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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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43話 仲間はいつだって頼っていい

 ファナさんはサングラスにマスク姿で、コートのフードを被り現れた。


「きょ、今日はよろしくおねがいします……先輩」

「頑張りましょうファナさん! 昨日もランク戦連勝で終わってますから調子はいいですよ!」

「は、はいぃ……っ!」


 完全防備の姿に、声を掛けられても一瞬誰だかわからなかった。

 緊張と寒さで凍り付いているのだろうか、関節がまがらずおもちゃみたいな歩き方をしている。


 少しでも緊張をほぐしてあげようと声を掛けるも、ファナさんは心ここにあらずな感じだった。なかなか会話が成立しないまま、シリアルの大会が行われるイベントホールに着く。

 他にも色々な企画を行っている施設で、大会参加者や見学者で既に賑わっていた。

 わずかに薄暗い会場は、ぐるぐると回る白や青のスポットライトが行き交っては交差している。流れるBGMもゲームで使用されている馴染みのある曲だ。

 シリアルのロゴやキャラクターのポスター、等身大スタンド等イベント会場としても本格的だった。


「見てください! かわいいっ!」


 あまりにもファナさんが背景と同じような黒だからすぐに見失いそうになる。

 会場の熱気と、一面に広がるゲームの世界にファナさんは興奮を隠せず、俺をぐいぐい引っ張ったり、いざ大会の舞台になる並べられた机を見て意気消沈したり、情緒の浮き沈みが激しい。


「うぅぅ……やっぱり無理かもですぅ……」


 大会は土曜と日曜の二日間で行われる。

 土曜日で勝ち上がった人同士で日曜日に戦い、優勝者が全国大会の切符を得るという本格的なものだ。

 初日の土曜日は、参加者が一斉に指定された席に座って5連戦する。1戦ごとにインターバルがあり、戦いに挑むデッキの変更はできない。ランダムで誰かの戦いがモニターでライブ配信されるようだ。


「すうう、はああ。すうう、はああ――。ううぅ……。サングラスが曇って何も見えません」

「ファナさん、外しましょう。手元が見えなくての操作ミスは大変ですから」

「で、ですよね……。アドバイスありがとうございます」


 ファナさんはくいっとサングラスをずらし、青い瞳で会場をくるりと見回すと再び装着した。


「プ、プレイのときに外しますねっ……」


 周りの雰囲気に改めて圧倒されてしまったのか、スタスタと逃げるように壁際に向かっていく。誰にも見えないように顔を隠しながら水分補給していた。

 全然役に立ってない俺自身が歯がゆい。

 応援するって決めて来たのに、気の利いた言葉の一つも出てこない。

 「大丈夫」とか「頑張りましょう」とか同じフレーズばかり。


 そうこうしていると会場のBGMが静まり、大会開始のアナウンスが流れる。


「わわ……えっと、えっと!」

「ファナさんは25番ですので、こっちです!」


 指定された座席に先導する。一列に並べられた長机の対面に相手が座り、自分のスマホを手にローカルルームで対戦する。対戦結果画面を運営のスタッフに見せて勝敗が記録される。

 ファナさんの対面に座る初戦の相手は白髪が混ざったボサボサ頭の小太りな男で、30代くらいだろうか。貧乏ゆすりが激しく、既に機嫌が悪そうだった。


「せせ、先輩っ。代わりに出てくださいっ……!」


 相手を目の当たりにしてすっかり縮こまってしまったファナさんは俺の背中を押し席に着かせようとしてきた。


「いやいや! ファナさん!」


 くるりと入れ替わり、ファナさんの背中を押して着席させようとする。時間内に座らなければ不戦勝としてもう終わってしまう。


「いえいえ! ファナはもう満足です! せっかくですから先輩どうぞ!」

「いやいや!」

「いえいえ!」


 くるくる、くるくる。


「チイィッ!!」


 そんなことを繰り返していたら対戦相手が大きな舌打ちで威嚇してくる。

 ちょうどファナさんに入れ替わったところで、びっくりしたファナさんはすとんと腰を下ろした。


「そんな舐めた態度で勝てると思うなよ。シリアル大会は遊びじゃねえんだわ!」

「は、はいぃ! す、すみませんん!」


 わたわたとスマホを取り出し、ファナさんの初戦が始まった。

 5戦中4勝で日曜日の出場が確定、枠が残れば3勝したプレイヤーから抽選で選ばれる。

 大丈夫、ファナさんは強い。勝てる!


「せせ、先輩っ! がが、画面が見えませんん! バグってます! ラグってます!」

「ファナさん、サングラスサングラス!!」

「あわわわ」

「チイィッ!!」



 ――初戦は相手の勢いに押され、ファナさんらしからぬミスも目立ち、ストレートで負けてしまった。

 口を出してはいけないので言えなかったが、相手のプレイを見るとけっこう雑だし、次のターンを考えたプレイができてないように見えた。

 なんだか俺でも勝てそうなくらいだった。


「はっはー! シリアルって、男女で仲良しごっこしてやるゲームじゃねえんだわ! 思い知ったならさっさと引退しろや! お前らみたいなのがシリアルの民度下げてんだわ!」


 辛辣な言葉を投げ捨てられ男は勝ち誇った笑顔で立ち上がる。


「……あ、あ……?」

「ファナさん……」


 だらんと脱力しきったファナさん。

 まだ4戦ある。きっと空気は掴めたはずだ。

 あとはファナさんの調子さえ上がれば勝機は――


「――あァ? 今なんつったゴラァ!!」

「ゴっ!? ファナさん!?」


 背を向けて歩き出す男の背中にファナさんの言葉が牙のように突き刺さる。


「テンプレのギャンブルデッキ使って、脳死で一勝したくらいで調子のんな! そのデッキ昨日SNSで流れてたやつだろうが! ネタデッキでたまたま連勝できて俺強えとか勘違いしてんだったらその矮小脳みそ叩き起こしてやろうか!」


 男は突然牙を剥いたファナさんに振り返ることなく背を丸めて逃げて行った。

 

「ファナさん、落ち着いて……! フェアプレイ! それが一番大事なことです! 相手はもう放っておきましょう」


 ちょうど係員も近づいて来ていたタイミングだった。

 俺は「すみません」と頭を下げながら、ファナさんを連れてざわつき始めた喧騒を避けるように人気のない壁際に移動する。


 思わぬところでファナさんらしさが出てしまった!

 なんということだ。

 こうなることは予想していたはずなのに止められなかった……。


「ご、ごめんなさい先輩……。うぅ……、今日ほど自分が恥ずかしいと思ったことはありません」


 ファナさんは壁に背を付け、膝を抱きかかえるようにしゃがみ込む。

 とりあえずここまで連れて来たけどなんて言えばいいのだろう。

 このままじゃ二回戦もなし崩し的に……。


 すぐに思いついたのは、ファナさんをガチに豹変させて勢いで乗り切る方法。

 それはファナさんの個性で、良くも悪くも長所なのだが……、晴れ舞台でそのキャラクターを植え付けてしまってはファナさんの心象が下がるだけだろう。それ以前に追い出されてしまうかもしれない。

 キャラクターとしては記憶に残るし強いしで、いいところもある反面、どうしても、ついつい気が昂って相手を罵倒してしまう癖はよろしくはない。

 出すべきじゃない。少なくとも人前では。

 

「うう……、やっぱり先輩代わりに出てください……。やっぱりファナは弱いし、すぐイライラしちゃうし向いてないんです。一人で引きこもって誰にも聞かれない場所で黙々とプレイするしか居場所がないんです」


 このままじゃ、せっかく殻を破ろうとしたファナさんが更に深く、より硬い殻に閉じこもってしまう。


 きっかけを。

 後押しするような一言を。


 白井さんが俺に声を掛けてくれたときみたいな救われた言葉を――


「(そうだ!)」


 妙案が閃いた。

 俺が一緒に来た理由。


 ……きっと、このためなんだ。

 俺はファナさんの目を見ながら諭すように語り始める。


「ファナさんは狂犬です。先ずはそれを認めましょう」

「――ふぁっ!?」

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