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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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50話 隣に立つ「意志」

「かわったこと? どしたん急に」


 次の日になっても、特にこれといったことはなかった。

 土日もいつも通りの日常を過ごしていて、配信にはリッカさんも来てくれていた。

 「炎上」コメントの意味を聞きたかったが、削除されたコメントを追求する勇気も、リッカさんからもその話題が出ることもなかった。

 ただ、モヤモヤとしたままプレイを続けていた。


 いよいよ耐えられなくなった俺は、週明けのわらおー会で、白井さんに遠回しに質問してみたのだ。


「いや! 知名度が上がって人気じゃないですか白井さん。変なやつに何か言われてたりしないかなあって……」

「梶くん……。うちのこと心配してくれてるん?」


 白井さんの無垢な瞳に撃ち抜かれそうになるのを寸前のところで堪えている。


 思いついた理由でごまかすが実際にそうだった。

 学校のあちこちでE-1のことが話題に上がっており、とりわけ決勝に出場する5組には固定のファンができるなど、今までにない東高の雰囲気になっている。

 

 先輩と組んだ清水も決勝に駒を進めた。

 俺たちはクラスの中でもてはやされるのではと予行練習をしていたのだが、俺らのクラスはいたって平穏で、空気だったレベルが認知程度にあがったくらいだった。

 まあそれでも十分な成果だし、何より挨拶されるようになったんだ。

 白井さんたちと比較してはいけない。


「へんな梶くん。まあいいや! 最初から通してやってみよ! ファナち~時間計ってくれる?」

「うん……!」


 女子さんはわらおー会にはいないが学校には来ている。あの後も大事はなかったようで本当によかった。

 ただ、女子さんの体調面については、表立って心配するようなことは言わないように気をつけつつも、頭の中にいれておかなくてはいけないだろう。


「先輩っ! ぼーっとしてたらターンエンドになっちゃいますよ! ほらほら計りますから準備してください!」

「あ、はい!」


 俺があんな大舞台を目撃したからかもしれないけど、ファナさんはあれから雰囲気が垢ぬけたように見える。

 白井さんが言うには、俺にだけはハッキリ喋るようになったが、クラスでは引っ込み思案のおどおどキャラで変わりないらしい。


「いい? 梶くん」

「オッケーです……!」


 白井さんの横に並び目を見て頷く。


「どーもー! アーヴァンチュールです!」



◇ ◇ ◇



 決勝のネタは完全に頭の中に入った。

 テンポよく、白井さんのボケに対してツッコミができていると思う。


「かんぺき!」


 両手で親指を立てて、いいね! を連発してくれると本当に嬉しい。

 そこに笑顔がプラスされると自信がみなぎってくる。


「あとは……『間』、かなぁ?」

「間、ですか……?」

「見てくれる人たちが、うちらに追い付くための時間を作る。これが次の課題かも!」


 近くの机に置いてあったペットボトルを一口、二口と飲み、椅子にちょこんと座る白井さん。その隣でファナさんは静かに俺たちを見守っている。


「うーん、でもこれは梶くんの良さをころしてまうよなあ」


 顎に手をやって上半身を左右に揺らしながら唸る。


「間がしんとしてたら次の台詞が吹っ飛んでしまいそうです……」

「そこなんよね、わかる。その時はサッと次に行ければいいんやけど、もしさ、向こうが笑ってたら収まるまで待つってのもアリだと思うんよ」


 間、か……。

 ボケとかツッコミで笑いが起きたとき、うんうんと頷いたり、お客と一緒になって笑ったりして、次の展開に行く前に一拍置いているお笑い芸人を思い出す。

 よくよく考えてみると、相当難しい判断をその場でしている。

 場を仕切っているというのか、一体になっているからこそというのか、とにかく改めてその凄さに気づく。


「ごめん! 制限時間もあって、そんなん意識にするにはうちの経験も足りひんかった!」


 ぱん、と両手を合わせる白井さん。


「いやいや気にしないでください!」


 と言ったものの、「なるほど」と俺も腕を組んで一緒に唸った。

 俺の中に大きな宿題が生まれた感じがする。

 ちゃんと意識したことがなかっただけに、考え出すとその深さにも驚く。

 お笑いだけじゃない。どんな状況でも『間』を意識するのは大事なスキルだと思った。


「勉強になりました」

「あはは、そう言ってもらえるとアレやけど……。うちの悪い癖がでたかも。つい先のことを考えて……って、誤解せんといて? 今の状態でもほんまに凄いんよ!? それだけは言わせて!?」

「……」

「あの、梶くん?」


 返事をするのを忘れていた。


「すみません考え込んでました。『間』の一つで、ネタの重みも見方もまるで変わりません?」

「そう!! そうなんよっ!」


 くわっと目を見開いて立ち上がる白井さん。


「えっと、ついでやし……、もっと話つづける?」


 白井さんはお笑い談義を続けたくて仕方がない。

 途切れ途切れの言葉の端から、そうだろうなということは間で伝わった。



◇ ◇ ◇



 やっぱりあれは俺の見間違いか何かだったのだろう。

 変換ミスだったからすぐに削除されたのだ。

 リッカさんも白井さんもいつも通りで、言葉や態度に変化があるようには感じなかったし見えなかった。俺の思い過ごし。何よりだった。


 気合を入れ直して今日もわらおー会へ向かう。

 決勝戦まであと1週間に迫り、全神経を決勝戦に向けて集中しよう。


「あー、梶」


 廊下で追いかけてきた清水に呼び止められる。

 決勝が近づくにつれ口数も減っていき、俺たちの間にも今までにない緊張感が走っていた。


「行く前にさ、ちょっと付き合ってほしいんだけど」


 なんだか歯切れが悪い。視線を泳いでいて目を合わせようとしなかった。


「うん、いいよ、どこに?」

「……」

「清水?」

「あ、ああ! そんなに時間かからない、はずだから」

「はずって。それで、どこ行くんだよ」


 清水はばつが悪そうに頭を掻く。


「三年のとこ。大寺先輩が待ってる」


 何度もその名前を目にしたし、予選のときに一方的に告げられた「最重要監視対象者」とかいう謎の言葉は忘れられない。

 白井さんのことを「ほのか嬢」なんて呼んでもいた。横から見たネタの面白さも相まって良くも悪くもインパクトしか残っていない。


 清水に促されるように三年の教室が並ぶ三階に向かう。

 お笑い同好会会長の大寺先輩。

 俺のことを待ってる? 先輩からの呼び出し??

 嫌な予感しかしなかった。



 三階奥の教室は放課後、お笑い同好会の活動拠点となるようだった。

 廊下には予選で見たことのある顔ぶれが並んでいる。その列に清水も加わるとそれがお笑い同好会のメンバーだと気づく。


 な、なんだこの状況……?


 教室の中を覗くと一人、後ろで腕を組んで窓際に立つ男が一人。

 無言の圧力で中に押し込められるように入ると、ぴしゃりと扉が閉まった。

 後ろを向いたままの男、たぶん大寺先輩と二人きりになる。


「梶悠翔(はると)。予選一位通過おめでとう。素晴らしいネタで、ツッコミも冴えていた」


 低くて落ち着いた声は、その一言で俺を縮み上がらせるには十分だった。

 なんて答えたらいいのだろう。

 お礼? それはなんか偉そう。

 謙遜? それもそれで偉そう。


 迷いに迷った数秒間。俺は小さく「いいえ、そんな」と返すことにした。


「この先、何を見る? E-1はただの思い出作りか?」

「え……? そ、そんなことはないです!」

「では、この先もほのか嬢と共に歩んでいくのか?」


 この先……?


「決勝が終わった後の話だ。結果がどうであれ、思い出作りじゃないのならこの先も続くのだろう? コンビとして進んでいくんだろう?」


 外の景色の様子に首を動かしてはいるが、大寺先輩は一向に振り返る素振りは見せなかった。

 いきなり何を言っているんだ。この先とか、決勝が終わった後とか……。


「アーヴァンチュールは、決勝が終わったら解散するのか?」


 そう思った瞬間、目の前に大きな壁が現れた。行き止まりの道、袋小路。

 決勝後の話なんて、そんなこと、考えたことはなかった。


「……ふ」


 大寺先輩が鼻で笑う声に意識を引き戻される。


「白井ほのかには才能がある。興味本位だけで彼女の隣に立っているのなら、それは彼女の夢を遠ざけている行為と同じだ」


「お笑いを愛する人間としてこれはお願いでもある。どうか、彼女の才能の芽を『ただ』とか『なんとなく』の自己満足で潰さないでやってほしい」


「梶悠翔は、白井ほのかに相応しくない」


 いつの間にか振り向いていた先輩の言葉がどれも頭に残り過ぎて、俺はただ、立ち尽くして聞いているしかできなかった。


 大寺先輩の口が閉じる。言いたいことは言ったのだろうか。なら頭を下げ、さっさと立ち去ろう。

 そう思ったのだが、先輩の話の内容は置いておいて最後の一言。

 「相応しくない」が飲み込むのを体が拒否している。


「そうだとしても……。それを決めるのは先輩じゃありません」


 なぜだろう、誰かに対してここまでイライラするのは初めてだった。

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