33話 タメから始まる、異性間交流
思わぬところで思わぬ疑念が生まれたが、それを確かめることなんてできるわけがなく、粛々とテスト週間は始まった。
『ファナのヤマ当たってたな! マジ助かった!』
『へへ~、読み合いは得意!』
『勉強より先生の思考を解いてくスタイルのファナち』
『女子代表もにっこりですね』
『は? てめえ、ナイトメア。オレをいじるなんて千年早えぞ。留年してオレらと同じ学年になれ。こきつかってやる』
『す、すいません』
初日の火曜日、二日目の水曜日と過ぎていくたびに科目から解放され、学校も賑わいを取り戻していく。
俺と白井さんは一日のどこかで必ず時間を作ってはネタについて話をしていた。
今日は放課後の図書室の片隅。
生徒会に注意されたばかりなので、周りに人がいないことを念入りに確認して、小声で言葉を交わす。
「うん、梶くんは冷静に淡々とツッコむ。これが一番しっくりきます。わたわた動くのはうちで、梶くんはそれを静かに見守るように穏やかにいきましょ」
「はい。その方が僕もやりやすいです。……白井さんの喋り方は敬語もいいかもですが、いっそのことタメ口になってみるのはどうです?」
ネタの内容は決まりかけていて、あとはどのように進行していくかだった。
白井さんの台本ではお互い敬語でやりとりしていたが、白井さんは砕けた口調で、俺だけ敬語で返しているってスタイルはなかなか面白いと思った。
「ああそれ! 採用です! バランスがいい! ナイスアイデア!」
褒められた。素直に嬉しい。
「なら……普段からそうしてみませんか?」
ネタの時だけ口調が変わるのも切り替えが大変だろうし、ファナさんや女子さんに接するような感じで喋ってくれた方がやりやすいかもしれない。
「えっと、うわぁ、それはそれで逆に緊張するかも」
「なら、なおさら今のうちかもしれません。僕のことは気にしないでください。良ければ友達みたいな感覚で……って、いきなりそんな言われても緊張しちゃいますよね、はは……、でも、ど、どうでしょう」
喋っている内に自分がとんでもないことを言いだしているのに気づく。
これ、ネタという理由をつけて一歩踏み込もうとしてるみたいだ!
そんな気はなかったんだけど、そう思ったらそんな気しかしなくなってくる。
「じゃ、じゃあ採用……で! へへ!」
訂正しようと思った矢先、白井さんは照れくさそうに頷いてくれたのでそんな憂いは一瞬で消え去った。やっぱり白井さんの笑顔は不思議な力を持っていて、見るとこっちまで笑顔になる。
「あーあー、こほん。……なんでやねん!」
いきなり白井さんの手の甲が俺の胸に当たった。
「こんな感じなんやけど……平気? いやだったらゆーてな?」
「平気です!」
新鮮さという白井さんの第二の矢が刺さり、心中は穏やかではなかったが。
◇ ◇ ◇
明日の午前で期末テストは終わる。
結果はいつも通り、中の中といったところだろう。
最終日は得意な科目だったので気分はもう終わった感じだ。
しかし、ここからが本番といっても過言ではない。
24日の大舞台まであと2週間ほど。
ネタはもう丸暗記した。何度読んでも笑える。ボツも含めて沢山書いてきたっていう白井さんは本気で夢を追いかけてるんだなあと実感する。
あとはほんと、俺の声次第と言うかテンパり具合によるというか。
俺は俺で自主練を兼ねたゲーム配信をする。
「こんばんは、ハルです!」
部屋で一人で声を張るのも最初は抵抗があったが、今ではそれも慣れどのくらいのボリュームにするべきかを悩むくらいまでになった。
>こんばんは~! テスト中なのに余裕ですね! って、私もなんですけどw(@rikka)
「こ、こんばんは! リッカさん! テストはなんとかなりそうでして。ええっと、リッカさんはどうですか」
>わ、ハルさんに気にされて嬉しい。私はいい感じですよ~! ハルさんボイスで落ち着けて勉強できたからかもです。ふふふー(@rikka)
ただこの疑惑……晴らしておいた方がいいのだろうか?
いいや、全国にどれだけ高校があると思ってるんだ。
同じような行事がある高校だって一つや二つあるだろう。
……あるのか?
「今日はサブクエ少しやろうかなって、本編よりサブクエが面白いのは名作の証拠だと思うんですよね」
>私もそう思います。本編には関わりのないところでいくつも別の物語があると世界観にも深みがでますし、見えないところで必死で頑張って生きてる光があるから、より本筋が際立ちます。(@rikka)
「いやほんと、その通りだと思います」
思わず感心してしまった。俺の言いたいことを詳細に紐解いてくれている。
>だから私、好きなんですよね! 誰にも見つからないところで必死に光ろうとしている原石を見つけるの! それがいつか本筋を追い越す光になっていくようになると、ああ、私が最初に見つけたんだって誇らしくもなって。(@rikka)
リッカさんも明日でテストが終わるからだろうか、いつもより開放的というか。
いやいや、同じ学校って決めつけるな。
リッカさんは明後日もテストかもしれないし。そんなわけないだろ……。
「サブストーリーがめちゃくちゃ評価されてるゲームもありますもんね」
ダメだ、気になり過ぎてその場を凌ぐような言葉しか出てこない。
もし俺がお笑いのことを喋ったらどうなるのだろう。
出してみたいが、恐ろしすぎて口に出せない。
>ゲームもそうなんですけど、配信してる方を一番先に見つけるのも私好きで! 私の趣味と合ってたら、もう推すしかないって感じです。(@rikka)
「なんとなくわかる気がします」
>ああやっぱりハルさんも同じ考えなんですね! そうなんです。だから私がハルさんの1番で嬉しいです! ハルさんが人気になっていくよう応援していきますし、ハルさんにとって特別な視聴者になれたらなあなんて。ふふふ!(@rikka)
「ありがとうございます。でも僕なんてまだまだですので、何かあれば遠慮なく言ってくださいね……?」
>ふふっ、任せてください! ああでも、まだしばらくは誰も来ない方がいいかな? 私のことも知ってもらって仲良くなっていきたいですし!(@rikka)
さっきからサブクエストの最初の会話の画面から動いてなかったりする。
「リッカさんのこと……えっと、生徒会やられてるんですよね……? お笑いの大会があるとか」
恐る恐る、あくまでリッカさんから聞いた情報だけを質問する。
>そうです。覚えててくれてて嬉しいです。生徒会に入ったはいいものの雑用ばっかりで……。お笑い大会の会場の設置とか、後片付けとかもやらなくちゃで。ハルさんにだけ言いますけど、私の幼馴染の女子もその大会に出るんですよ。しかも男子と組んで! あった、アーヴァンチュールっていう名前! ふふ、秘密ですよ?(@rikka)
ああ……とんでもないことが判明してしまった。
勘ぐるつもりが、リッカさん自ら確定情報を与えてくれるなんて。
今日より俺は、二つの顔を持って昼と夜の生活をすることになるのだった。




