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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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37話 予選② 【ネタ回】女子代表として容赦しねぇ!

 ぎゅうぎゅう詰めの舞台袖。

 進行役の男子生徒は注意事項やルール説明を行っており、それが終わると彼から名前を呼ばれる。

 ステージに上がりマイクの前に立つと、1組最長5分間の舞台が始まる。


 1番の女子ここさんは肩を回したり屈伸したり落ち着きがないが気迫のこもった表情を見ると圧倒される。女子さんの瞳の奥に揺らめく炎が見える。

 ふぅーっ、と長く鋭い息を吐くと、女子さんは両手でぐいっと前髪を掻き上げた。


 パンッ!


 乾いた破裂音が舞台袖に響く。

 女子さんが両手で自分の頬を思い切り叩いた音だ。


「こーちゃん!」

「なんだこれ、めっちゃ緊張するじゃん!! なんだこれ!! ははは!!」


 両膝を抑えつけながら笑う女子さんだったがその表情は楽しそうだ。


「ほのかもナイトメアも見とけよ! オレの生きざま! お前らも見とけ、逃げんなら今の内だぞ!!」

「うんっ、こーちゃん! 行け!」

「しっかり見てます! 頑張って!!」


 その気合の入れように周りの出場者たちも静まり返っている。

 女子さんから放たれる熱気と、本気度は凄まじく吞み込まれそうだ。

 雰囲気に当てられ、俺も信じられないくらいに興奮していた。

 たまらず大きな声で女子さんを応援する出る。


「――エントリーナンバー1番! ココナッツ!!」


 司会の呼び出しと共に、係員の生徒が女子さんに合図する。

 女子さんは振り返らず、ためらうことなく走り出した。


 俺は横からの女子さんの雄姿を見守る。

 観客からはまばらな拍手。



 ――女子さんはダッキングしながらマイクスタンドへと向かって行った。


 マイクスタンドからマイクを乱暴に引っこ抜くと、客席の男子たちに向かって人差し指で天を突き刺し、叫んだ。


「女子代表として半端な男子は容赦しねえ! 常夏生まれの女子あらため、ピン芸人ココナッツの! 女子の女子による女子のための常識シリーズ!」


 女子さんはステージの端から端まで練り歩きながら吠えた。


「ココナッツこの前――『彼氏に浮気されたから別れたい!』相談されたんだけどよ!」


「『どうしたらいい?』って聞くから、言ってやったんだよ。『そんなクズ、別れちまえ』ってな!!」


 女子さんはピタリと足を止め、客席を睨みつける。


「女子の心境、男子にわかっか?」


 ブンッ!!  女子さんの放った鋭い左ストレートが、見えない敵を殴り飛ばすように空を切り裂いた。


「『別れたい』んじゃねえ! 『こんなに傷ついた私を見て』ほしいだけなんだよ!!」


 会場のあちこちから苦笑いと悲鳴が漏れる。女子さんは畳み掛ける。


「答えはもう決まってる! 『元サヤ』だ!!」


「男子ども浮気すんなよ! 許してもらえると思うな! あと――」


 女子さんはマイクを両手で握りしめ、ステージの最前列まで身を乗り出してドスを効かせた。


「相談する相手、間違えてる!!」


 ドッッ!!


 その理不尽かつ正論な前のめり叫びに、会場から爆笑と拍手が巻き起こった。


「うわあ、こーちゃん掴んだ……!」

「すご……」


 白井さんは熱い息を漏らす。俺も自然と口から声が漏れていた。


「ココナッツこの前――」


 観客の反応が静かになると女子さんはトーンを落として再開する。

 女子あるあるの畳みかけだ。

 トイレの話、メイクの話、次々と繰り出していく。


「ココナッツ最近、女子の『どっちがいい?』問題を男子がよく語ってんの聞くんだけどよ!」


 女子さんはマイクを持ったままステージを練り歩く。


「答え決まってる質問だろ? 正解当てゲームだろ? 苦行。とか言ってんのよ!」


 一拍おいた後、渾身の左ストレートが風圧を生む。


「女子の『どっちがいい?』ってな、どっちでもいい時にしか聞かねぇ!!」


 ざわ、と小さなどよめきが起こる。


「マジで大事な時は、もう買ってる!! あと――」


「相談する相手、にしてやってる!!」


 そのたびに熱が波になって、わっと生徒たちが沸く。

 体育館の温度も湿度も上がってきているように感じた。


「ココナッツついさっき――」


 そこで女子さんは舞台袖を向き、その中にいる誰かにむかってマイクで差したあと再び観客の方に体を向ける。


「どっかの会長だがしんねえ男子が、オレをチラチラ見てくんのよ。こういうときの男子の目の動きってさマジでバレバレで、目玉が瞬間移動してるみたいに動いてんの」


 視線を掻い潜るようにスウェーする。

 明らかに大寺先輩のことを言っている。


「ラストの前に出てくるから女子全員体隠しとけ!」


「終了!」


 ガン! とマイクを乱暴にスタンドに装着させた女子さんは、反応が来るより先に反対側の舞台袖に向かってダッキングしながら去って行った。


 ――居なくなった途端、生徒たちの歓声が響く。


「ありがとうございました! ココナッツ、でしたー!」


 司会者が飛び出してきて進行を始める。

 間を空けることなく2番目の組が呼び出された。

 出場前の俺たちがいる舞台袖は、女子さんの勢いに気圧されていた。

 2番目の組が呼ばれてもすぐに出れなかったのもそのせいだろう。


 こうして、第一回東高等学校お笑い王座決定戦の戦いの火ぶたが切られた。



 リズムネタを披露する組、セリフが吹っ飛んだのかスマホを見ながら漫才する組。

 案の定マイクの問題で声が届きにくかったトリオ。

 身内や学校ネタで爆笑をさらうお笑い同好会。

 清水の組もコントと漫才が混ざったような形式でウケていた。

 何組もネタを披露していった慣れからか、観客の生徒達も笑いやすい、反応しやすい雰囲気になってきたように思える。


「ありがとうございました! SHOCK,beでした! 続きまして、エントリーナンバー11番! 大寺人見!!」


 舞台袖には2組しか残っていない。

 俺と白井さんの『アーヴァンチュール』。

 そして、お笑い同好会会長・大寺先輩と、その相方である人見先輩の『大寺人見』。


 大寺先輩はこちらを一瞥し、不敵な笑みを浮かべると人見先輩と互いに肩を叩き合い二人揃って手拍子しながらステージに進んでいく。


「どうも! 大寺と」

「人見で!」

「大寺人見です。よろしくお願いします!」


 二人が声を揃えると期待されていたのか一段と大きい拍手が起こる。


「ちなみに先ほどジロジロ見てた変態は人見こいつです」

「えっえっ?」


 大寺さんに指差された人見さんは女子さんを真似るように首を振りながら避けていく。

 直前のアドリブを即座に利用する巧みさに、会場の空気が一瞬で彼らのものになった。男子の笑い声が大きく跳ねる。


 大寺人見のネタは時事(学校イベント)ネタも絡んだ漫才で、大寺先輩が小難しいことを言い、人見先輩がまったく違う解釈をしてツッコまれる流れだった。

 男子生徒を中心とした笑いが終始占め、大きな拍手と共に二人は退場する。

 一番の拍手の大きさだったかもしれない。


「ありがとうございました! E-1、第一回お笑い王座決定戦も残るは1組となりました。エントリーナンバー12番! アーヴァンチュール!」


 呼ばれた瞬間、身震いするくらいの鳥肌が全身に立つ。

 

 ぎゅ……


 俺の震えを抑えつけるように白井さんの手が添えられる。

 思わず握り返してしまうと、同じくらいの力で白井さんの手に力が入った。


 白井さんと顔を見合わせる。

 彼女はいつもみたいに大きな口を開けて笑いながら、


「わけわかんなくなったら、うちの顔だけ見てればいい。それで絶対にうまくいくよ!」


 と手を引いた。


「行こう! 梶くん!!」

「……はい!」


 消え失せそうだった俺の残り火は、燃え盛る炎のように激しく身を焦がした。

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