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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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46話 梶くんと笑わない少女

 案内されて到着した場所は、一つ先の駅近くある総合病院だった。


「やっぱり体調悪いんじゃ……?」

「だからちげーよ」


 即答して歩き出す女子さんの背中から、「まあ悪いけど」と風に乗って小さな声が聞こえてきた。

 自分の声を遮るように、女子さんはスタスタと早足で進んでいく。

 明日にも死ぬかもしれない子……。

 サラっと言ったけど、そのときの女子さんの顔は真剣そのものだった。


 受付には向かわず、迂回するように院内のテラスのような場所へ。

 日当たりがよく明るくて、綺麗に配置された観葉植物やテーブルやソファが並んでいる。自動販売機もあり、休憩スペースになっているようだ。


「ほら。あいつ」


 視線だけで示された場所を見ると、窓際のソファに座って読書している少女がいた。入院しているのだろうか、パジャマみたいな服装でカーディガンを羽織っている。


「簡単に言うけど、病院でたまたま知り合った中学生でさ。まぁ……、とにかく難しい病気で入院してる。色々とつまんねえんだろうな、とにかく笑わねえんだ」


 そう言い終えると、ドンと背中を押されて先に歩くように促される。


「ナイトメア、なんでもいいからあの子を笑わせろ!」

「――えっ!」



 ――俺たちが少女に近づくと、気づいたのか読んでいた本を閉じる。

 少しだけ顎と視線を上げ俺たちを見た。


「こんにちは」


 表情を変えずに淡々とした口調で会釈する。


「おう! 今日も相変わらずどんより顔だな。でも昨日よりは元気そうじゃねーか」

「ちょ、ちょっと女子さん……」


 いきなり真に迫るような挨拶を繰り出す女子さんに思わず腰が引けてしまう。

 どかっと音が出るくらいの勢いで、女子さんは少女の隣に座る。

 両手をソファの背もたれの上に乗せ足を組む姿は相変わらず豪快だ。


「なんの漫画読んでんの?」

「……追放された令嬢が王子様と恋する話です。令嬢を庇った王子様が死んじゃって、怒り狂った令嬢が手段問わずに復讐していくんです」

「ふうん。そんなもんよりギャグ漫画とか読めよ!」

「二人で生きていこうってお話だったのが、全員殺してやるってオチになるこれもあるいみギャグ漫画じゃないですか」

「ふうん。そう言われると気になるじゃん」

「読みます?」


 そう言うと漫画を受け取った女子さんは、タイトルやらページをペラペラめくり少女に返す。

 二人の仲は前々からお互いを知っている気軽さがあった。

 女子さんの態度や勢いのある言葉にも表情一つ変えていない。


「……それで、この方は。彼氏さんですか?」


 不意に俺の方に顔を向けられたので姿勢を正す。

 ただ突っ立ってるだけの俺はどうしたものかと、手持無沙汰で二人を眺めているだけだった。


「彼氏? こんなんが? だっははは! お前ギャグセンスあるわ!」


 太ももをバシバシ叩きながら笑う女子さん。


「こいつはただのむっつりだよ」

「むっつり?」

「ちょっ」

 

 ただのむっつりってなんて雑な紹介なんだ!


「ち、違います! 梶です! 初めましてっ、その……!」

「梶さん。初めまして。あ、私の名前なんていいですよ。どうせ忘れるんですから覚えても意味ないです。適当にお前とかで十分です」


 眠そうな、とろんとした目だなと思っていたが目を合わせてみると違った。

 見ているようで見ていない――。

 顔だけこっちを向けているだけで、興味も関心もまるで感じられない無表情な顔。

 彼女の病気がそうさせているのか、もともとの性格なのだろうか。


「オレはお前って呼んでる。ナイトメアもそう呼べよ」

「そういうわけには……」

「ナイトメア?」


 突然出てきた謎ワードに反応し今度は女子さんを見る。


「ああ、こいつの名前。ナイトメア・ムッツリーノ・梶っていうんだ」

「ハーフの方なんですか?」

「ああ。女の子のラッキースケベをいつも狙ってる。脇とか太ももとかが好物なんだ」


 少女はきゅっと太ももを閉じ、カーディガンを羽織り直して再び俺を見る。

 無表情のままだったが、気のせいか警戒した表情になっていた。

 少女と一緒に女子さんが鋭い目つきで何かを促している。


 なんとなく女子さんの意図が伝わった。

 俺をいじってこの子を笑わせようとしているのかもしれない。

 ……そういうことだよな? 

 

 ――よし。


「ちょっと誤解させるようなこと言わないでください! 僕、そんなことないですから! ただちょっと補給しなくちゃ生きていけないだけで」

「っ!?」


 少女の目が少しだけ見開かれる。


「こいつガチだ! 女の子を見て何か吸収してやがる!」


 これでいいんですよね女子さん……。


「大丈夫です。見るだけですから減りはしません」

「見られるだけで減るんだよ! アレ。アレが! 黙って二次元だけ見とけ、三次元に興味を抱くな!」


 辛い。自分が痛すぎて辛い。 

 女子さんのツッコミもぎこちなかったが、ストレートはストレートなので刺さる。


「なあ、こいつエックス線とかで除去してやろうぜ! そうだ! くらえアルコール! むっつりはまとめて消毒だあ!」


 女子さんは懐からハンドサイズのアルコール消毒薬を取り出し、俺に向かってスプレー噴射する。


 ぷしゅっ、ぷしゅっ!


「ちょちょ! 目に入ったら危ないですって!」

「それが狙いだ!」

「…………」


 待って、これ失敗じゃない?

 この子の心象が悪くなるのと、俺だけの被害が広がっていくだけじゃないかな?

 


◇ ◇ ◇



「まあ、こういうことなんだよ」

「はい……。痛みと一緒に理解しました」

「つまりスベった。勢いでやっちまった感はある」

「僕も止まれませんでした」


 少女が一礼して部屋に戻っていく背中を二人で見送りながら、短い言葉のラリーで反省会をしていた。


「笑えばイヤでも元気になるだろ? 笑えばその時はイヤなことだって忘れられる。それに、笑わなきゃそのうち負けちまうんだ。自分に」

「女子さん……」

「おもしれーやつだって思われてえんだ。オレが来ただけで笑っちまうくらい」


 女子さんの横顔は少し寂し気で、顔色も青白く見えた。


「さっきの振りはオレが悪かった」

「あ、いやっ! 僕の発言がドン引きさせてしまったんです。上手く広げられませんでした……どんどんそっち方面に行っちゃった感じで……」


 なんだか顔がヒリヒリする。

 体中消毒された気分だった。


「むっつりでいけると思ったんだけどな。あのくらいの年じゃ、まだ気持ち悪いしか出てこなかったかもな」

「男の人の第一印象が変わらなければいいんですけど……」

「男なんてみんなむっつりなんだから正しい認識だろが」

「じゃない人もいますから!」


 結局、少女は眉一つ動かさなかった。

 女子さんと俺のやり取りをぼんやり眺めていて、俺に対して距離を遠ざけただけだった。


「よし、なら明日それを挽回してやれ。あいつ毎日ここにいるから。今日みたいに少しの時間しかいないけどな」

「明日も……?」

「当たり前だろ。このまま引き下がるのかよ。それでも男か? E-1決勝出る男が中学生一人笑わせられないで悔しくないのか? 最後まで責任取れよ」


 腕を拳で小突かれる。


「いたた……」

「あれ? お前予選出てたっけ?」

「出てましたよ! でも、確かにちょっと悔しい気持ちもあります……結構身も心も犠牲にしましたし……」


 女子さんは俺の前に移動すると「よしよし」と納得した顔で両肩を叩いた。


「じゃあオレこれから診察だから。明日は学校終わったら直接ここに来いよ。駅前でなんてもう待たねーぞ、寒いし。じゃな!」

「診察って、女子さん!?」


 背を向けたまま手を上げてヒラヒラ振りながら女子さんは病院の奥の方に進み、途中の道を曲がってすぐに見えなくなった。



◇ ◇ ◇



 夜、白井さんとスピーカーで電話しながら今日休んだ分の取り戻しと称して、ネタ合わせをしていた。


「うん、梶くんほんま噛まなくなってきたな!」

「ありがとうございます。出だしがどもっちゃうのはなかなか直らないですけど……」

「それが梶くんの魅力でもあるからな! じゃあ次は……こーちゃんのことやね」


 白井さんには明日も休むことを既に伝えていた。


「うちも協力するって言ったら恥ずかしいからいいって突っ返されたんやけど、まさか梶くんにお願いするとは思わんかったなー」

「たぶんタイミングというか……物は試しか的なノリでしたけど」


 うーんと電話口の向こうで白井さんが唸っている。


「使いやすいのかな?」

「それは喜んでいいやつですかね……」

「あはは! もちろん喜んでいいやつ!」


 白井さんは俺の返しにいつも笑いながら反応してくれるので、会話しているだけで会話術が上がっているような気になる不思議な力がある。


「じゃあ考えよ! アーヴァンチュールとしても見過ごせんからね! 笑わない女の子を笑わせよう大作戦!」

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