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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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58話 ばかやろーの見る夢

 大寺先輩からの提案に白井さんは目を丸くしたままで黙っていると、


「ほのか嬢がお笑い同好会に在籍していたころにちらりと出た話だ。ほのか嬢の耳にもはいっているはず。目的は優勝はもちろんだが、この学校推薦枠だろう? うちの人見がね、ほのか嬢と私が組むなら辞退すると言ってくれてるんだ」


 大寺先輩が人見先輩に視線を投げると、複雑そうな顔をして人見先輩は頷いた。


「ふ……。今すぐじゃなくても締め切りまでまだ一か月以上ある。この土日はゆっくり休んで考えておいてほしい。私なら、ほのか嬢の夢を共に歩んでいける」

「おええーっ!! さっきからほのか嬢ってマジ気持ちわりい! 今、全女子が一斉に吐いてる。大寺ウイルス蒔くんじゃねえよ!」


 女子さんは白井さんを庇うように立ち、わざとらしく目の前でえづく素振りをする。めちゃくちゃ煽ってる。


「……《《うちのほのか》》は、てめえと組むくらいなら退学するって言ってんぜ? セ・ン・パ・イ?」

「ふん。勢いだけの4位のやつが」


 女子さんの下から突き上げるような睨みに耐えかねたのか、大寺先輩は俺に視線を移す。

 俺もまた無言で睨んでいたので、やれやれと両手をあげた大寺先輩は、人見先輩からトロフィーを奪うように受け取ると狭い舞台袖の部屋を出ていく。

 扉を開けたらファンなのか、男子たちの声が響きゆっくりと遠ざかって行った。


 女子さんとファナさんが白井さんを送るからと言われ、俺は白井さんがすんなり帰れるようにヘイトを集めてるべく先陣を切った。

 俺が出たところで、みんなの興味は渦中の白井さんなのかもしれないけどそれは杞憂で、逃げるように体育館を走り去る俺の姿は、意外とみんなの気を引けた。



◇ ◇ ◇



 心がズシンと重くなって動けなくなったのはお風呂に入ってからだった。

 そこでようやく、決勝のあの場ではアドレナリンが分泌されていて、ハイテンションな行為に走っていたことに気づく。今まで感じたことのない疲労感だ。

 数十秒お湯の中に潜水し、息も絶え絶えになりつつ思い返す。


「ぶはっ、はあ、はあ……。だって、あのまま終われるわけないだろ」


 ぶくぶくぶくと、ホラー映画よろしく再びゆっくりと頭までお湯の中に入る。


「……ぶはあ!」


 しかしスベったな。はは……マジでスベった。

 けど最後、一人だけ前の男子がどんな形であれ笑った。

 もう少し時間があればもしかしたら……。


「違う。俺の反省会なんかじゃなく」


 白井さんのことを考えなくちゃ。

 意気込んでお風呂から上がり、寝る準備を済ませベッドに転がる。

 

「……」


 白井さんとのチャット画面を開いて何も打てずに時間だけが過ぎていく。

 なんて声を掛ければいい?


「わからん……」


 きっと白井さんは今も落ち込んでるはずだ。

 決勝戦のこと、大寺先輩の誘いのこと俺以上に混乱しているかもしれない。

 テンションの浮き沈みが激しい白井さんだが、目まぐるしく表情が変わるのは白井さんの個性であって、必ず最後は笑顔で終わる。

 相手まで笑顔にする白井さんの明るくて、子供っぽくて、人懐っこい表情につられないやつなんていない。


 けどそれは虚勢だったって、雨宮さんとの会話で感じてはいた。

 白井さんは自己犠牲を厭わないんだ。優しくて、誰に対しても公平で、笑顔を絶やさない。


 けどそれは勘違いだったって、白井さんを見ればわかっただろ。

 白井さんは誰よりも傷つきやすいんだ。人一倍空気に敏感で、人の顔色を見て、笑顔を絶やさない。


 大寺先輩が言っていた。

 優勝者には全国高校生お笑いナンバーワンに学校の推薦枠として出場できると。


 ネットで検索してみるとすぐに出てきた。過去何回も開催されている高校生限定の全国大会だ。番面白い高校生を決める大会。

 こんな大会があるなんてまったく知らなかった。


 去年、喫茶店でいちごホイップをかき混ぜながら白井さんは言っていた。


 『うちが今目指してるのは、東高校一面白い高校生になって、その勢いのまま全国一面白い高校生になること! なんです!』


 白井さんは既に大寺先輩の言う推薦枠について、お笑い同好会に入っていたときに知っていたのかもしれない。


「お笑い芸人が夢だもんなあ、白井さん」


 カチカチカチ、とクリックする音と一緒に飛び込んでくる華やかな写真。

 予選会の光景、夏の決勝、優勝者のインタビュー。


「……」


 カチカチカチ。


 内省は尽きない。自問自答なんてしてもループし続けるだけ。

 それはなぜかを考える。

 土曜日も、日曜日もフルに使って考えた。


 俺の出した答えは――



◇ ◇ ◇



 月曜日。

 クラスではもう俺のことは古い話題のようで見向きもされなかった。

 一気に熱が冷めて元に戻った感じ。

 ただ前と違うのは、清水との距離がなんとなく広がってしまったこと。

 目を合わせて挨拶もするし、一言二言会話もするけど長続きしなかった。


 放課後になると迷わずわらおー会へと向かう。

 教室内は静かで、三人は思い思いの時間を過ごしていた。


「梶くん!」


 俺に気づいた白井さんは、パッと花が咲いたような笑顔で元気よく俺の名前を呼ぶ。女子さんも横目で、ファナさんもスマホから顔を上げてにこりと微笑んだ。


「梶くん、心配かけちゃってごめん! うち、もう大丈夫やから! セリフが飛ぶってあんな感じなんやなあ、他の言葉もぜんぜん出てこなくて。せっかく練習したのに残念やったけど、梶くんが一人で喋ってくれたのはほんまに凄かったし、嬉しかった!」

「面白くもなんともなかったけどな」

「こ、こーちゃんったら!」

「でも気合いと度胸は認めてやるよ。1ミリだけな」

「……うん。先輩、かっこよかったですっ」


 俺の喋りの内容はともかくとして、そう言ってもらえると救われた気分になる。


「これからわらおー会どうしていこっかって喋ってたんよ。大きなイベントも終わったし、活動も週に2回とかにしようかなあとか。それか、何かイベント企画してチャレンジしようかなとか」


 見た目はいつもの白井さんだった。身振りが大きいので、喋るたびにふわふわと肩まで伸びた焦げ茶色の髪が跳ねる。にこやかな表情。決勝戦のときの白井さんとは別人のように晴れやかだ。


「白井さん」

「うん? 梶くん、いいアイデアある?」

「全国高校生お笑いナンバーワンに出るのが白井さんの夢の一つ、ですよね?」

「……うん、まあそうやけど……。あはは、どしたん急に」


 俺のこの言葉に明らかに白井さんの表情が変わった。女子さんもファナさんも触れてはいけない話題に触れてしまった俺に対して険しい顔をする。


「またとないチャンスです。お笑い芸人の夢にだって近づきます。大寺先輩と組んで出るべきです、白井さん」


 大寺先輩と組めば、全国大会、正確にはその地区予選に出場できるのだ。またとないチャンスだ。人見先輩もそれなら降りるって言っているみたいだし、それで白井さんの夢が叶うなら俺だって……。


「なに言うてんの……?」


 俺には大寺先輩のようなセンスもアドリブ力も実力もない。決勝戦では、俺なりにやりきったつもりだけど、結果はスベっての時間切れ。これが物語っている。目も当てられない。


「お笑い同好会の会長とわらおー会の会長がコンビを組んで出場するんですよ! ぜったいおもしろいですし、優勝だって狙えますって!」


 これが俺が出した答え、というか白井さんのためを思って考えた結果だ。

 せっかく学校の推薦という後押しがあって、全国を舞台にした地区大会に出場できる機会は逃しちゃいけない。白井さんの夢がお笑い芸人であるならなおさらだ。


「梶くんはどうするの?」


 白井さんはいつの間にか俺に歩み寄っていて俺を見上げていた。


「僕は人見先輩と同じく降ります! 大寺先輩には誘われてもいませんから。大寺先輩はきっと白井さんとコンビで漫才とかコントをやりたいんですよ!」


 絶対その方がいい。

 わらおー会は白井さんの全国大会の応援のため、全力でフォローするんだ。


「……」


 白井さんは少し強張った顔でじっと俺を見つめていたが、力が抜けたように顔の緊張を解いた。


「梶くんはそれでいいん?」

「はい……、それが白井さんの夢のためですから! 僕なんかより大寺先輩と組んだ方が絶対にいいと思います」

「…………なんや、それ……」


 喜ぶと思ってた。

 だって、夢見てた全国の舞台に立てるのだから。

 でも、白井さんの顔は俺が想像していた顔と違った。

 子供っぽく嬉しそうに、大きな口を開けて喜ぶはずだ。

 それなのに、白井さんの顔からは笑みが消えていた。

 大きくて少しつり上がった瞳は瞬きもせずに、俺から目を逸らさない。


「白井さん……?」


 気のせいじゃない。白井さんの目は真っ赤になっていって、うるうると瞳の中が揺れ出した。小さな口がきゅっと結ばれると息を止めたときみたいに顔が赤くなっていく。


「……ばか……っ」


 白井さんは小さく言葉を吐き出すと、教室から走り去っていった。


「し、白井さん! ――いっだぁ!!」


 戸惑う俺の太ももに衝撃が走る。

 女子さんの右ミドルキックが太ももに直撃していた。


「バカかお前!」

「先輩の馬鹿!」

「バ梶!」

「です! 馬鹿じ先輩ですっ!」


 女子さんとファナさんは怒っていた。

 馬鹿バカと連呼され俺の頭は余計にこんがらがってくる。

 

「何か変なこと言いましたか、俺……。白井さんにとってメリットしかない話だと思うんですけど……」


 そう返答するとは、女子さんとファナさんは息を揃えて同じくらいの盛大なため息を吐いた。


「ダメだコイツ。ほっとこうぜ。言ったってわかんねえよ!」

「だね……。先輩、ちゃんと考えて自分で気づいて下さいね!」


 そう言い残し、二人は白井さんを追うように白井さんの私物を抱えて出て行った。

 取り残される俺。


「だって、白井さんは大会に出たいはずだろ……?」


 この考えが二人がいうバカなことなのか……?

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