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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第二章 東高等学校てっぺん編

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36話 予選① 楽しんで、はりきって、一番になろう!

 ――眼が冴えて眠れない。


 とっくに日は12月24日になっている。深夜0時32分。

 終業式のあと……始まる。

 興奮と緊張と不安と期待で脳が眠る合図を出してくれない。

 公式SNSも盛り上がっている。


 トップバッターの女子さんは、普段の自信満々な態度は変わらずだったが、さすがに今日の練習では緊張の色を隠しきれてなかった。

 それは俺と白井さんにも言えた。


「もっかいいこ!」


 本番さながらの声量で何度も繰り返していて、白井さんの前髪は汗でおでこにひっついていた。


 最後はみんなで手を繋いで輪になって、頑張ろうとお互いを見合う。

 みんなの顔は強張っていたが、みんな笑顔だった。

 白井さん、女子さん、ファナさんから漏れる熱気は色を持っていて、まるでイルミネーションのように、教室に舞う埃がキラキラと瞬いた。


 今日の配信はしていない。リッカさんからは「イベント頑張ってください! 上手くいくよう応援しています!」と力いっぱいの激励をもらっていた。




 ブブ――


『梶くん起きてる?』


 スマホの振動音が枕元で鳴る。白井さんからメッセージが届いていた。


『起きてます。ドキドキして眠れないです』

『へへ、うちも』


 返信するとすぐに返ってきた。


『……電話したい』


 ぽつ、と呟くような白井さんからのメッセージ。

 俺は自然と指が動いていて、白井さんに電話を掛けていた。


「梶くん」


 みんなが寝静まった夜。白井さんは小声だ。


「へへ……」


 囁くような白井さんの細い声が耳元をくすぐる。


「どうしたらいいんでしょう。このままだと寝ずに本番になりそうです」


 俺ももちろん小声で白井さんに話しかける。


「じゃあ、ネタ合わせ、する……?」

「あ、それはうれしいです。やりましょう」


 そう言って電話口で囁くように掛け合いを始める。

 観客は冷え切った室内。布団に包まった体だけが熱くなってくる。


「――へへ。もっと眠れなくなってもーたかも」

「ははは、僕もです」


 ごそごそと布が擦れる音が聞こえる。寝返りをしたのだろうか。


「うちのわがままに……なんて、ここまで来たらもう言わんよ! 梶くんには最後まで付き合ってもらうんやから!」

「はい。僕も、最初はこんなつもりじゃ……なんて言いません。 白井さんの隣で、最後までとことんいきますよ!」

「梶くん……っ! うん!」

「今にも心臓飛び出しちゃいそうですけど、ほんとは明日サングラスにマスクしていきたいところです」

「あははっ。不審者やん。なんやせっかく梶くんカッコイイなんて思ったのに~」


 白井さんの小さく弾んだ声が無理矢理引き出した俺の心に火を灯す。

 これは白井さんの夢に向かう第一歩でもあるけど、俺にとっても今までの俺を覆す第一歩になるんだ。


 灯す。灯すんだ。


 ……カッコイイなんて思ったのに。


 ――えっ?


 1時を過ぎたところで白井さんの声がとろんとしてきたので、最後に明日頑張ろうと言い合い電話をきる。


「眠れない」


 俺の足は布団の海で漂うようにバタバタ動いていた。



◇ ◇ ◇



 全校生徒がソワソワしているのは気のせいだろうか。

 12時前に終業式が終わり、帰る生徒は少なく残っている生徒が多い気がする。

 もしかして残っている生徒はみんな体育館に行くのだろうか。


 舞台袖では慌ただしく係員の生徒たちが走り回っていた。

 真ん中に鎮座するマイク。予想通りマイクは一つだけ。

 簡単に高さ調整もできそうで安心する。

 出場するチームはステージ横の扉の前で集められ待機している。

 清水の姿もあった。お互いに無言で手を上げて挨拶する。

 既に観客側にはちらほらと生徒たちの姿があった。


 雨宮さんは、待機しているチームを照会しているようで確認が終わったチームは番号が書かれた札を渡され胸に付ける。


「伊ケ崎女子さん、ココナッツ……ですね」

「おう。聞かなくても知ってるだろ?」

「……」


 女子さんは『1』と記された名札を受け取ると胸の真ん中で留めた。


「梶悠翔さん、白井ほのか……さん。アーヴァンチュールですね」

「うん!」

「……はい」


 事務的な態度で白井さんと俺に『12』と記された名札が手渡される。

 俺はつい雨宮さんを見ていて、視線に気づいた雨宮さんはマスクを上げじとっと睨み返す。

 視線を逸らして、俺は周りの参加者たちを見た。

 制服姿のままの生徒がほとんどだが、部活動のユニフォームに着替えているコンビも入れば、楽器を持っている生徒もいる。


 その中でひと際目立っていたのは、『11』と胸に付けた二人の男子だった。

 他のみんなは緊張をごまかすためかふざけたり落ち着きない様子なのだが、この二人だけはどっしりと構え静かにあたりの様子を見まわしている。


「あれがお笑い同好会の会長、大寺先輩と、もう一人は相方の人見先輩やな」

「おー、なんかすっげえ先輩面しててえらそーだな!」


 大寺先輩か……。俺のボサボサの頭と違って、ぴちっとセットされていて長身だ。

 相方の人見先輩も、同じくらいの背だがぽっちゃりめな体格だ。

 高校生離れしている貫禄がひしひしと伝わってくる。


「うわ、目合ってもた!」


 白井さんがそう言うと俺の背中に隠れた。

 大寺先輩はにこりと笑顔を携えて人見先輩を連れて近づいてくる。


「ほのか嬢! お久しぶり!」


 ほ、ほのか嬢? まじで言っているのか?

 角ばった顎のラインの大寺先輩はにこやかに手を上げ白井さんに声を掛けるが、後ろにいるので自然と俺と視線が重なった。

 「お久しぶりです~」と、後ろで白井さんの遠慮がちな声が背中越しに伝わる。


「君は……ほのか嬢の?」


 大寺先輩は怪訝そうな顔つきで俺を見定めるように見つめている。


「はい、初めまして。梶と言います。アーヴァンチュールで白井さんとコンビ組ませてもらっています。今日はよろしくお願いします」


 俺は頭を下げる。隠れていた白井さんが出てしまったのか「うわっ」と声がした。


「……お笑い同好会、会長の大寺勇おおてらいさむだ。そして相棒の人見悟郎ひとみごろう。初めての試みにも関わらずエントリーしてくれて感謝しているよ。今日は、悔いのないように精一杯楽しもう」


 形式ばった笑みを浮かべて右手を差し出す。

 握手だと気づき、大寺先輩の手に触れると向こうからぐっと掴まれた。

 かなりの強さが込められて反対の手でロックされる。


「最重要監視対象者、梶悠翔かじはると

「ええと……」


 確保されそうな勢いを感じる。


「見せてもらおうか、お笑いの才女に選ばれたその実力を」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 そう言うと、じゃっと音が出そうな勢いで踵を返すと元の場所へ戻っていった。

 すぐに女子さんはわざとらしく舌打ちをする。


「くそが、オレの脚と胸だけ見るだけ見て無視しやがって。着いちまったよ、火が。やってやんよ! オレを1番にしやがった報いを受けさせてやる! 容赦しねぇ」

「……大寺先輩が決めたわけじゃないですけど、頑張りましょう! 女子さん!」

「任せろ。わらおー会のトップバッターが度肝を抜かしてやるよ。そして、ラストにもわらおー会がアップしてるってこと知らしめてやるぜ!」


 ぞろぞろと集まる人ごみの中からファナさんが駆け寄ってくる。


「ファナ、観客席から応援してますからっ! 精一杯応援しますからっ!」


 隠れていた白井さんが前に出てくる。


「……よっしゃ! わらおー会のデビュー戦や! はりきっていこーーっ!!」

「「「おーーっ!」」」


 小さな両拳を突き上げ気合を入れる白井さん。

 それに応じて俺たちもそれぞれの高さで拳を上げた。


「東高のお笑い好きの皆さーん! 間もなく! 第一回、東高等学校お笑い王座決定戦がはじまります!」


 ステージに立つ男がマイクを片手に喋りだした。



 ――ついに、始まるんだ……!

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