47話 君が笑うまでスベるのを止めない
次の日。
白井さんのアドバイスはこうだった。
元気にしたる大作戦その1。
――復讐令嬢モノの漫画が好きなら令嬢コントで笑かそう!
「言ったのかよ。まあいいけどさ……別に」
連続して休むために、白井さんとファナさんにはちゃんと伝えたかった。
事後報告になってしまったことを謝る。
続けさまに一緒に笑わせてやりましょうと意気込みを伝えると、不貞腐れながらも「じゃあやるぞ! ナイトメア!」と煽られる。
「んで復讐令嬢のコントって、どうすんだよ」
「白井さんが言うにはですね――」
事情を理解しきったわけではないが、この子を笑わせるという点では俺もそうしたいと思ったし、なにより女子さんの頼みだ。力になりたい。
「ショートコント! 復讐令嬢!」
昨日と同じ場所で、少女を目の前にして立ち女子さんが高らかに告げる。
「え……? あの……?」
少女が戸惑うのも仕方がない。だがしかし、舞台の幕が上がってしまった。
「復讐は復讐を生む。ならば最初から復讐などしない!」
「プロローグがエピローグ!」
女子さんが男勝りな令嬢になりきり、俺が第三者的にツッコむ立場になる。
俺はE-1のときのように目の前に台詞を思い浮かべることだけに集中する。
もちろん恥ずかしい。それにしても、ためらわず喋ることができるのは、俺が成長したからなのか、それとも感覚が麻痺してしまっているだけなのか。
「あの。なにしてるんです……?」
ごもっともだ。少女の口元がひくついている。
その反応を直視し続けていたら折れてしまいそうになるので見ないことにする。
「あーあ、誰か代わりに復讐してくんねえかな」
「復讐のアウトソーシング!」
「バンバン! ふっ……。煉獄で無限の後悔に苛まれろ」
「令嬢じゃなくて殺し屋の思考!」
「復讐し続けたらレベル9999になっていた件」
「なろう系でよく見るやつ!」
「……ふあ。復讐したら物語終わるから寄り道しよ」
「復讐するする詐欺の令嬢!」
バン! 終わりを告げるように女子さんは床を思い切り踏みつけ胸を張る。
「お、おもしろいですね」
少女は社交辞令的な台詞を口にするが一切笑っていなかった。
俺は地獄の業火に燃やし尽くされそうになる。
◇ ◇ ◇
「はあ。私を笑わせるためにですか……」
数分後。女子さんからスベッたお詫びに何か奢れという命を受け、俺はみんなに暖かいドリンクを振る舞っていた。
「別にいいですよ。そんな気を遣っていただかなくても。別に私、悲観しているわけじゃありませんよ。こういう体質なの慣れてますから」
少女はふーふーとコーンスープを冷まし続けている。猫舌らしい。
「ただどうでもいいって思ってるだけです。私は私に期待してません。そうすれば、何か起こってもほらね、だけで済みます」
「時間なので戻ります」と淡々と告げ、去って行く。
女子さんは飲み終えた紙コップをくしゃっと握り潰し盛大なため息をつく。
「ずっとあんな感じなんだ。いつものことだ気にするなってよ。こっちは心配してんだ。素直に受け取ればいいんだよ」
でもそれは、女子さんにも当てはまるのでは、なんて思ってしまった。
「でも、それを受け入れたら自分に向き合わなくちゃいけなくなる。それが嫌なのかもしれませんね」
思ったことを口にした。何か反応があると思ったら、女子さんは口を閉じたままでお互い無言の状態が続いた。
「笑わせようとしてるのは迷惑なのか?」
しばらく経って女子さんが口にしたのは弱気な言葉だった。
「ぶっちゃけると、結構前からあいつを笑わせようとしてるんだけど全敗してる。それでもあいつはオレに付き合って黙って話聞いてくれるから、別に嫌いじゃないのかなって思ってたけど……そうじゃないのかもな」
なんだか声に元気がない。顔を見ると血の気が引いているみたいに顔が白かった。
「だ、誰か呼びましょうか!?」
貧血? よくわからないがとにかく辛そうだった。
「あー、いいって! 少し休めば落ち着く。今日はもう帰れ。また明日な」
しっしと追い払われる。
このまま居続けても迷惑になるだけだし、病院だから大丈夫だろうと思うことにしその日はそのまま帰宅する。
夜、白井さんに報告するとすぐに電話で作戦会議二回目が始まった。
「梶くん、こーちゃんにはうちからも言っとく。ほんとは休みたいんやけど、梶くん誘った手前、引くに引けなくなっちゃったパターンかもしれん」
「そんな気がしてました。僕がタイミングが悪いときに声かけちゃって、無理させちゃってるんですね……」
「梶くんは悪ないよ! そこは誤解せんといて! 前にこーちゃんが言ってたんやけど、休み明けとかテストとかのイベントがあった後に一気に疲れが来て具合わるくなるときあるんやって。でもすぐ治るから気にするなって言われてたけど……」
俺はどうするべきなんだろう。
女子さんに体調が戻るまで中断しましょうと言うべきなのか。
――明日死ぬかもしれない子を笑わせにいくんだよ。
俺はあの子のことをを知らない。
そんな悠長なことを言っている時間があるのかすらも。
でも、女子さんを無理させてしまって、白井さんの言う通り倒れてしまったりしたらそれこそ本末転倒だ。
結局、なんて言うのかわからないまま明日になってしまう。
そして白井さんの予想通り、女子さんは体調不良で学校を休んだ。
グループチャットでは『夜更かしし過ぎただけ。寝るわ』とだけ残し既読もつかなくなる。
俺はどうするべきなんだろう――
「僕、病院に行ってきます」
「うちも行こっか?」
「ファナも……!」
「ありがとうございます。でも今回は女子さんに、あの子を笑わせろ! って言われてて、たぶん僕か、僕と女子さんで笑わせるってことだと思うんです。だから――」
「そっか。うん。わかった梶くん」
白井さんはにこりと八重歯を見せながら微笑む。
「がんばれ、梶くん! 梶くんはスベってからが本番やから!」
「ふふ! 先輩は自傷して強くなるパターンです……!」
力強い白井さんの言葉と、静かに頷くファナさんの視線に後押しされ俺は一人で病院に向かう。
笑わせることができなくても、話し相手になんて到底なれないかもしれないけど。
そんな俺の不安は白井さんとファナさんに今、預かってもらった。
「はい! って、前提条件が辛いです」
白井さんとファナさんの笑い声に後押しされ俺は病院に向かった。
「――よお、ナイトメア」
病院の入り口、休憩スペースに向かう手前で私服でキャップ姿の女子さんが手を上げた。
「来ないのかと思ったぜ」
「スベるのは慣れてますから。へこたれませんよ!」
ここで女子さんを心配する言葉は投げちゃいけないと思った。
女子さんはあの子を笑わせようとしてる。
俺はそれに力を尽くすだけだ。
元気にしたる大作戦その2。
――あの子からお題をもらおう!
「あの子も巻き込んじゃえ。お題をもらって判定してもらうんよ。笑わせようとするんじゃなくて、一緒に楽しんじゃえばいい!」
あの子も一緒に参加させてしまう。白井さんならではの案だった。
こんな発想ができるなんて白井さんは凄いとつくづく思う。
と同時に、こんな才能に溢れている白井さんの相方が俺で本当にいいのかとも。
「ほのからしいぜ。ったく、うちの会長サマは出来が違うわ」
肩をすくめる女子さんだったが、俺と同じ思いのようだった。
「オレらの爆発力次第ってことだな。はは、楽しそうなこと考えやがる」
キャップを180度回転させ、ツバに隠れていた女子さんの顔が現れる。
不敵な笑みを浮かべていたが顔色はやっぱり優れないようだ。無理して笑っている感じがどうしても否めない。
「僕はきっとスベりますので女子さん頼りです」
「やる前から負け宣言すんじゃねえ。気合入れろ!」
バンとお尻を叩かれた。これは本気で痛かった。




