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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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57話 運命の決勝戦③ 【ネタ回】スベリの矜持

「――僕は伝説の男になりたい!!」


 スタンドマイクに近すぎたのか想像の倍くらい大きな声になった。

 白井さんはネタが飛んでしまっている。

 俺の方を向いているが視点がフラフラしていて、自分自身に起きている状態に理解が追いついてないように見える。

 今の状態の白井さんに、ネタを振ったりだとかアドリブを求めてはいけない。

 

 今はこの舞台をネタ無しで退場することではなく、ネタをやり切るんだ。

 アーヴァンチュールとして、舞台を終わらせることが何よりも優先だ!

 どんなネタでも、誰かを笑わせられたらそれはきっとネタになる!


 俺の顔は赤い絵の具でも塗ったみたいに真っ赤だろう。

 自分の発熱で火傷しそうなくらい顔が熱い。

 だがそんなことはどうだっていい。

 俺が、みんなを笑わせてやるんだ!

 熱いのは恥ずかしいからじゃない。なにくその闘志で熱いんだ。


 燃えろ、燃えろ、考えるな俺の恥なんて燃やし尽くせ!

  

「皆さん、僕の伝説と勝負しましょう。これから僕は『僕の伝説』を繰り出しますので、皆さんは僕に耐えて、このまま僕をスベらせてください」


 台本なんてない存在しないから、俺の視界には体育館に集まる生徒たちの顔がはっきりと見える。


「最後まで僕がスベったら皆さんの勝ち。僕は伝説になんてなれないただの三下、モブ、NPC、BOTとして生きます。でも、一人でも反応したら僕の勝ち。僕を伝説の男・梶として認知してください」


 俺はスタンドマイクを持ち上げ一緒に前に一歩移動する。

 背中に白井さんを隠すように。


「僕の伝説! 名前を覚えてくれない! 僕の名前、梶って言うんですけど覚えやすいですよね? ところが誰かが僕の名前を呼ぼうとしたとき、梶……、梶……ええとって言うんです。梶《《なんたら》》だと思われちゃってるんですよね。梶です。って答えると、ああ梶ですさん! とか言われちゃって。ありえます? 言うに言い返せず、梶ですですって返事しました。はい、ずんどこずんどこ!」


 今なんかワードが勝手に出てきた。


 はい、ずんどこずんどこ、だと……?

 なんだそれは……。

 

 咄嗟に出てきたワードが無変換で出力され戦慄する。

 寒気で鳥肌が立つくらい会場がしらけている。

 しかし俺の体はどんどん熱くなる一方だ。

 視界の端っこで金髪ツインテールの女の子がぴょんぴょん跳ねていた。


 昂り、逸る気持ちが少し落ち着く。

 ……ありがとう、ファナさん。力を借ります。


「おもしろかったら笑ってください?」


 しん―― 


 汗が滝のように全身から流れているが気にするな、さあ次いこう!


「僕の伝説! 気づかれない! 僕、席の一番後ろにいると欠席扱いになる特殊能力を持っているんです。『これ、授業中黙ってトイレに行けるな』って気づいて、早速実行しようと少し腰を浮かすと、クラス全員が振り向いて目が合いました! トイレに行く僕だけを検知する高性能赤外線センサーでもついてるんですか? その高感度を常にください」


 白井さんが『間』の話をしていたときを思い出す。 走り切るのもいいけど、途中足を止めて周りが追い付くのを待ってあげるのもいいと。

 なので2秒ほど待ってみる。


「僕のことビンビンに感知してください」


 どよどよ……。


 数秒黙っていると、どこかのグルーブが僅かにどよめきだす。

 今の言葉はまずかったのかもしれない。良い感触ではなさそうな気配がする。

 俺は飛び出しそうになる心臓を飲み込んで……。

 いや、もはやこいつをエンジンにして、


「はい、ずんどこずんどこ!」


 はい、ずんどずんどこ! の部分だけは、マイクに口を近づけて出来るだけイケボをイメージする。

 低くてダンディな声優をイメージして。


 バン!


 床を踏みつける音がして舞台袖を横目で見ると、熱い眼差しを送る女子さんが「会場ごとぶん殴れ!」と言わんばかりの右フックを何度も繰り返していた。


 ……ありがとう、女子さん!

 両脚はガクガクと震えているが問題ない。さあ次だ!


 俺の考えは、くだらなさの繰り返しで笑わせることだった。この居るだけで凍り付くような重く絶対零度的な空気はそっとやそっとじゃ簡単に打ち砕けないと思う。俺の技術ならなおさら。

 だったら、ひたすらくだらないこと言い続けて、バカバカしさで声を出させてみようと考えた。


 大喜利大会であんな姿を晒した俺が今こんなことをしているなんて。

 俺はそのギャップ差に、自分自身で笑ってしまっている。

 だから俺は笑顔で喋り続けられた。

 自分で言っていて、勝手に笑いが込み上げてくるんだ。


 この状況は不本意で望んだことじゃないけれど、これが俺と白井さん、アーヴァンチュールだってことを見せつけてやりたい。

 白井さんが明るく、突き抜けた白さで笑いを生み出す太陽なら、俺は白井さんをより際立たせるための影だ。

 ただの影じゃない。俺が持つ武器だってある。

 いい加減自覚しよう。


 俺は、スベることに耐性を持っているんだ!!


「僕の伝説! 僕はこの舞台に立ってから、何なら生まれ落ちてからこのかた、ずっと、ずっと……ずーーっとスベってます!! 誰一人笑ってくれないけど、僕はスベることに慣れてます!! 全てをスベりし者といってもいいでしょう。スベリンピック東高代表です」


 ちょっと間を置く。マイクに口そっと近づけて、


「はい、ずんどこずんどこ」

「……ぶっ!」


 俺の意味の分からない謎のテンションと繰り返しが、最前列の男子に直撃した。

 それは、呆れ混じりの失笑。


 ――反応した! は、失笑? 十分すぎるだろ!

 ならそれは……、俺の勝ちだ!


 このままいく!


 きっと伝播して、誰かの笑いが飛んで広がって、流れを変えてくれる!


「僕の伝説――」


 ブーーーーッ!


 無慈悲な電子音が、俺の言葉を寸断した。


「――っ!」


 俺は手を空中に浮かせたまま硬直する。

 非常ベルのようなけたたましいブザー音。

 それは――終了の合図だった。


「――はい。ありがとうございました! アーヴァンチュールでした! いやあ、まさかの漫才ネタじゃなくて意表を突くピンネタでしたね! しかし、残念ながら時間切れとなってしまいました」


 司会者が登場し、何やら審査員に話しかけどうだったか聞いている。

 教頭先生が、生徒会長が何かを喋っている。


 しまった……。


 俺は天井を見上げ両手で目を覆った。

 5分。そうか、5分経ってしまった。

 アドリブで喋りすぎた。自己紹介と、状況説明と、自虐ネタ三連発。

 これだけで、持ち時間をすべて使い果たしてしまったんだ。


 呆気にとられているままの表情だった白井さんは、俺に見られていることに気づくと、気まずそうに顔をそむけた。


 ……これで、よかったんだろうか。

 正解なんてわからない。

 けれど、俺たちは最後まで舞台に立っていた。逃げなかった。

 この事実は間違っていないと信じたい。


 白井さん、俺の実力はこの程度でした。

 時間もろくにコントロールできなかった、ダメダメな奴です。

 白井さんが困っている状況で、助けるどころか巻き込んでしまったかもしれません。


 けど、僕はやり切りました。

 ダメ出し、待ってますね……?


「……ありがとうございました!」


 俺は深々と観客に向かって頭を下げた。



 こうして、白井さんと俺の決勝戦が終わった。


 力を出し尽くした。

 例えやりたかったネタじゃなかったとしても。

 最後まで逃げずに――戦った。


 持ち時間オーバーの強制終了。

 5組中、アーヴァンチュールだけが時間いっぱいつかっても終わらなかった。

 もちろんこの事実は採点にも影響する。

 審査員の面々はそれぞれ困った顔をしながら点数を出し合う。

 10点満点中、5を出す審査員がいた時点で結果は察することができた。


 この結果をもって、第一回東高等学校お笑い王座決定戦『E-1』の優勝者が決定する。


「優勝は――お笑い同好会、大寺人見!!」


 ワーーッ!!


 ステージ中央に立つ大寺先輩と人見先輩にトロフィーが贈呈される。

 拍手と歓声。二人再登場とインタビューでは、会場の盛り上がりは体育館の天井も突き抜けていきそうだ。


 女子さんは4位。

 そしてアーヴァンチュールは……5位。

 最下位だった。


「……」


 白井さんは終始うな垂れたまま、女子さんやファナさんの声掛けにも曖昧な相槌を打つだけで心ここにあらずの様子だった。




「白井さん……」

「あ、あはは……ほんまごめん。梶くん……。うち、なんもできひんかった。こんなん初めてで、頭の中から言葉が消えたみたいで……」


 舞台袖で出番が終わった他の組は退室し、わらおー会だけが残っていた。


「梶くん。理羽りうちゃんのことは悪く思わんといてね。うちの力不足なだけやから……」


 雨宮さんがあんな写真をばら撒かなければ。

 それは大前提としてある。だが、あの場で、白井さんは雨宮さんを許したんだ。

 だから俺は思うことはあるけど、それ以上追及なんてしない。


 ステージでは大寺先輩と人見先輩のインタビューが終わり、手を振りながら退場しようとしている。


「ナイトメアが踏ん張っただろ? やりきったんだ、切り替えて次いこうぜほのか! ファナん家で反省会兼ねて騒ぐぞ!」

「……う、うん」


 女子さんは白井さんの横に立って肩を組みながら励ましている。


「わらおー会の諸君」


 壇上から降りてくる大寺先輩に声を掛けられた。

 人見先輩に持っていたトロフィーを渡し、迷いなく俺たちの方に向かってきた。

 にこにこと上機嫌な笑みを作っている文字通り仮面のような笑顔だった。


「はァ? お前うぜぇんだよ。近づいてくんな!」


 女子さんが舌打ちするも臆せずに、歩みを進めぴたりと白井さんの前に立つ。


「E-1優勝者に贈られる、全国高校生お笑いナンバーワンへの学校推薦枠」


 人差し指を立て、大寺先輩は言った。


「これはサプライズの副賞として主催側しか知らない報酬だ」


 何を、言っているんだこの人は……?


「ほのか嬢。私とコンビを組んで共に全国大会に出場しないか」


 いったい何を言ってるんだこいつは!?

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