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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第一章 東高等学校はじまり編

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29話 アーヴァンチュールはストロベリーの香り

「梶くん! ここです!」


 最近開店したというコーヒーとケーキが自慢の喫茶チェーン店。

 店内に入ると、温められた空気と一緒に甘い匂いとコーヒーの香りが鼻の奥を刺激する。

 見渡す限りクリスマスモードだ。

 赤と白、緑の装飾でパーティ会場みたいだった。


 とってつけた駅前に買い物にいくという嘘なんて俺は忘れ、白井さんに誘われるがまま一緒にお茶をするという夢みたいな状況に置かれている。


「E-1のネタは今考え中でして、もう少しでまとまりそうなんです。そしたら、うちが考えたネタを二人で磨いていきたいなって考えてて」

「白井さんに頼ってた僕がいます……。漫才の動画とか見て勉強はしてるんですけど、一つのネタとなると、どう考えていいのかまったく想像つかなくて」


 運よく空いていた中央の二人掛けの席に向かい合わせになって座る。

 話す内容はお笑いのこと。

 けっしてやましい考えなんてしてないぞ。

 これはあくまで作戦会議。デートなんかじゃない。ないぞ。


「へへ。そこはうちに任せてください! お笑いやろって誘っておいて、ネタは考えてね、なんてことはしません! アイデアあればもらえると嬉しいですけど!」


 俺はよくわからなかったのでレギュラーコーヒーを注文し、白井さんはクリスマスストロベリーなんたらラテというカタカナドリンクを注文する。


 赤いのホイップの上にチョコチップがふんだんに盛り付けられ、飲むというよりかは食べるに近いなと思った。美味しそう。


「なんだかデートみたい!」

「そそそ、そうですかね!?」


 頭の中を読まれたみたいで、一気に汗が額に滲んでくる。「暑いですね」と上着を脱ごうとしたがすでに脱いでいた。

 それを空振りした俺を見て白井さんの顔が緩む。


 クリスマスストロベリーに突き刺さった太いストローは、ホイップの波をぐるぐると泳いでいた。両手で持ってストローで吸う瞬間は見ちゃいけない気がして、ごまかすようにコーヒーを口に含む。

 苦いのは得意じゃない。砂糖とかミルクを入れたかったけど、勝手がわからなくてブラックになってしまっている。


「梶くん。ネタ帳、まだ書いてますか?」

「はい。大したことないですけど……思ったこと書いてます」

「嗚呼、今BAN中以外にも増えました?」

「増えましたけど、なんかネタ帳というよりかは日記みたいになっちゃってます」

「あはは、見たい見たい」


 くすくすと白井さんは笑う。

 まるで二人だけが知っている秘密をこっそり笑っているかのようだ。


「梶くんの廊下での言葉……」


 喋り出してすぐに白井さんの言葉が途切れた。

 店内が熱いのだろう、頬っぺたがほんのり赤くなって少し釣り上がった目が俺をじっと見つめている。


「梶くんが思ってること聞けて嬉しかったです。うちも今、最っ高に楽しいですよ。あっ、盗み聞きじゃないですからね! 梶くんたちが気づかなかっただけなんですから」


 文化祭の後、白井さんと出会って何度心臓が爆発しそうになっただろうか。


「うち、お笑い芸人になるのが夢なんです。うちのキャラ見たらそのまんまですよね、あはは。実はうちの親、芸人やってたんですよ。二人で組んで漫才してました。夫婦めおと漫才って知ってます?」

「男女コンビのこと……でしたっけ?」

「はい。そんな感じです。高校で付き合っていた頃から組んでいて、結婚しても二人でやってたんですよ」


 と言って、どこか寂しそうに笑って見せる。


「うちが小さいころはよく舞台を見に行ってました。今はもう二人とも引退してて、共働きしてるんですけど」

「芸人さんで、しかもずっと二人で組んでたって……ロマンがあるというか」


 素直にそう思ったことを口にする。


「あはは、ありがとうございます。当たりもしなかった芸人でしたけど。でも、うちは大好きで、めちゃくちゃおもしろかったんですよ!」


 白井さんのお笑いのルーツは両親にあったのか。

 元芸人のお父さんとお母さん。それにお笑い好きの白井さん。

 きっと賑やかな家なんだろうなあと想像する。


「って、へへへ。梶くんこと聞いたから、うちのことも話そうと思ったんですけど、思いのほか赤裸々に喋っちゃってましたね。恥ずかし」


 パタパタと両手で顔を仰ぐ。綺麗に揃えられた前髪が力なく揺れる。


「E-1で優勝するのももちろん目標ですけど、もう一つ大きな目標があるんです」


 話を区切るように、白井さんの表情は明るくなる。


「うちが今目指してるのは、東高校一面白い高校生になって、その勢いのまま全国一面白い高校生になること! なんです!」

「ぜ、全国……!?」

「です! うちの体は小さいですけど、夢はおっきく! でっかいんです!」


 さっきまでの白井さんの雰囲気を切り替えるように、ストロベリーホイップのドリンクを持ち上げる。


「って、冷たあっ!?」


 汗をかいたカップの表面からポタポタと雫が白井さんの顔に落ち悲鳴を上げた。


「へへ……、まあうちはこんなとこ、です」


 ごしごしと制服の袖で額を拭いながら白井さんは苦笑した。


「ほんまはもっと前に言いたかったんですけど、これもうちのダメなところだってわかってます。……全国一を目指してて、夢はお笑い芸人! なんかなやつと一緒に組まされてるってわかったら、変なプレッシャーになったりしないかなって。そう思ったら、言えなかったんです」


 白井さんは前髪をいじりながら体を丸める。

 叱られている生徒みたいだ。


「全国は……びっくりしましたけど、それ以外は雰囲気で伝わってましたからそんな気にしないでください」


 お笑いが好きで、自らわらおー会を立ち上げるほどだ。

 夢はお笑い芸人と言われても納得感しかない。

 俺はなんとか白井さんをなだめようと言葉を探す。どっかで見たな、この光景。


「思えば声を掛けたときもそうですよね。誘って強引に引っ張るくせに、拒まれるのを怖がってるとか……。さんざん巻き込んだあとに伝えるって、確信犯的で、めっちゃダメな子ですよねうち? う、ああ!」


 あ、来る。

 予想ができるようになったのは白井さんとの仲が深まったからだと思いたい。


「梶くん言ったってください! 白井、いいように連れ回してんじゃねえぞって! お前とはE-1限りの仲だって! ――うはぁっ! そんな言われたらめちゃ落ち込むうう!! 解散しないって言いましたよね!?」 


 なんとなく白井さんの行動パターンが掴めてきた気がする。

 がむしゃらに突っ込んで凹んですぐ元気になる。

 きっとその繰り返しで彼女は成長してるんだ。


「はははっ」


 何人もいるみたいに変化する白井さんの表情とテンション。

 ほんと、俺には真似できない。

 だからかな、惹かれている自分がいる。


「あ! 今笑いましたよね梶くん!」 

「す、すいませんっ、でも笑うなって方が無理ですよ……」

「梶くん、実はいじわるだ!」


 俺もこんな風に自分を表現できたら、今まで見てきた景色は異世界みたいに変わるんだろうな。


 もうこうなったら明日の踊り場もアドリブで行っちゃおうか!

 なんて柄にもないことを思っていたら、俺と白井さんのスマホが同時に鳴った。


「あ、ファナちからだ」


 わらおー会のチャットを開く。


『E-1の順番!! 大変!!!!』


 リンクを添付してくれていたのでページに飛ぶ。

 全12組のネタ披露順が発表されていた。


 1.ココナッツ(わらおー会)、トップバッターは女子さんだ。



 そして――、一番最後。



 12.アーヴァンチュール(わらおー会)。



 さっきから心臓の音がうるさい。

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