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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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48話 少女の解放は「イジ」だった

「私がお題を?」

「おう。なんかくれ。それに対してボケたりおもしろいこと言うから、〇か✕かで判定してほしいんだ」

「……と言いますか、どうしてこんなことになってるんです?」


 復讐令嬢の漫画を閉じ、表情は変えないが困ったように返事をする。


「お前を笑わせるために決まってるだろ」

「またそれですか。笑えば元気になるって話。今は笑いたい気分じゃありません」

「そう。またその話だよ。いつだってオレはそんな話してるんだけどな。笑いたい気分じゃなかったらそういう気分にさせてやるからよ。一緒に遊ぼうぜ?」


 少女は困ったように細い息を吐くと、背もたれに体重を預けるようにして目をつぶった。


「男の人まで連れてきて……。なんで私なんかに構うんですか」

「わらおー会だからな! 誰かを笑わせるのがオレらの活動なんだよ」

「前に言ってたお笑いクラブですか」


 ゆっくりと目を開けると、女子さん、俺の順で表情を変えずに目線を合わせる。

 やっぱり眠そうな顔をしていた。顔は表情が動かないように力が入っているのだが目元だけは脱力している。


「……私はお題をだして、〇か✕かするだけ?」


 観念したように再び細い息を吐いて女子さんを見る。


「それだけ! 暇つぶしにもいいだろ。オレらのお笑いの訓練にもなるし、お前も楽しいし、一石二鳥だろ?」

「楽しいかはわからないですけど。……わかりました。なんでもいいんですか?」

「もちろん! こい!」


 少女はこほんと小さく咳払いして、腰を少し上げて座り直した。

 昨日と同じ立ち位置で、『元気にしたる大作戦その2』が開始する。


「ナイトメア、交互にボケるぞ。オレ、お前、オレ、お前で」


 女子さんは早口で耳打した。俺は頷いて返事する。

 「では」と一言置いて、少し思案したのち少女は口を開いた。



「この病院なんだか独特です。どんな病院ですか?」


 お、大喜利スタイルだ! しかもなんだか問題も本格的!


「病院のサブスク入らなきゃ診察されない!」

「あ、えっと、〇……です」


 女子さんが即座に答えると、少女はお腹のあたりで両手の指を合わせて〇を作る。

 次は俺か――病院、独特。診察……。


「病院に入るといらっしゃいませと言われます」

「✕で……」


 ダメだった。

 人差し指をクロスさせ、✕マークが作られる。


「だはは! そんな感じでやっていこうぜ、次来い次!」


 まだ始まったばかり。へこんじゃだめだ。

 ついさっきへこたれないと言ったのは俺じゃないか。


「病院がイベント始めました。どんなイベントですか?」


 次の問題が出される。ってまた病院!

 今までに女子さんと同じようなことやってて、経験値積んでたりする?


「口コミで☆5評価した人には、入院の事務手数料タダにする!」


 入院前に☆5にする人多そう。でもそれ、きっとやっちゃダメなやつ!


「……〇。できたら連泊するごとに割引もやってほしいです」

「イケメン医者ボーイズによる年越しカウントダウンライブ!」

「……✕、です。夜は寝たいので……」

「そりゃそうだ寝かせてやれ! おじいちゃんおばあちゃんだっているんだぞ!」

「で、ですよね。迷惑ですよね」


 幸先悪いスタートだったが、そんな感じで問題が続いていく。


「伸び悩む研修生に助言したい。なんて言いますか?」

「短時間で高収入の仕事なら紹介できるけどどう?」

「〇。気になります」

(――闇!)

「このメスで未来を切り開きましょう!」

「ちょっと怖いので……✕」

(うう、上手くいかない!)


 何問か続くが女子さんはどれもが「〇」で健闘し、俺はどれもが「✕」で成績が上がらない。ついさっきは答えきる前に食い気味で「✕」と言われたような気もした。


「あの、✕はやくないです……? あ、いやでもこれは✕ですよね、すいません」

「おい、スベッといてケチつけてんじゃねえ! ✕を粘るな!」

「……く」


 ――ん? 今?



「世紀の大発明。とてもすごい薬が完成しました。どんな薬ですか?」

「周りがザコになる」

「あ。ほしいので〇です」

(どういうこと! ステロイド的な?)

「飲めば明日に先延ばしで――」

「✕ですかね」


 ✕が出た瞬間、女子さんに背中を叩かれる。思わずむせた。


「お前、少しは〇の連勝増やせ! トータルで引き分けじゃねえか!」

「やっぱり✕判定はやいですよね!? 最後疑問形でしたよね?」

「そうですか……?」


 少女は口元に✕を作ったまま僅かに首を傾げる。

 胸元が震えているように見えた。


 寒いのかな? ああいやそういう意味じゃなく。

 自分で自分にツッコんでしまうが、気になることがあった。

 もしかして、この子……。 


「そうかわかった。お前のむっつり顔がもう✕なんだわ」

「じゃあ僕、答える必要ありませんね? 最初から失敗しちゃってます」


 そう言って俺は女子さんではなく少女の方を向いた。

 顔にはまだ✕がついたままだったが、彼女の胸がの震えがさっきより大きくなっていた。


 もしかして彼女は、いじるのが好きもしくは、いじられているのを見るのが好きなタイプかもしれない!


 だとするなら、女子さんの勢いで俺をいじってもらうのは相性がいい。

 俺が負うダメージは累積する一方だが、閃きを伝えるのが優先だ。そういう空気になってるし、今がチャンスだ。

 アイコンタクトを送るため目力を強くして女子さんの顔を見ると、それ以上の眼力で睨み返された。


「おっ! やる気かナイトメア! ✕ヤローが〇に勝てると思うなよ!」


 バシバシと背中と腕に女子さんのジャブが命中する。


「いたっいたいっ! そうじゃなくてですねっ!」


 「僕をいじってください」と女子さんに小声で伝える。


「あ?」


 届かなかったみたいだ。もう少し大きな声で言わないと。

 短く、それでいて女子さんに伝わるように鋭く尖らせなくては。


「もっと!」


 振り絞った伝言がこれだった。 


「こいつ本性出しやがった! お前の✕がクセになっちまってんぞ!」


 女子さんは少女を庇うように俺と向かい合わせになりファイティングポーズをとる。その横で✕印のまま動かない少女が顔を出す。

 眉間に皺が寄っていて、何かを堪えているような表情になっているのはもう間違いがない。ここでもう玉砕覚悟で行くしかない。


「君に✕られていたい」


 女子さんではなく見るべきはこの子。

 流れとか趣旨とかどういう路線に向かっているかは考えない。そのときのノリと勢いだ。

 そう、女子さんみたいに――

 少女に向かって手を差し出してみる。

 

「ぎゃあああ! きめえぇ! 首から下まで庭に埋めっぞこいつ!」


 女子さんは心底気持ち悪がりとうとう悲鳴を上げてしまった。


「――ぶっ、……くっ……!」


 少女の反応に女子さんと俺の動きが止まる。

 

「お、おぉ?」

「……っ」


 少女は冷静を装うように無表情を保とうとしてたが、✕が解け顔の下半分を手で押さえつけている。


 この子は俺をいじりたい。言い方が悪いし、自分で言っていて衝撃を受けるが、端的にまとめるとこうだろう。


「そんで誰か通るたび『むっつりです』て言わせんぞ!」

「――っ! くく……っ!」


 こ、これは……!


 普段は見せないが、そういう一面が彼女本来の姿なのかもしれない。

 俺への女子さんの態度を見て、「こいつはいじってもいいのかも」と本能レベルで理解しやすくなっているんだと思う。


 最初は本当に「✕」だったのかもしれないが、三回目あたりから俺に「✕」を付けて、回答よりも俺の反応を見て楽しんでた! 食い気味の「✕」も納得できる。


「ちなみにこいつ、初めての自己紹介のときにナイトメア梶ですって、真顔で言うんだぜ?」

「!!!!」

「あれはチャットじゃないですか! 確かに真顔で打ってはいましたけど」

「想像してみ? 内心ほくそえんでナイトメアですって打つこいつの顔」

「っ!!」


 少女の体がぴくぴくと震えている。ゾーンに入ったのかもしれない。

 ただ俺へのダメージは半端ない。後で思い返したら泣きたくなりそうだ。

 

 けどこれは、女子さんが最初に俺に植え付けたイメージがあってからこそだ。俺がああだこうだ言うより、女子さんの怒涛のいじりがこの子の心を開くかもしれない。


 非常に複雑な心境ではある。


「くっ、くくく……! くくくくっ!」


 女子さんは少女の様子を見て脱力したのか両肩をだらんと下げる。


「は、はは……。笑えんじゃん……!」


 少女が笑う。笑ってる、たぶん。

 女子さんも笑ってる。見たことのない優しい顔で。


 まさにいじり役にもってこいのくぐもった笑い声は、悪役令嬢そのものだった。


 悪役令嬢って、合ってるよね?

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