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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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55話 運命の決勝戦① 一触即発

 ――決勝戦当日。


 前日は学校もギリギリまで、帰ってからも寝る前まで白井さんとネタ合わせを行った。新しく組み替えたネタは頭に入った。完璧だ。前より仕上がっているし、もっと面白い内容になっている。 


 17時開演まで時間はある。決勝組は16時半までに体育館の舞台袖、予選のときにぎゅうぎゅう詰めだったあの部屋に集合することになっている。

 放課後にわらおー会で最終の確認をして、本番となる体育館に向かおうとのことになった。女子さんは気合を入れるためにグラウンドを周回中だ。


 雨宮さんが登校した写真やコメントはあの日の夜に削除されていた。

 それがどれだけ追い風になるかは分からないが、ネタも上手く改良できてまとまったし、いい方向に風が流れてきている。


「行こっか。梶くん!」

「……はい!」


 最後のネタ合わせを終える。お互いに見合った後、パチンと手のひらを合わせた。

 二人で並んで体育館に向かう。

 その後ろにファナさんがしっかりとついてくる。

 途中、周りから何か言われたような気もするが、入って来る情報はシャットアウトするように努め、呪文のように決勝決勝と呟きながら前を進める。


「よお」


 途中でアップを終えた女子さんと合流する。

 わらおー会全員集合だ。

 4人が歩く道の人の塊は自然と別れ、体育館まで一直線に繋がっている。


「どけどけ、わらおー会のお通りだ!!」


 女子さんは本当にソレっぽい風に威嚇しながらがに股で歩いて行く。

 その後に続く白井さんとファナさんと俺。

 まるで最終決戦に向かうパーティのようだ。不思議と嫌な感じはしなかった。


「白井さん……?」


 俺の歩幅一つ分遅れ、後ろを歩く白井さんに声を掛ける。


「あはは、なんだか緊張してきたーっ」


 そう言ってはにかむと、ぎこちなく八重歯を見せて白井さんは笑った。



◇ ◇ ◇



「全東高のお笑いファンの皆さま! 大変長らくお待たせいたしました!」


 体育館舞台袖。

 司会の生徒はステージでマイクを握り大きな身振りと共に決勝戦開幕の挨拶をしている。


「決勝に進んだのはこの――」


 舞台袖の室内にいるのは5組。

 順番は予選の5位から始まるようで、この並びは予選と一緒だった。

 女子さんが先陣を切って、俺たちは最後。大寺先輩たちの後にネタを披露する。


「決勝戦は審査員による各10点を満点とした――」

 

 司会者による詳細な説明が続いている。


「それでは決勝に進んだ5組を順にご紹介しましょう! ファンの方はぜひ、拍手と歓声で盛り上がってください! 先ずは5位! ココナッツ!」


 司会者は体育館に集まった生徒達を焚きつけるように順番に出場者を紹介していく。名前が出るたびに拍手と歓声が起き、4位、3位の紹介になるにつれ大きくなる。


「予選投票、第2位! 大寺人見!」


 一際大きな男子の声援が、地響きのように鳴る。

 つい、大寺先輩の方を見てしまう。


「……」


 大寺先輩は見下ろすような視線で、俺に対してあざ笑っているようだった。


「そして――予選投票堂々の第1位! アーヴァンチュール!!」


 威勢よく紹介された俺たちだったが、それまでの歓声が嘘のようにぴたりと止み、誰かの心ないヤジが飛んだ。そのヤジは次のヤジを生み連鎖してく。

 反対する他の声援もあったが、押し負かされ黙ると会場の空気が一転した。


「さ、さあ! 早速参りましょうか! 持ち時間は予選と同じく5分! 優勝という栄光を勝ち取るのはどの組だ!!」


 俺は思い知った。

 一度拡散し広がった炎は、本人が削除したとしても消えるわけではないと。どこかの燃えない壁にぶつかるまで色んなところに飛び火して、噂はもうどれが噂かもわからなくなってしまう。


「気にすんな」


 女子さんは白井さんの肩に手を置いて低い声で話しかけていたが、


「あはは、平気平気。それよりこーちゃん一番なんやから! 気合いれてな!」


 と、笑って見せる姿は強がっているように見えてしまった。


「相方の問題にも我関せずで今もだんまり。よくもまあ、相方だと名乗れたものだな」


 鼻で笑う大寺先輩の声が聞こえる。

 俺のことを言っているのは明白だった。込み上げるものがあったが、何も言い返せない。事実だと思ってしまった。


「あァ? んだコラ!」


 舌打ちした女子さんが大寺先輩に詰め寄ろうとすると、司会者から「ココナッツ!」と呼び出される。


 決勝が始まった――


「呼ばれてるが? また弄ってくれてもいいぞ。美味しく返させてもらうからな」

「……ちっ」


「すみません、改めて参りましょう! ココナッツです!!」


 司会者は、俺たちのほうに目配せしながら「来い来い」と片手でジェスチャーを繰り返している。


「言われなくてもやってやるよ! 吠え面かくなよ、センパイ」


 女子さんはバシッと自分の頬を両手で叩くと、首を何度か降って俺の方を一瞥してからステージに向かって行った。

 女子さんが煮えたぎった熱が俺の腹の底に溜まる。


「白井さん、どんな風に見られても大丈夫です。僕らはおもしろい。僕らのネタで、きっと審査員も生徒たちも気づいてくれます」

「……うん」

「はっはっは。そんな安い言葉でほのか嬢を励ましてるつもりか」


 わざとらしく笑う大寺先輩。

 

 なんなんだよ、この人は……。


 大寺先輩の悪意しか感じられない言葉に惑わされてしまい、女子さんのネタも、清水のネタも……頭に入ってこなかった。

 生徒たちのリアクションも、審査員の点数もどうだったのかも聞こえないし見えない。傷口を突くような大寺先輩の言葉はねちねちと続き、俺もつい触発されて睨み返してしまっているのか集中しきれてない。


 まずい、このままじゃ……。

 今は予選第三位の組がネタを披露している。


「ほのか嬢。見ていてください。我々の本気の漫才を披露しますよ」


 大寺先輩は俺の目の前で視界を遮るようにして白井さんに話しかけていた。


「あはは……。勉強させてもらいます……」

「そしてしっかり判断してください。この先、あなたの隣に立つのは木偶の坊の相方ではなく、真にお笑いを愛している私なのだと。彼はきっと決勝のあと去りますよ。あなたの夢にはついてこない。私はいつでも声が掛かるのを待っていますよ。私の夢も、ほのか嬢と同じ。笑いの未来を目指していますから」

「……ご、ごめんなさい。うち、今集中してて、よく、聞こえなくて……」


 気まずそうに反応する白井さんに大寺先輩は微笑みながら、ギロリと冷たい視線で何も反応できないでいる俺を見る。


「お前が悪だな。梶悠翔。お前が、彼女の明るい未来を閉ざした」


 なんで大寺先輩にそんなことを言われなくちゃならない?

 

 そう思ったら、俺の腹の中に溜まっていた女子さんの残り火が、「黙ってんじゃねえぞ」と、勢いよく火花を散らして燃え上がった。


「そもそも誰なんだよお前は……」

「うん?」


 自分でも何を発言したのか一瞬理解できなかった。


「女子が入ってきて色めき立ってるだけの勘違い野郎が、俺の視界を遮ってんじゃねえよ。ああそうか、自分たちのネタに自信がないから、こういうことしかできないのかあ。そういえば、あるカードゲーマーがこう言ってたな、ザコほどよく喚くって」

「なんだと……?」


 いや、うん……、俺も何を言っているのかわからない。

 ただ言葉が止まらない。

 ほんとに俺が言っているのかこれ。

 まるで誰かに操られているように出てくる。


「残すところはあと2組! 参りましょう! 男子生徒人気ナンバーワン! お笑い同好会会長率いる本格派漫才コンビ! 大寺人見です!!」


 ワッ! と会場が波打つように揺れる。


「女子人気が欲しい奴ほど男子しか人気ない説」

「き、さま……」

「呼んでますよ? 自分たちのネタで笑わせられる自信がないなら、弄ってくれていいですよ? 美味しく返させてもらいますので」

「ぐ、ぬ……!」

「大寺、いちいち構うな。行くぞ!」


 歯ぎしりするような表情の大寺先輩は、相方の人見先輩に引っ張られるようにステージに向かう。マイクの前に立つと二人は割り切ったかのような別人の顔になって喋り出す。


 何かに憑りつかれていたかのような気分だった俺は、ぶはっと大きく息を吐くと理性を取り戻していく。俺あるまじき言動だった。

 信じられないけど……、本心を遠慮なく吐き出した感じだった。

 スッキリはした。ただ後味はよくなかった。


「す、すいません。僕、ついカッとなっちゃって……」

「なんだかファナちとこーちゃんが合体したみたいやった。へへ……、梶くんの新しい一面を見た……。ありがとね」


 ただ、結局何がしたかったのかと言われると言葉に詰まる。

 俺が黙ると白井さんも思いつめたような顔のまま黙り、ただ、大寺先輩たちのネタが終わるまで白井さんと会話はなかった。


「大寺人見でした! さあ、いよいよ最後の組の登場です! 生徒人気第一位! おもしろさは東高生徒のお墨付き! アーバンチュール!!」


 そして、その名を呼ばれる。

 大寺先輩たちが巻き起こした笑いと熱気は風に吹き飛ばされたように消える。

 歓声はなくなり、ただ、静まり返った。


 悪ノリした生徒たちがブーイングなんてしている。

 その意味をわかっていてやっているのか?

 いくらやる気でも、燃えていても、歓迎されてない雰囲気にあてられていると否応がなく気分が落ち込んでくる。

 ここまでしてやる意味は? なんて他人のような自分が見下ろしてくる。


「梶くん」

「はい」

「……ごめんね」


 白井さんの言葉は、今にも消え入りそうなほど小さかった。

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