40話 「好き」のその後で
白井さんを改札口まで送ってからどうやって家に帰ったかも覚えてないくらい頭の中が他のことでぐちゃぐちゃになっていた。
その日のお風呂はのぼせる手前まで湯船に浸かっていた。
ベッドに潜ったらぐっすりで、起きたら昼前だった。
『投票サイトできてますよ! ファナどっちにいれたらいいかなっ!?』
『ここは公平にジャンケンで決めようぜ。先に言っていいぜほのか』
『後出し有利やん!?』
わらおー会のチャットは変わらずだった。
俺は既読だけはつけていたがなんとなく入る勇気が出ずに眺めるだけだった。
理由は分かってる。なんで言えなかったんだろう。
「僕も相方として好きです」、せめてたったこの一言だけでも。
正解かどうかはわからないけれど。
『みんなで初詣行こうよ! わらおー会の新たな1年の始まりやし!』
白井さんの提案で冬休み中にみんなで集まって初詣に行くことになった。
さすがにスルーできなかったので、『もちろん行きます』と返事すると、白井さんを中心に話が進んでいく。
――夜。
気分転換に配信することにした。始めるとすぐにリッカさんが来てくれた。
挨拶しながら今日は短時間で周回しやすいローグライクのアクションゲームをプレイしている。
>配信待ってましたよ~! そういえばハルさんも昨日、終業式のあとイベントあったんですよね。どうでしたか?(@rikka)
相変わらず同接は【1】。リッカさんだけだ。
なので会話も自然と身内ネタに偏っていく。
「緊張しましたけど上手くいったと思います! リッカさんが応援してくれたおかげです」
>力になれましたか? 嬉しいです!(@rikka)
「その、リッカさんはどうでしたか?」
これは自分のことも聞いてほしいのかなと思い質問してみる。
リッカさんが誰かは確信しているので、自分からE-1どうでしたかと嫌いだと言い切っている彼女に聞くのは複雑な心境だった。
紛らわせるようにわざと敵にやられて「うわー」なんて言ってみる。
>つまらなかったですよ(@rikka)
「……そ、そうでしたか」
客観的な意見がぐさりと心臓に突き刺さる。
プレイする手は止めずにいたが、デバフを受けてしまったように操作が雑になる。
>ハルさん、聞いてくれますか?(@rikka)
「はい僕でよければ!」
愚痴とかダメ出しかなと思いダメージを受けてもいいように身構える。
>私の幼馴染が参加してまして、その、漫才? やってたんです。あ、女の子ですよ? ふふ、安心してください(@rikka)
カチャカチャ(ゲームを進める音)
安心? まあうん、きっと白井さんのことだよな。
>昔はよく一緒に遊んでて、その子は私だけの友達だったんです。心が通じ合った友達は一人いれば十分ですから。(@rikka)
>別に誰かと話したっていいんです。そうしないと生きていけないし。でも今日は誰と喋ったよって言わないなんておかしいですよね?(@rikka)
……んん?
>私の知らない人と友達になって。
それを報告もしないで。私だけのものだったのに(@rikka)
>お笑い? コンビ? 私に一言の相談もなしに(@rikka)
>あの子はいつもそう。勝手なんです(@rikka)
>私のことは親友だよって、間抜けな顔して言うから余計ズルい。私は特別扱いしてたのに!(@rikka)
カチャ(ゲームが止まる音)
「あ、リッカさん??」
危ない、名前をいうところだった……。
ええと、つまり、どういうこと?
幸いコメント欄に書き連ねているリッカさんの感情を聞き返さずにすんでいる俺は意味を理解しようとプレイを止めて、何度も文字を読み直した。
>きっと私のことなんてどうだっていいって思ってるんです。私は誰とも友達にならずにずっとあの子のことだけ見てたのに! だから私の方から離れてやりました。話しかけられても無視です。(@rikka)
なんだか大変なことになってきたぞ。
俺の結論としては、リッカさんはとっても激重な感情を抱いている。
たぶん、嫉妬、とか?
その日、リッカさんはひたすらにコメントを送ってきたが、言っている内容は言い方が変わっているだけで、中身は終始変わらなかった。
リッカさんはめちゃくちゃ独占欲が強い。
自分が特別だって認めた人には特別視扱いされてないと満足しないのだ。
むしろそれが当然であると思ってる。
>ハルさんは、もし配信に他の人がきても私を特別扱いしてくれますよね?(@rikka)
「あ、あはは……はいそれはもう」
文字なのにまるで耳元で囁かれたようなゾクゾク感が背筋に走る。
このまま縮こまっていいところで配信を終えようとも思った。
「その子はきっと、リッカさんのこと、大切な友達だって思ってますよ」
でも出てきたのはこんな言葉だった。
「もしかして、その子はリッカさんとお話したいって思ってるかもしれません。リッカさんは、その子を自分から遠ざけてたりしてませんか?」
操られているみたいにスラスラと言葉が出てくる。
「もし、喋る機会があるのなら……自分の気持ちは伝えた方がいいと思います」
言っていて何様だと思ってしまった。
「す、すいません! 急に偉そうなこと言っちゃって……」
リッカさんからの反応はない。
「実は僕に言える言葉なんです。その機会を逃しちゃったばかりでして。あはは、でもリッカさんの言うこともわかるな~。自分が前から『面白い』って言ってたマイナーゲーを、後から有名なインフルエンサーが紹介して大流行した時……みたいな? 『それ、僕が先に見つけたのに!』って、ありますよね」
最後は誤魔化すように笑い声を混ぜながら早口になった。
>つまらなかったんです(@rikka)
「……」
言い過ぎた……!?
突き放されたような一言でやっぱり配信止めておけばよかったと後悔する。
>つまらなかったんです! あんなのどこが面白いかわかりません! ムダな時間でした(@rikka)
そこまでつまらないなんて言うことないじゃないか。
面白い、面白くないかは人それぞれだけど、少なくとも――
>でも、楽しそうでした。あの子がステージで踊ってるように見えました。鳥肌が立ちました。つまらないはずなのに……。あんなの見せられたら(@rikka)
>取り戻したくなっちゃうじゃないですか! だって、あの子が頑張ってるの私が一番知ってるんですから(@rikka)
俺が言おうとしたことをリッカさんが言った。
>すいません! ハルさんに言われて私もなんだか熱くなっちゃいました! 今日は失礼しますね! おやすみなさい(@rikka)
俺の返事を待たずにリッカさんは退出した。
「リッカさん……」
配信画面では何度もリスポーンしてはやられてを繰り返す主人公。
体の震えが止まらなかった。
抑えつけるように二の腕を掴む。
色々思うことはあった。
ただ、それ以上の漫才がリッカさんに変化をもたらしたことに胸が熱くなる。
リッカさんは友情を取り戻したい。
この漫才で伝わったのなら、二人が近づくのだってきっかけさえあれば、きっと。




