、ならいいです。その言葉忘れないで下さいね」


 ここでようやく雨宮さんの人となりが見えてきたというか……。

 雨宮さんの距離感はバグってる。近くか遠くかの両極端、これしかない。

 俺はたぶん、近い側にカテゴライズされたのだろう。


「もうほのかは誰にも渡しません。彼女は私がいないとすぐにだらしなくなります。本当にダメな子ですよ」

「そ、そうですか……」


 雨宮さんの視線はずっしりと胃に溜まっていくようで体が重くなる。


「ハルさんは手放したようですね。私にあんな偉そうなことを言っておいて」


 私は知ってますよ、という口ぶりだった。

 口調はきついが、最初のころ感じたトゲトゲしさは感じられない。白井さんとの関係が良い方向に向かっているから落ち着いているのかもしれない。

 それよりも雨宮さんは俺を先輩からハルさん呼びしているが、そこには触れてはいけな気がした。


「手放すって……、そんなんじゃありません。わらおー会の一員として、白井さんの夢を叶えるために最善の提案をしただけです。大寺先輩と白井さんが組んだら最強じゃないですか。ぜったい面白いし、決勝だっていけるかもしれません」


 どこまで知っているかわからなかったが、余計なことまで言ってしまったのかもしれない。だが、言い始めたら止めることができなかった。


「ですね。こんなハルさんと一緒に組むくらいだったら、まだ大寺先輩の方がマシなのかもしれません。大寺先輩を含んだ同好会の空気が嫌で抜け出したのに、可哀想ですねほのかは。理解されてなくて。自分の夢を優先しろって、突き放すように言っているわけですかハルさんは。彼女の考えもどう思ってるかもどうでもいいと」

「どうでもいいと思ってたらこんなこと言いませんって……」


 雨宮さんは人差し指を顎の上に置き、目線を上げ思案する素振りを見せる。


「それってつまり、ハルさんのわがままですよね。私よりひどいんじゃないですか」


 するりと視線を俺に落とし、じとりと俺の顔を見た。


 ……は??


「わがままって……。僕は、白井さんのために身を引こうと」

「それがわがままなんです。ほのかは『そうしたい』って言ったんですか? ハルさんは自分勝手な『正解』を押し付けているだけじゃないですか? ほのかの気持ちなんてこれっぽっちも考えていないです。そもそも、どうしてほのかはハルさんと一緒にお笑いなんてやろうとしてたんです?」


 雨宮さんは冷ややかな目で見下すように言った。


「自分が傷つきたくないから、綺麗な理由をつけて逃げてるだけでしょう? 『君のため』なんて言葉で自分を正当化して棚に上げて。はあ……、なんで私がここまで言わなくちゃいけないのかな。ほんと、ほのかといいハルさんといい、どうしようもない二人ですね。二人とも素直じゃないんだから」


 まさか雨宮さんに言われると思ってはいなかった。

 が、その言葉は的を得ていた。

 痛いくらいにどの言葉も心に突き刺さる。

 俺がモヤモヤして言語化できなかった感情を形容してくれたみたいだった。


「……っ」

「私はどちらでもいいですけど。ほのかが私から離れなければ。……あと、ハルさんもリッカから離れなければ」


 そう言い残して、雨宮さんは髪を掻き上げると背筋を伸ばした綺麗な姿勢で歩いて行く。数歩進んで止まると、横目で俺を見た。


「喋る機会があるのなら、自分の気持ちは伝えた方がいいと思います。これ、ハルさんが言いましたからね」


 再び前を向くと今度は振り返らずに歩いて行った。

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