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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
序章 わらおー会編

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4話 美少女とノリツッコミ

 一般にも開放された食堂は、ちらほらと私服姿の大人と子供たちが休憩している。ちょうど席を立とうとした家族連れと席を交代し、俺と白井さんは通路側の四人掛けのテーブルに面と向かって座った。


 食堂内は賑やかだ。

 キッチンには出し物をしているエプロン姿の学生たちが忙しくしているし、テンションの高い自由行動組の学生たちの騒ぐ声が絶えず聞こえる。


「それでさっきの話なんですけど」


 紙パックのリンゴジュースを両手で持ち、ストローで一口飲むと白井さんは口を開く。俺は普段なら買わないミネラルウォーターを手にして、テーブルの下でキャップを開けたり閉めたり繰り返していた。


 ここまでくる途中、何度見られたことか。

 文化祭というイベントがあるにも関わらず男女が歩いているだけで、興味の目は向けられる。まじまじ見られるわけじゃなくて、横目で見られてる感じ。


 考えが足りなかった。傍から見たらこれってデートみたいに見えるよな。

 ああついに、俺なんかがデートなんて言葉を思い浮かべてしまった!

 身の程をわきまえて自重しなくては。これはデートなんかじゃない。

 きっと身長差があったから、兄妹とか凸凹してるなとかで目立っただけだ。


 じゃあ何だろう。スカウト? いやスカウトってなに!


「あの大喜利、普通なら学校とか先生とか。身内ネタで笑わせるのがセオリーだと思うんです」


 そんな俺の浮ついた感情とは裏腹に白井さんの顔は真剣だった。

 白井さんの表情に背筋が伸びたが、それよりも言葉に意識が向いた。

 学校とか先生の答えがセオリー。それは俺も思ったことだった。


「あのひょっとこの写真で一言も、きっと誰かに例えた回答をすると思うんです」


 思い出すと顔が熱くなってくる。冷却するために水分補給する。


「梶くんは自分に例えたんです。つまり自虐ネタです!」


 音は鳴らなかったが、指をパチンと鳴らす仕草をする白井さん。

 そういえば自分に例えていたかもしれない。


「自虐ネタって、そのキャラクターが認知されてないと成功しないと思うんですよ」

「あ、たしかに……」


 思わず声が出た。白井さんは俺の反応に合わせるように少しだけ鼻の穴が大きくなったように見えた。


「人気者じゃなくても何回かツボる答え出せば、あ、この人こういうキャラなんだってなるんです! そうして客に覚えさせて、自分を投影した答えを出すことで、ようやく人を笑かすことに昇華するんです。でもでも、梶くんはいきなり無個性のまま自虐ネタを繰り出したんです! しかも三連発!」


 さらっと無個性と言われてしまったが、熱が込められた白井さんの口調で馬鹿にされているとは思わなかった。

 高い声は尖っていて鋭いイメージだけど、白井さんの高い声は、先端が丸みを帯びている感じがする。

 だからなのか、食堂内に興奮した声が響き渡るし自然と周囲の注目を浴びる。

 その視線はもちろん鋭い。


「梶くんの凄いところは、自分の答えを別の答えで瞬時に上書きしたことです。ふつうしませんし、三つも出ません。同じ答えを繰り返すとか、進行に視線で訴えるとか反応を待ちます」


 僅かに間が空く。白井さんの綺麗に揃えられている髪は少しの動きでも照明を反射し、鮮やかな輪の形を頭に浮かび上がらせている。


「三つ一気に答えだすのも凄かったですけど、どれも自虐ネタだったのが、ジワってきて、梶くんのキャラなんか知らんのにおもろくて! この瞬発力はセンスだなって感じたんです!」


 なんだか言葉にチクリとくるものがあったが褒められている気がする。


「うち、お笑いやってるんです。だから、一緒にやりませんか! お笑い!」


 バン! とテーブルに両手を置いて身を乗り出すように立ち上がる。

 白井さんのふわりとしたショートカットが揺れ、少しだけ釣った大きく鋭い瞳が俺を捉える。


「ええと、その、お笑いとかよくわからなくて……」


 白井さんの勢いに気圧され反射的に言葉が出る。

 いつも言って後悔する。

 どうしてこうも俺は後ろ向きなんだ。


「あ……っ。ご、ごめんなさい」


 ぺたんと席に戻る白井さん。


「あはは。また一人で喋り過ぎですねうち……」


 俯きながらリンゴジュースを手に取り飲み始める。


「なんでやろ、声掛けたら絶対乗ってくれるって勝手に思い込んでました、うちの悪い癖なんです。そんなわけないですよね。いきなり知らない女子から、しかもお笑いやろうなんて誘われてもドン引きするだけですよね」


 早口で喋り続ける声がどんどん小さくなる白井さん。 


「そもそもお前誰やねんって話です。うちが勝手に暴走しただけ、梶くんにだって選ぶ権利があるやん。梶くんがやる気でも、うちがどういったキャラで、面白いのかどうか見極めてもらわな相方にだってなってくれへんやろし……」


「し、白井さん……?」


 数秒、沈黙が流れる。

 手を伸ばしかけ何か言葉を探していると、


「うああぁー! やってもうたああ! これ失敗かぁ!?」


 急に大声を出して頭を抱えだしたのでびっくりして引っ込めた。


「お笑いに興味ありませんか、から始めるべきでしたねぇ!?」

「あいや……」

「いやそれ! どっかのあやしい団体みたいやん!?」

「し、白井さん?」

「君の才能に惚れた、うちでお笑いしてみないか」


 低い声で落ち着いたトーンになる。ころころと白井さんの声質が変わる。


「いよいよ誰やねん!」


 素の声に戻って、びしい! と手の甲で誰もいない隣をはたく仕草をした。


「……ぶっ」


 そのあまりに綺麗な一人ノリツッコミを見て、俺の口から空気が漏れた。

 笑うつもりなんてなかったのに自然と出てきてしまった。


「あ! 今笑いましたよね梶くん!」


 既に俺は彼女の世界観に取り込まれてしまったのかもしれない。

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